書いてあること
- 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい農林水産業者
- 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
- 解決策:事例を参考に、生産者が生産だけでなく、販売・流通までの新技術を取り入れる
1 テクノロジーで6次産業化の課題を解決「6次産業化テック」
近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。
- 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
- 変化する自然環境への対応
- 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲・販売体制の確立
このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。これまで4回にわたって第1次産業である農林水産業に関する最新テックを紹介してきました。最終回となる第5回は、農林水産業者が、6次産業化を目指す中で直面する課題を解決するための「6次産業化テック」です。具体的には、
- POSシステムを取り入れたリアルタイムの情報連携で、補充漏れや誤発注を回避
- 産直サイトなどを通じた消費者とのコミュニケーションで中間マージンを削減
- クラウドファンディングを活用した資金調達とファンづくり
といった取り組みを紹介します。
2 「6次産業化テック」取り組み事例
1)生産者・食品加工業者・飲食店×POS連携=フードロスの回避
ブエナピンタ(徳島県鳴門市)が運営する6次化支援施設「THE NARUTO BASE(ナルトベース)」は、生産者による農産物や加工品の直売所を提供している他、生産者が持ち込む農産物の加工場やレストランを展開しています。ナルトベースは販売情報を個別に管理するPOS(Point Of Sales=販売時点情報管理)システムを取り入れて、生産者や施設内の加工場、レストラン、直売所、契約レストランなどとリアルタイムの情報連携を行っています。当日の追加補充の必要性や、週ごとにどのくらい仕込めばよいのかが分かるので、「売れ筋」商品を早期に把握できるとともに、補充漏れや誤発注などのロスが回避できます。
また、加工場は、規格外で既存の流通では廃棄されてしまう農作物や魚介類を、近隣の生産者から買い取り、新鮮なままペースト加工・瞬間冷凍などにより商品化します。商品は首都圏の契約レストランをはじめ、全国の飲食店や個人に販売します。地元の加工場で新鮮な食材を低コストで調理することで、人件費や土地代の高い首都圏で下ごしらえをするコストの削減につながります。地元生産者にとっても、もともと廃棄するものが商品として販売できるので、利益になる仕組みです。
2)生産者と消費者×ネットワーク=消費者との直接のコミュニケーションの実現・配送のコストダウン
ビビッドガーデン(東京都港区)は全国の生産者から、消費者が直接食材を購入できるオンライン直売所「食べチョク」を運営しています。通常の流通では、生産者が作った食材は農協がまとめて購入し、卸売―仲卸―小売店―消費者といった流通ルートを通すため、生産者の取り分は小売価格の30%ほどといいます。その一方で「食べチョク」は、生産者がサイトに自分のページを作り、値段も自分で決めて、直接消費者へと送ります。そのため、売り上げ手数料である20%を差し引いた80%ほどが粗利益となります。
「食べチョク」は、収穫から最短24時間以内に発送を行っているので、鮮度の高い食材が届くことや、農家が自分のページを持つことで、生産者と消費者が直接コミュニケーションできることが特徴です。「食べチョク」の登録ユーザー数は70万人、登録生産者数は7500件に上ります(2022年7月22日時点)。
生産者と直接つながることで、消費者は「生産者とつながっているから安心できる」という声が多いそうです。また、生産者は「こういう料理に使いやすい」といった情報や、手書きの「ありがとう」メッセージを入れるなどして、ファンづくりをしているといいます。
やさいバス(静岡県牧之原市)もECサイト「やさいバス」を通して地域内の生産者と消費者を結び付けていますが、独自の配送システムで野菜を効率的に流通させる仕組みも提供しています。
