書いてあること
- 主な読者:ホームセンターの開業を検討する経営者
- 課題:現在の市場規模、注意すべき点などが分からない
- 解決策:市場規模を把握し、既存店の差異化策を参考にする
1 DIY市場の動向
1)ホームセンターとは
日本標準産業分類によると、ホームセンターとは、「主として住まいの手入れ改善にかかる商品を中心に、家庭用品、園芸用品、電気機械器具、家具・収納用品、建築材料などの住関連商品を総合的、系統的に品ぞろえし、セルフサービス方式により小売りする事業所で、店舗規模が大きい事業所をいう」と定義されています。
2)売上高および店舗数の推移
日本ドゥ・イット・ユアセルフ協会(以下「日本DIY協会」)の推計によると、ホームセンターの売上高および店舗数の推移は次の通りです。
日本DIY協会の推計によると、ホームセンター業界の売上高は2003年以降、業界全体で約3兆9000億円前後で、ほぼ横ばいの状態が続いています。
商品ジャンルごとの売上高では、ニトリやイケアなど専門店や、ドラッグストアなど他業種との競合により、家具・収納用品や家庭用品の売上高は減少する傾向にあります。
加えて、少子高齢化の影響により地方の人口減少や都市部への人口集中が進み、戸建て住宅からマンションへの移行が進むなど、住環境が変化することによって、長期的にホームセンターの売上高は減少するとみられています。
ホームセンター大手各社は、これまで特定地域を中心にドミナント展開を行ってきましたが、業界の売上高の伸びが鈍化する中、これまで出店を行ってこなかった他地域への新規出店を進めています。店舗数の増加に伴い競争が激化し、1店舗当たりの販売額や売り場面積当たりの売上高も減少しています。
3)大型店出店とホームセンター業界の寡占化
ホームセンターが取り扱う商材は他の業態に比べ差異化が難しく、同質化競争に陥りやすいといえます。品ぞろえを充実させることが、他店との差異化につながるため、大手各社は大型店舗を新規出店し、集客力を確保してきました。こうした大手各社の新規出店により、同一商圏にあった中堅・中小のホームセンターの淘汰が進みました。その結果、現在、売上高が1000億円を超える上位9社で、売上高ベースで業界全体の約7割を占めるようになっています。
ホームセンター売上高上位9社の売上高、店舗数は次の通りです。
2 ホームセンター各社による主な取り組み
ホームセンター各社は、他社との差異化戦略に取り組んでいます。主要な取り組みには、次のようなものがあります。
1)商品力の強化
ホームセンター各社は、プライベートブランド(PB)商品の開発を進めています。スケールメリットを活かせることなどから、大手各社では、今後もPB商品の点数を増やし、全商品に占めるPB商品の売上構成比率を高める方針を掲げています。
いち早く2000年代から、自社で製造から小売りまでを行うSPA(製造小売り)化を進めたカインズによる差異化戦略の成功も、各社による取り組みを進める後押しになっているとみられます。
2)新たな店舗開発
ホームセンターの中には、新しい店舗開発を行うことで、集客力の向上を目指す動きがあります。例えば、食品スーパーとの併設店や、ホームセンターを中心としたショッピングモール型の店舗開発です。食品などを取り扱う店舗と併設することで、集客力を高めるとともに、日常的に利用してもらうことで来店機会を増やす狙いがあるようです。
これまでホームセンターは、主に郊外のロードサイドに自動車で来店するファミリーを想定して大型店を開発してきました。しかし今後、地方人口が減少し都市部への人口集中が進むと予想される中、都市生活者など新たな顧客をターゲットとする小型店の開発も進められています。
また、従来のホームセンターは、一般消費者向けと事業者向けの商品が同じ売り場で販売されてきました。しかし、双方で商品に対するニーズが異なることや利用シーンが異なることなどから、建設業者などの事業者を対象とする小規模商圏を想定した小型店舗の開発が進められています。
3)新たなマーケット開拓
