書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 役員報酬規程作成時の留意点

1)役員報酬決定の手続き

「役員報酬」は一般的な呼称であり、会社法では「取締役(会計参与、監査役)の報酬等」、法人税法では「役員給与」とされています。この記事では役員報酬と記述しています。

役員報酬決定の手続きは会社法に定められています。具体的には、定款に役員報酬の額または具体的な算定方法を定める場合は、その定めに従って役員報酬の額を決定します。しかし、定款に定めを置く例はほとんどなく、多くは株主総会の決議によって決めることとしています。株主総会で個々の取締役の報酬の確定額を決議することもできますが、実務上は、株主総会では取締役全員の報酬総額の最高限度のみを決議し、取締役会に個々の取締役の報酬額の決定を委任するケースが多いです。

2)役員報酬の支給方法・支給額を決定する際の留意点

役員報酬は税務上の扱いにも注意が必要です。法人税法では、一定の要件を満たす役員報酬についてのみ損金算入を認めています。具体的には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「一定の業績連動給与」などを定めています(法人税法第34条第1項)。ただし、一定の業績連動給与を損金算入できるのは、有価証券報告書提出会社に限られるので、多くの企業では定期同額給与や事前確定届出給与とする必要があります。

詳細は省略しますが、定期同額給与は、支給時期が1カ月以内の一定期間ごとであり、支給時期ごとの支給額が同額であるもの、および継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法人税法施行令第69条第1項)などをいいます。

また、事前確定届出給与は、事前に支給時期と支給額を確定させて、納税地の所轄税務署長に届け出を行ったものをいいます(同族会社に該当しない国内の会社では、定期給与を支給しない役員(非常勤役員等)に対し支払う年俸等の臨時給与は、届け出を行わなくとも、事前確定届出給与に当たるものとして損金算入できます(法人税法第34条第1項第2号))。

支給額に関しては、不相応に高額な役員報酬(過大役員給与)は、高額に当たるとされる部分は損金算入できません(法人税法第34条第2項)。不相応に高額な部分は、当該役員の職務内容、会社の収益、会社の使用人に対する給与の支給状況、同業種・類似規模の他社の役員に対する給与の支給の状況などと比較して判断されます(法人税法施行令第70条)。

役員報酬規程は、役員に対して役員報酬額の算定基準や支給時期などを明確にするという役割を持つと同時に、会社法や法人税法などの関連法令に関する遵守事項を明文化する意味でも重要な規程です。

2 役員報酬規程のひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員報酬規程のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

本規程は、株式会社○○の役員の報酬および賞与の支給基準などについて定めるものである。

第2条(役員の定義)

本規程における役員とは、株主総会で選任された取締役および監査役のことをいう。

第2章 報酬

第3条(報酬の体系)

役員報酬は、月額報酬および役員賞与として支給する。

第4条(月額報酬の決定方法)

1)取締役の月額報酬は、株主総会で決議された報酬総額の範囲内において、取締役会が本規程に従ってこれを決定する。

2)監査役の月額報酬は、株主総会で決議された報酬総額の範囲内において、監査役の協議で本規程に従ってこれを決定する。

第5条(月額報酬の支給基準)

役員の月額報酬は、次の事項を参考にしながら、役員の職位ごとにこれを決定する。

  1. 従業員の給与の最高額
  2. 役員報酬の世間一般的な水準
  3. 会社の業績

第6条(常勤役員の支給基準)

常勤役員の月額報酬は、原則として従業員の給与の最高額を基準(1.0)とし、次の各号に掲げる区分により、職位別にこれを決定する。

  1. 取締役会長:○.○程度
  2. 取締役社長:○.○程度
  3. 取締役副社長:○.○程度
  4. 専務取締役:○.○程度
  5. 常務取締役:○.○程度
  6. 取締役:○.○程度
  7. 監査役:○.○程度

第7条(非常勤役員の支給基準)

非常勤役員の月額報酬は、当該役員の会社への貢献度、社会的地位などを総合的に勘案した上、第5条所掲の事項も参考にして決定する。

第8条(報酬の改定)

役員報酬は、当該役員の職務内容、職務遂行状況、成果などを総合的に勘案して、原則として毎年度見直しを行うものとする。

第9条(報酬の減額措置)

役員報酬は、会社の業績その他必要に応じて、臨時に減額することができる。この場合、取締役の役員報酬については取締役会の協議により、監査役の役員報酬については監査役の協議によりそれぞれ決定した内容に従い役員報酬を減額する。

第10条(通勤手当)

通勤手当は、役員報酬とは別に、別途定める「賃金規程」(省略)第○条~第○条の定めに準じて支給する。ただし、役員のうち、社有車で送迎を行う者については、通勤手当は支給しない。

第3章 報酬の支給方法など

第11条(支給方法)

役員の月額報酬(使用人兼務役員の使用人部分給与を含む)は、毎月○日に役員本人の指定する金融機関の口座に振り込むことで支給する。

第12条(控除)

役員報酬を支給するに際しては、次の各号に掲げるものを控除する。

  1. 所得税その他の源泉徴収税
  2. 住民税
  3. 社会保険料
  4. その他、本人からの申し出があった立て替え金、貸付金、前払い金等

第4章 報酬に関するその他の事項

第13条(長期欠勤者の報酬)

病気療養など、やむを得ない事情により長期欠勤者の役員報酬は、原則として、任期中の減額は行わない。

第14条(就任・退任または解任時の報酬の取り扱い)

1)月の途中に就任・退任し、または解任された場合の役員報酬は、月額報酬を基に日割り計算を行う。

2)月額報酬の支給計算の期間は当月1日から末日までとする。

第5章 賞与

第15条(賞与の決定方法)

会社の業績が良好なときは、株主総会による決議を得て、役員に賞与を支給することができる。ただし、賞与の金額は、月額報酬と合計して、株主総会で決議された報酬総額の範囲内で決定しなければならない。

第16条(賞与の配分)

各役員への賞与の配分は、各役員の職務内容、職務遂行状況、成果などを総合的に勘案して、取締役の賞与は取締役会で、監査役の賞与は監査役の協議でそれぞれ決定する。

第17条(賞与の支給方法)

役員賞与は、取締役会がその都度決定した支給日において、役員本人の指定する金融機関の口座に振り込むことで支給する。

第6章 雑則

第18条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年2月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 鈴木章太郎)

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画像:ESB Professional-shutterstock

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