1 重要なのは、苦情対応の方針を共有しておくこと
会社が商品・サービスを提供する上で、お客様からの不平・不満(以下「苦情」)は避けられないものですが、苦情の内容は様々であり、その対応に絶対の正解はありません。とはいえ、
臨機応変な対応は大切ですが、まずは会社としての対応方針や対応例を定めておく
ことが望ましいです。そこで必要になるのが「苦情対応マニュアル」です。
昨今は、暴力、暴言、土下座の要求など、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント、お客様による著しい迷惑行為)」が問題になっています。直近では、
2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法により、カスハラの定義が明確化され、防止措置についても実施が義務化(公布日から1年6か月以内に施行予定)
されることになりました。防止措置の詳細はこれから指針で定められる予定ですが、いずれにせよ対策は必須となります。苦情はお客様からの貴重な意見であり、尊重すべきものですが、
カスハラは決して許容せず、会社として毅然とした対応をし、従業員を守る姿勢を示す
ことも必要です。
カスハラに対する姿勢も含め、会社としての苦情対応の方針をマニュアルに示しておくことは、苦情対応に当たる従業員にとって安心材料になります。
2 苦情対応マニュアルのひな型
以下で紹介するひな型は、苦情対応に関する一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業の業務内容や形態、対応方針などによって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【苦情対応マニュアルのひな型】
第1章(はじめに)
第1条(目的)
本マニュアルは、当社が提供する商品・サービスなどへの苦情に対する対応手順および留意点について定め、苦情への適切な対応および円滑かつ円満な解決を図ることを目的とする。
第2条(定義)
1)苦情とは、当社が提供する商品・サービスやそれらの提供に伴う諸活動などに対してお客様から寄せられる不平・不満の表明のことをいう。
2)カスタマーハラスメントとは、1)の苦情のうち、次のいずれかに該当する言動であって、従業員の就業環境を害するものをいう。
- 要求の内容が妥当性を欠く言動(当社が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない要求、当社が提供する商品・サービスの内容とは無関係の要求など)
- 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動(暴力、脅迫、誹謗中傷、暴言、土下座の要求、セクシュアルハラスメントなど)
第3条(苦情対応の基本方針)
1)苦情は、お客様からの貴重な意見であり、前向きに捉え、尊重する。
2)苦情を受領した際には、公正・真摯な態度で、丁寧に話を聞く。
3)苦情がカスタマーハラスメントに当たる場合には、毅然とした態度で対応する。当社は、カスタマーハラスメントを許容せず、従業員の安全確保および心身の健康への配慮のため、次の通り対応する。
- カスタマーハラスメントの発生時には、対応した従業員の安全確保および心身の健康への配慮を最優先に行動する。
- カスタマーハラスメントへの対応を現場任せにすることなく、会社全体の問題として組織的に対応する。責任者は、カスタマーハラスメントの報告を受けた場合、対応した従業員を一人にせず、必要に応じてその従業員を一時的に顧客対応業務から外すなどの措置を講じる。
- 当社は、対応した従業員にメンタル不調の兆候がある場合、産業医やカウンセラーとの面談機会を提供するなど、精神的ケアのための支援を行う。
- 従業員の身体に危害が加えられる、またはその危険性が高いと判断される場合には、躊躇なく警察に通報する。