生産者は「やさいバス」を利用することで、受発注の記録が流通の過程で自動的に残るため、伝票を書いたり、集計したりする必要がなくなり、事務作業が大幅に効率化したそうです。また、通常の市場流通では、農家に価格決定権はありませんが、「やさいバス」では、農家側が価格を提示できるので、こだわって作った野菜を、適切な価格で早く消費者の元へ届けることが可能です。サイトにはSNS(交流サイト)もあり、そこで農家と購入者が直接コミュニケーションできます。例えば、こだわりの農産物の栽培農家を探す際にSNSを活用し、好みの農家と出会い、土壌や栽培方法などを聞くことで付加価値に気付いたり、農家側も購入者の声を聞くことで、栽培する野菜を見直したりすることもできるようになったそうです。
同社は、地域内の複数の場所に「バス停」を開設。消費者から注文を受けた農家が最寄りの「バス停」に野菜を持ち込むと、当日中に同社の地域巡回冷蔵トラックが消費者の最寄りの「バス停」に配送します。利用料は、2022年9月時点で農家の販売手数料が売り上げの15%で、購入者の配送手数料が1ケース385円(税込み)です。従来は、農家が宅配事業者を利用して取引先に配送しようとすると、配送料が野菜と同程度になることもあったので、大幅にコストダウンできたそうです。
3)自治体の支援×クラウドファンディング=資金調達とファンづくりに貢献
鹿児島県は2021年に、県内の6次産業化に取り組む農林漁業者や県産農林水産物の食品加工事業者に対して、「クラウドファンディング」の支援を行いました。17事業者が参加し、全事業者が目標金額を達成できました。
同県は参加した事業者に対し、2回の活用セミナーと、ウェブサイトの作り方や返礼品の設計などをオンラインによる個別指導を実施しました。それを基に、参加した事業者の多くがウェブサイトに、「顔写真があり、自分の気持ちや生い立ちを説明した自己紹介」や「商品へのこだわり」を掲載しました。その他、「鹿児島県ならではの歴史や地域性」「事業者の家族やグループメンバーの紹介」「レシピ集」など、事業者と商品を関連付けてストーリー化したPRでファンづくりにつなげました。
4)取引業務アプリ×LINE=数多くの取引先とのやり取りを効率化
Kikitori(東京都文京区)は、スマホやタブレットなどの端末を使って卸売事業者や仲卸業者といった、流通業者と生産者の取引業務が効率化できるアプリ「nimaru」を提供しています。
生産者は、「nimaru」を利用する流通業者とLINEで友だち登録するだけで、新たな流通業者とつながることができるのが特徴です。一方、流通業者の中には、営業担当者1人につき100件を超える生産者・出荷者と取り引きをしているところもあります。生産者ごとに電話、FAX、メール、SMSといった連絡手段が違うと、日々相場が変化する市場取引では、集計や報告作業が煩雑になり、報告漏れやミスの原因となります。
しかし、流通業者と生産者の双方が「nimaru」を利用すれば、入力した入出荷予定情報は、即時に流通業者と生産者の間で共有されるので、情報集約のための作業負担が大幅に軽減されたといいます。
3 6次産業化テック関連のデータ:ニーズと課題など
1)市場は緩やかに拡大
これまで見てきたように、さまざまなシーンで「6次産業化テック」導入の動きが始まっています。農林水産省などの資料から、求められているニーズや課題などの状況を見てみましょう。6次産業化の農業生産関連事業の年間総販売金額は2018年度まで緩やかに拡大していましたが、2019年度は、前年度と比べて267億円減少し、2兆773億円となりました。
2)6次産業化に取り組んだ事業者の売上額は増加傾向となる
政府は2010年3月に「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法)を成立させました。
農林水産物などの生産や加工、販売を一体的に行う事業計画を「総合化事業計画」と呼び、認定を受けた事業者は「総合化事業計画認定者」として、無利子融資資金の貸し付けや新商品開発、販路開拓などに対する補助、農林水産省による媒体掲載、仲間づくり、情報提供などの支援を受けることができる法律です。
総合化事業計画の認定件数は2020年度末時点で2591件となりました。農林水産省が行った認定事業者を対象としたフォローアップ調査によると、5年間総合化事業に取り組んだ事業者の総合化事業で用いる農林水産物等と新商品の売上高平均額は、増加傾向となっています。
以上(2022年10月)
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