ホームセンターの中には、より専門性の高いサービスに注力することで、新たなマーケットを開拓しようとする取り組みを進めているところもあります。例えば、コメリでは既存のホームセンター事業に加え、農家などへの支援サービスを打ち出しており、農業従事者向けに特化したサービスを展開することで、マーケット開拓に取り組んでいます。
また、この他にも、ペット販売に関する業界シェアの拡大を狙い、他の事業者と提携するケースなども見られます。
大手ホームセンター上位9社の主な対応は次の通りです。
この他にも、大手各社では、ECサイトと実店舗との連携強化や会員サービスの充実、既存店の活性化・効率化、物流網の整備などに取り組むとしています。
専門誌などによると、今後、例えば空き家対策におけるDIYへの需要の高まりや、余暇時間が増加することで多様なレジャーへの需要が生まれる可能性もあり、ホームセンター各社にはこうした機会を捉え新しいビジネスモデルを構築することが求められます。
3 コーナン商事の取り組み
1)コーナン商事の現状
コーナンを運営するコーナン商事(大阪府堺市)は、主に近畿圏を中心に2019年2月末時点で全国に356店舗を展開しています。同社の店舗には、一般消費者向けのホームセンター事業である「コーナン」、建築、塗料、作業用品などのプロ向けの工具や資材を取り扱う「コーナンPRO」などがあります。「コーナンPRO」では、現場作業に向かう前に利用してもらうために早朝から営業を行うなどしています。
同社のセグメント別売上高の推移は次の通りです。
また、同社は2018年4月に九州地区を中心に、食品スーパーとホームセンターを併設した店舗の展開を行う、ホームインプルーブメントひろせ(大分県大分市)と資本業務提携し、九州地区での出店を進めました。
2)今後の取り組み
コーナン商事は、2018年4月12日に2020年を目標とする第2次中期経営計画「もっと大好きや!!コーナン」を策定しています。計画では、売り上げ規模を拡大して高収益を追求するとしています。そのための重点戦略として、商品戦略、人事戦略、投資戦略、財務戦略の4つの戦略を掲げ、特に商品戦略を最重要として位置付けています。商品戦略の具体的な内容は、次のようなものです。
・PB商品開発体制を強化し、売上構成比40%を目指す
・「誰に」「何を」販売するのかを明確に設定し、魅力あるPB商品の開発を進める
これにより、同社の商圏シェア率を向上させるとしています。
同社は、2017年4月に小田急電鉄の子会社でホームセンター事業を行っていた「ビーバートザン(神奈川県厚木市)」、2019年4月にプロ顧客向けの会員制建築資材卸売店舗「建デポ(東京都千代田区)」の株式を取得して子会社としています。同計画において、3年間で50店舗をめどに出店を進めるとしており、第2の商圏と位置付けた東京などの首都圏での出店を進める方針を打ち出しています。
この他にも、2019年4月1日より、楽天が運営する共通ポイントサービス「楽天ポイントカード」を導入し、「ホームセンターコーナン」「ホームストック」「コーナンPRO」で共通するポイントサービスの利用を可能にしました。また、同日より同社独自のチャージ式電子マネー「コーナンpay」を全店で導入しています。こうした取り組みにより顧客の利便性を高めるとともに、業務の効率化を目指すとしています。今後は、こうした顧客情報を活用したサービスの充実を進めるとみられます。
同社は、2019年5月に公表した長期ビジョン「New Stage 2025」の中で、PB比率の向上とともにSPA化の推進、ホームセンター業界に限らない商品供給事業の拡大、ECとリアル店舗の連携による利便性の向上を打ち出しています。また、同ビジョンでは、2016年にベトナムに出店した後、2025年までにベトナム国内に30店舗展開することを目標として掲げています。
4 参考:統計資料
「ホームセンター経営統計 2019年版」(日本ホームセンター研究所、2019年4月12日)
■日本ホームセンター研究所■
http://www.hci.co.jp/
以上(2019年10月)
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画像:unsplash