書いてあること

  • 主な読者:ネガティブな書き込みをした相手を「名誉毀損」で訴えたい経営者
  • 課題:書き込んだ人をどうやって特定するのか? そもそも名誉毀損は成立するのか
  • 解決策:相手の特定はログが消去される前に速やかに行う。名誉毀損が成立するハードルは高いので、「削除請求」も検討する

1 悪質な書き込みをした相手を名誉毀損で訴えたい

もしネット上にネガティブな書き込みがされたら、腹が立ちますし、自社の信用が傷つくこともあります。そこで、自社に非がないことを対外的に示し、書き込んだ人に反省を促すために、書き込みをした人物を名誉毀損で訴えたいと考えるかもしれません。しかし、名誉毀損が成立するためにはさまざまな要件があり、そのハードルは決して低くはありません。相手を名誉毀損で訴えたい場合に相手を特定する手続や、名誉毀損の成立要件などについて解説していきます。

なお、名誉毀損よりもハードルが低い方法として、書き込みの削除があります。削除依頼などを含めた誹謗(ひぼう)中傷への基本的な対応については、以下のコンテンツをご確認ください。

2 ログが削除されないうちに対応。3~6カ月がリミット?

名誉毀損で訴えるためには、書き込みをした人物を特定しなければなりません。この作業はスピードがとても重要です。具体的には、次のような2段階を経て相手を特定します。

  • サイト管理者などに、発信者のIPアドレスやタイムスタンプなどを開示してもらい、それを基に経由プロバイダを割り出す
  • 経由プロバイダに、投稿に使用された通信端末の情報、契約者の氏名・住所などを開示してもらい、相手を特定する

通常、発信者のプライバシー保護の観点などから、サイト管理者などに任意で「発信者情報」を開示してもらうことは困難です。そのため、上記2段階の手続はそれぞれ裁判を経て、開示させることになるのです。

また、IPアドレスや発信者情報のログは長く保存されていません。経由プロバイダによって異なりますが、保存期間は通常3~6カ月程度とされており、人物を特定できるのは、書き込みがあってから半年程度が期限になると考えられます。ログが失われないようにすることが先決なので、迅速に弁護士に相談し、裁判手続の準備などをする必要があります。

3 名誉毀損が成立する場合とは

1)名誉とは

一般的に指す名誉には、社会的な評価(外部的名誉)、自尊心やプライド(名誉感情・主観的名誉。自己が自身に対して抱いている価値意識や感情)などが含まれます。しかし、法律上の概念では、名誉とは社会的な評価を指しており、これを低下させるような場合に名誉毀損が認められます。例えば、容姿に関して誹謗中傷された場合、自尊心やプライドは傷つくものの、社会的な評価が低下したとまではいえないため、名誉毀損には当たりません。

なお、名誉毀損ではないものの、名誉感情を大きく侵害された場合は、侮辱罪や不法行為に基づく損害賠償請求ができることもあります。ただ名誉毀損・名誉感情の考え方については民事上と刑事上で異なるところもあり、以降では主に民事上の考え方について解説します。

2)表現の類型

名誉毀損に関する表現には事実摘示型と意見論評型とがあり、どちらに該当するのかによって名誉毀損が成立する要件の内容が違います。

  • 事実摘示型:証拠を示せば判断できるもの。例)A店のラーメンは自家製スープを売りにしているが、実際には既製品を使っている
  • 意見論評型:事実の摘示を伴わず、意見や論評を述べるにとどまる。例)A店のラーメンはまずい

誹謗中傷された当事者としては、意見論評型の表現も名誉毀損に当たると考えがちですが、一般的に、意見論評型は名誉毀損の成立が認められにくいとされています。ただし、表現が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱していたり、具体的な根拠やエピソードなどが盛り込まれていたりする場合などは、名誉毀損として認められることもあります。

3)名誉毀損が成立する要件

判例上、次のような要件を満たすものが名誉毀損に当たると考えられています。

  • 社会的評価を低下させる恐れのある事実を示したこと
  • 摘示事実が公共の利害に関する事実ではないこと
  • 摘示事実が真実ではないこと(もしくは真実であると信じたことについて相当な理由がないこと)
  • 摘示事実がもっぱら公益を図る目的のものではないことが明白であること

ただし、実際に名誉毀損に該当するのか否かは個々で異なります。書き込みをした人や、書き込まれたサイトが社会的評価の判断に影響を与えたり、書き込みの前後の文脈などが考慮されたりするため、一概に「○○という表現がなされているので名誉毀損である」とは言い切れません。また、ある表現が、特定の人の社会的評価を低下させるものであった場合、原則として名誉毀損に当たりますが、表現の自由や知る権利などを考慮して、違法性が否定されることがあります。

4 名誉毀損をした加害者が受ける法的責任

1)刑事上の責任

刑法では、名誉毀損罪が定められています。これに違反すると、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科される可能性があります。なお、刑法の名誉毀損罪は、事実摘示型の場合のみで、意見論評型の場合は侮辱罪で責任を問うことになります。

2)民事上の責任

民事上で名誉毀損行為が認められた場合、被害者は加害者に対して、次のような法的責任を問える可能性があります。

  • 財産的損害や精神的苦痛に対する損害賠償
  • 名誉を回復するのに適切な処分(謝罪広告などの掲載)
  • 差止めまたは削除請求

悪質な書き込みに対しては、削除依頼や名誉毀損以外の不法行為などに問える可能性もあります。名誉毀損だけではなく、他の方法で自社の評判を守る方法がないかについても併せて検討するとよいでしょう。

以上(2021年1月)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:mako-Adobe Stock

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