書いてあること
- 主な読者:義務化されたHACCPに対応したい経営者
- 課題:中小企業がHACCPに対応する際の進め方、課題を知りたい
- 解決策:実例を基に、自社での対応の参考にする
1 2021年6月、ついにHACCP義務化!
HACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)とは、食品事業者が自ら原材料の受け入れから製造、製品の出荷までの全ての工程において、食中毒などの健康被害を引き起こす可能性のある危害要因(ハザード)を科学的根拠に基づいて管理する方法です。このHACCPが、2021年6月についに義務化されます。
HACCP義務化の対象範囲は、食品製造・加工業者や、飲食店・小売店など、一部を除き、食品関連のほぼ全てとなります。対象外となるのは、缶詰やインスタントラーメンだけを販売する店舗など、食品衛生上のリスクが低い事業者に限られます。コロナ禍で一気に普及したフードデリバリー事業者の一部でも、加盟する飲食店に対してHACCPに基づいた衛生管理を推進する動きが出てきています。
「知っているけど、対応はまだ」ではもう済まされないHACCP。本稿では、HACCP対応の実例やポイントなどを紹介します。
2 HACCP対応のポイント
HACCP対応を支援するコンサルタントによると、中小企業がHACCP対応の際に直面する課題としては、以下のようなものがあるそうです。
1)課題
- 小規模の食品等事業者の工場の場合、大手の食品等事業者の工場に比べ、各工程の動線が整理されていなかったり、作業する従業員が同一で、同じ器具を別工程で使い回したりすることがあるため、衛生管理の実施が難しいことがある。
- こうした小規模の食品等事業者は、各工程の動線以外にも、顧客と従業員のトイレの分離や、危害を及ぼす恐れのある微生物や異物の空気を介した食品への付着を防ぐための陽圧室の導入の有無など、ゾーニングに関する課題を抱えている場合が多い。
2)HACCP対応の秘訣
- まずは経営者が旗振り役となり、HACCP対応チームのリーダーを指名し、ともに対応計画を策定する。策定した対応計画を現場に落とし込むため、現場の従業員からリーダーを指名し、実際の業務の中で回していけるのかを確認・調整することが重要。
- 従業員にHACCP対応を定着させるためには、HACCPの基本や各業界団体が作成した手引書を理解する必要があるが、実際に業務中に学ぶ時間を取ることは難しい。そのため、シフトを調整して一部の従業員ごとに研修の時間を設けたり、手引書を見ながら実際の業務を行って、改善点をその場で洗い出したりするなどの工夫が必要。
3)実際の例
コンサルタントによると、対応を進める流れとして、次のような実例がありました。
【おこわ・団子製造業者(従業員約10名)】
- HACCPチームの編成(社長、正社員1名、パートのリーダー1名の計3名)
- 業界団体が作成する手引書を参考に、実際の作業の洗い出し
- 作業手順のマニュアル化(手順を口頭でしか説明、確認できなかったため)
- 作業の流れに沿って、実際にどんな異物混入リスク・微生物汚染リスクがあるのかを確認
- 明らかになった異物混入リスク・微生物汚染リスクに対して、科学的な観点から対処法を検討する(熱処理、設備の増設など)
- 上記の対処法が効果があるのかを、食品検査センターなどで科学的な観点から検証する
- 上記の対処法の効果を確認できた場合、全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備を行う
- 全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備が実際の業務の中で無理なく進めていくことが可能であれば、HACCP認証機関に申請するための書類を作成する
3 小規模事業者はHACCP対応を簡略化できる
実際のHACCP対応に取り組む際には、大規模事業者や、と畜場などは、「HACCPに基づく衛生管理」に沿った衛生管理を行います。また、以下のような中小規模の事業者(小規模事業者)は、各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化された手法「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に沿って衛生管理を行います。
- 食品を製造し、または加工する事業者で、店舗に併設した設備で食品を製造・加工した食品を小売販売する場合
(例:菓子の製造販売、豆腐の製造販売、魚介類の販売など) - 飲食店や喫茶店などの運営を行う事業者、その他の食品を調理する事業者
(例:そうざい製造業、パン製造業(消費期限がおおむね5日程度のもの)、学校・病院向け以外の集団給食施設など) - 容器包装に包装された食品のみを保存、運搬、販売する事業者
- 分割して包装された食品を小売販売する営業者
(例:八百屋、米屋、コーヒーの量り売りなど) - 食品を製造、加工、保存、販売、処理する事業者で、食品などを取り扱う従業員数が50人未満の事業場(食品の取り扱いに直接従事しない者はカウントしない)
厚生労働省では、業態ごとの手引書を公開しています。
■厚生労働省 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(五十音順)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00005.html
4 大企業も支援に乗り出す
農林水産省が2020年6月に公表した調査(「食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査結果」)によると、2019年10月時点でHACCP対応済みと回答したのは、全体の22.5%にとどまっています。その一方で、「導入については未定」が18.9%、「HACCPに沿った衛生管理をよく知らない」は19.7%に上っています。義務化が間近に迫っているにもかかわらず、対応がスムーズに進まない状況を受けて、大企業が導入支援に乗り出しています。
1)中部電力ミライズ:HACCP対応支援コンサルティング
中部電力グループの電力・ガス小売事業者の中部電力ミライズは、愛知県名古屋市内の食をテーマにした複合施設「BAUM HAUS(バウムハウス)」内でHACCP対応を支援するコンサルティングサービスを行っています。
ここでは、食品事業者の困り事をサポートする「Food DX Salon」を設け、HACCPに関する情報提供やセミナーの開催、コンサルティングサービスの提供を行っています。
2)パナソニック産機システムズ:HACCP対応の作業省略化サービス
パナソニックグループで業務用機器などの販売・メンテナンスを行うパナソニック産機システムズは、HACCP対応に必要な文書・帳票の作成や、従業員の健康状態、機器の温度計測などの記録を支援するクラウドサービス「エスクーボフーズ」を提供しています。
エスクーボフーズは、HACCP対応で必須となる日々の温度管理・データの保存などの煩雑な作業を自動化し、クラウド上で保存することができ、データの見える化や作業効率化が期待できそうです。
以上(2021年5月)
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画像:stocksnap