書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい林業経営者
  • 課題:業務の効率化、人手不足などを解消するための新規事業を行いたい
  • 解決策:事例を参考に、AIやドローンなどを業務に取り入れる

1 テクノロジーで林業の課題を解決「林業テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。

第2回の今回のテーマは、林業が直面する課題を解決するための「林業テック」です。具体的には、

  • ドローンを使った森林の資源量調査
  • 地理情報システムを基にAIが分析する、森林の成長予測
  • VR(仮想現実)を取り入れた労働災害シミュレーション
  • 製材所とユーザー間で木材の売買を行うプラットフォームの運営

といった取り組みを紹介します。

2 「林業テック」取り組み事例

今回登場するのは、ドローンや地理情報システムを用いて森林の調査や成長を予測するもの、伐採時に木材を自動計測してより分けるものなどです。

これまでは、山深い森林に人が立ち入り、人力で伐採や運搬などの重労働をしていましたが、こうしたテクノロジーを導入することで、次のような変化を起こすことができます。

画像1

1)ドローン×森林調査

従来の森林調査では、調査対象の山に人が入って、樹木の本数や大きさなどを計測していました。この方法では、労働力や時間がかかるだけでなく、整備されていない斜面を移動することで滑落や遭難などのリスクもあります。また、調査員や山の所有者の高齢化に伴い、調査が行えずに山が荒れ放題になるという課題もあります。ドローンを飛ばすことで、こうした労力、時間、リスクなどを低下させることができます。

位置情報などを利用したITサービスを提供するジオサーフ(東京都)は、林業関連の商社の竹谷商事(大阪府)と共に、AIによって自律飛行が可能なドローンを用いた森林調査(境界線、樹種、大きさなどを計測する調査)のサービスを提供しています。

空間認識能力に優れ、狭い箇所での点検などに適したドローン「SkydioJ2」を用いることで、樹木が密集した山中でも、障害物を自動で回避し、画像による森林調査を行うことができます。調査で得られた画像データは、三次元モデルとして出力でき、計測誤差も公共測量の規定内に収まったといいます。

2)地理情報システム(GIS)×AIで森林を予測

「森林大国」ともいわれ、森林が国土の70%以上を占めるフィンランドでは、AIを用いて森林の成長予測を行うサービスが登場しています。CollectiveCrunch(コレクティブ・クランチ、フィンランド)は、地理情報システム(コンピュータ上でさまざまな地理空間情報を重ね合わせて表示するためのシステム)を基に、長期的に蓄積され日々更新している衛星画像や地形データ、気象データなどを取得。それをAIが解析し、対象エリアの森林資源の質や量を予測します。

この「Linda Forest(リンダフォレスト)」というサービスは、対象の森林がどのくらいの二酸化炭素(CO2)を吸収しているかも測定できるため、排出権取引にも効果的なサービスとされています。さらに、高解像度の画像から土壌の水分量や温度などを分析することで、潜在的な災害リスクを把握することもできます。

現時点で、同社のサービスは日本では提供されていませんが、他のヨーロッパ諸国との取引もあるようです。フィンランドと同様に国土の多くを森林が占める日本でも、同様のサービスの登場が期待されます。

3)ドローン×木材の運搬

ドローンの活用は、木材(苗木)の運搬でも導入が始まっています。これまでは重い苗木を担いで山に登っていた造林作業の効率化や、運搬者が腰を痛めるなどのリスクを抑えることができます。

住友林業(東京都)は、産業用ドローンの製造・販売などを行うマゼックス(大阪府)と共同で、林業に特化した苗木の運搬ドローン「森飛(morito)」を開発しました。15キログラムまでの重量を持ち上げ、目的地まで最短で飛行できるため、従来の人力で運ぶ場合と比べた作業効率は8倍になるといいます。視界の悪い山中で飛行させるため、高精度のGPSを搭載。飛行ルートの設定や、ルートに沿った自動飛行も可能です。

同様の実証実験を林野庁も行っており、1万1920本の苗木の運搬から植栽までにかかった工数は、ドローンの場合が58.5人日、人力の場合が74.5人日と、16人日程度の省力化が実証されました。

今後の課題としては、運搬できる重量の増加や、重い苗木を持ち上げたまま機体を制御する技術の向上などが挙げられます。

4)高性能林業機械×木材データの見える化

建設機械メーカーは、伐採した木材の品質や寸歩などを自動的にデータ化し、業務の効率化につなげる性能を持たせたハーベスタ(伐採から集積まで行う機械)などの「高性能林業機械」を販売しています。こうしたデータをサプライ・チェーン全体で共有することで、森林資源の調査から需給のマッチングの円滑化などが期待できます。

小松製作所(東京都)が開発した造材用のハーベスタ「C93」は、造材時の木材のデータ(長さ、グレードなど)を集計。データはクラウドサービスLandlog(ランドログ)を利用して「見える化」しています。日々の造材データを収集することで、作業の進捗確認や、従来は現地で人力で行っていた木材の検木が省力化されます。

住友建機(東京都)が提携するKESLA社(フィンランド)のハーベスタにも、ICT機能が搭載されています。このハーベスタでは、あらかじめ切断する長さや直径、価格も設定できます。造材後は、樹種や寸法、用途などまでデータ保存できます。

5)VR×木材運搬

従来、木材を積み込むクレーン操作は、クレーンに外付けされているシート(トップシート)で作業していました。野外での長時間の作業となることや、クレーンと運搬車両の移動時に転落するなどの事故が課題となっています。

この課題を解決するのが、フィンランドのHIAB(ヒアブ)が開発したVR(仮想現実)ゴーグルを導入した木材運搬用のクレーン「HiVision」です。木材輸送用のトラックに乗ったまま、周囲270度の視界を持つVRゴーグルで周囲を確認しながら、手元の操作スティックでクレーンを操作して木材の積み込みができます。

6)ウェブサイト×売買マッチング

木材を販売する分野にも林業テックは広まり始めています。国産の木材を用いた製品の製造販売などを行うフロンティアジャパン(東京都)は、製材会社と買い手をマッチングさせるウェブサイト「KIBA.com(キバドットコム)」を運営しています。

同社は、林業事業者の課題の一つに、売り手と買い手の情報不足があると考えました。売買双方が情報交換でき、開かれた取引を実現できる業界初といわれるプラットフォームを作ることで、業界の活性化を狙っています。

ウェブサイトでは、全国の製材会社が原木や板材、内装材などを販売し、個人を除く木材のユーザーが購入できます。また、購入後、希望の寸法に製材や乾燥などの処理を依頼することも可能です。

7)VR×安全教育

自然環境に関するコンサルティングを行う森林環境リアライズ(北海道)は、VRを使って、林業で発生する労働災害をシミュレーションし、安全教習に役立てる「林業労働災害VR体験シミュレーター」を提供しています。

林業に従事する際の、伐倒方向未確認、幹割れなど代表的な8つの労働災害の事例をVR映像で体験することができます。また、トレーニングモードも収録されているため、安全な作業手順を確認しながら安全教習を行うことができます。

3 林業テック関連のデータ:ニーズと課題、需給など

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「林業テック」導入の動きが始まっています。林野庁の資料から、求められているニーズや課題、需給などの状況を見てみましょう。

1)林業テックのニーズと課題

林野庁では、最新技術を導入した林業「スマート林業」を進めるため、全国の森林事業者などに対してマッチミーティングを行っています。そのマッチミーティングの参加者に対して行ったアンケートによると、スマート林業で今後取り組みたい分野や、スマート林業を実施する際の課題には次のようなものが挙げられています。

画像2

画像3

この調査によると、今後取り組みたい分野として、「森林情報の高度化・共有化」が32%、「施業集約化の効率化・省力化」が26%と回答の上位を占めています。これは、ドローンやレーザーを利用して資源量を調査し、それの共有や、森林の性質や目的ごとに区分けするゾーニングなどに活用したいという意向がうかがえます。

また、実施する際の課題として、「関係者間の合意形成」が79%、「関係者の連携体制の構築」が71%、「人材育成」が63%と過半数を超えています。自社以外に関係する企業、機関と共にスマート林業を進めながら、自社内でも最新技術を使いこなせる人材の育成が課題と考えているといえそうです。

2)令和2年木材需給表

農林水産省「令和2年木材需給表」によると、木材需給の推移は次の通りです。

画像4

この統計によると、2020年は国内消費(需要)が約7143万立方メートル、輸出(需要)が約301万立方メートルで推移しています。一方、国内生産(供給)は約3115万立方メートル、輸入(供給)は4329万立方メートルとなっています。

国内消費が約7000万立方メートル前後で推移している一方、輸入していた外国産の木材が減少しています。その減少分を埋めるように国内生産がここ10年で約1.6倍に増加しています。

また、供給量は少ないものの、輸出の需要が約1.9倍に増加しており、国内外で日本産の木材のニーズが高まっているといえそうです。

3)森林・林業統計要覧2021

林野庁「森林・林業統計要覧2021」によると、林業機械の所有状況および高性能林業機械の普及状況は次の通りです。

画像5

画像6

この統計によると、林業機械は、9年の間にほぼ半減しています。一方、高性能林業機械の所有台数は、ハーベスタやフォワーダなどが右肩上がりで増加していますが、タワーヤーダ、スキッダは横ばいや減少しています。

これまでの主流だった人力による林業機械が徐々に減少し、より効率的に作業を行うことができる高性能林業機械へのシフトが進んでいるといえそうです。

以上(2022年7月)

pj50511
画像:Milan-Adobe Stock

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です