書いてあること
- 主な読者:企業再編の1つとして「合併」の基本を知りたい人
- 課題:合併の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
- 解決策:合併のほとんどは吸収合併。手っ取り早い規模の拡大などに有効
1 さまざまな組織再編
「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。
- 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
- 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
- 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
- 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
- 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
- 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
- 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する
ここで紹介するのは上記のうち、合併です。吸収合併の手続きを中心とし、新設合併についてはポイントを絞って紹介します。
2 合併とは
合併とは、複数の会社が1つになることであり、
- 吸収合併:1社が存続会社となり、残りは消滅会社となり存続会社に吸収される
- 新設合併:会社が全てなくなり、新たに設立された会社に権利義務を承継させる
があります。新設合併は後の権利義務の整理が面倒であるなどデメリットがあることから、実務上、あまり使われないスキームで、合併の多くは吸収合併で行われます。
事業譲渡とは異なり、合併では当事者の全ての事業が一つになります。手っ取り早く規模の拡大を目指したり、特定市場に参入したりする場合に有効です。なお、事業譲渡の対価は金銭となるのが通常です。対して吸収合併において、消滅会社の株主に交付するのは金銭や存続会社の株式、社債、新株予約権等となります。同様に新設合併の場合は、新たに設立される会社(以下「設立会社」)の株式、社債、新株予約権のどれかを交付します。
3 合併の手続き
1)合併契約とは
合併する際は「合併契約」を締結します。合併契約の内容は会社法で決まっていますが、吸収合併契約と新設合併契約とで内容が違います。吸収合併における合併契約で定める事項は次の通りです。
- 存続会社と消滅会社の商号、住所
- 消滅会社の株主に交付する存続会社の金銭等、株主への割当に関する事項。存続会社の株式を交付する場合は、その数や算定方法など
- 消滅会社の新株予約権者に存続会社の新株予約権を交付する場合、その新株予約権の内容や数、新株予約権者への割当に関する事項
- 吸収合併の効力発生日
新設合併における合併契約で定める内容の大部分は、吸収合併と同じです。加えて、設立会社の商号、本店の所在地、発行可能株式総数、設立時の取締役の氏名なども定めます。
2)合併契約の事前開示
合併契約を締結する当事者は、合併契約の内容や対価の相当性などを記載した書面または電磁的記録を、本店に備え置き、開示します。開示の期間は、一定の日(株主総会の日の2週間前等)から効力発生日後6カ月を経過する日までです(吸収合併の消滅会社については効力発生日まで、新設合併の消滅会社については設立会社の成立の日まで)。
3)株主総会の承認
合併しようとする会社は、株主総会の特別決議によって合併契約の承認を得なければなりません。
ただし、吸収合併契約の場合、株主総会の承認決議を省略できるケースがあります。まず、簡易合併の場合です。簡易合併とは、存続会社が合併対価として消滅会社の株主に交付する株式等の額が、存続会社の純資産の20%以下の場合です。この場合、存続会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。
また、略式合併の場合も株主総会の承認決議が不要になります。略式合併とは、特別支配関係にある会社の合併です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。吸収合併において、
- 存続会社が特別支配会社である場合は、消滅会社における株主総会の承認決議が不要
- 消滅会社が特別支配会社である場合は、存続会社における株主総会の承認決議が不要
となります。
4)株主通知
吸収合併における存続会社と消滅会社は、原則として、効力発生日の20日前までに、株主に次のことを通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。
- 存続会社:吸収合併をする旨並びに消滅会社の商号および住所
- 消滅会社:吸収合併をする旨並びに存続会社の商号および住所
また、新設合併の消滅会社は、原則として、株主総会の承認決議の日から2週間以内に、株主に「新設合併をする旨並びに他の新設合併消滅会社および設立会社の商号および住所」を通知します(この通知は、公告で代用できます)。
5)反対株主の買取請求
上記の株主通知を受けた株主のうち、一定の要件を満たす反対株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。ただし、簡易合併の場合は、原則として、株式買取請求権は認められません。同様に略式合併の場合、特別支配会社は株式買取請求権を有しません。
株式買取請求権は、吸収合併の場合は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間、新設合併の場合は会社の通知または公告の日から20日以内に、それぞれ株式の数を明らかにして行使します。
6)新株予約権者の買取請求
吸収合併および新設合併の消滅会社の新株予約権者は、その新株予約権と同条件の新株予約権が交付される場合を除き、新株予約権の公正な価格での買取請求ができます。
なお、新株予約権者が新株予約権付社債に付された新株予約権の買取請求をする場合、別段の定めがない限り、新株予約権付社債の買取請求も一緒に行使しなければなりません。
7)債権者の保護
消滅会社と存続会社は、次に掲げる事項を官報に公告しなければなりません。
- 合併をする旨
- 存続会社、消滅会社の商号および住所
- 存続会社、消滅会社の計算書類に関する事項
- 合併に異議のある債権者が、一定の期間内(1カ月以上の期間)に異議を述べられる旨
同時に、知れたる債権者には個別に通知しなければなりません。知れたる債権者の範囲に明確な定義はありませんが、小さな株主は除いてよいと考えられます。また、定款で日刊新聞紙または電子公告による公告方法を定めている場合、官報への公告に加えてこれらの方法による公告を行った場合、債権者に対する個別の催告は必要ありません。
一定の期間内に債権者が異議を述べなかった場合、合併を承認したものとみなされます。一方、異議を述べた債権者に対しては、合併をしてもその債権者を害する恐れがない場合を除き、弁済、相当の担保提供、弁済のための相当の財産の信託をしなければなりません。
8)登記
吸収合併の場合、合併契約に定めた効力発生日に効力が生じ、存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継します。このとき、効力発生日から2週間以内に、その本店の所在地において、消滅会社は解散の登記をし、存続会社は変更登記をします。消滅会社の解散は、登記の後でなければ第三者に対抗できません。
新設合併の場合、新設会社が設立された日に合併の効力が生じ、消滅会社の権利義務を包括的に承継します。つまり、登記が効力発生の要件となります。この登記は、株主総会の承認決議など会社法で定められている所定の日から2週間以内に、本店の所在地で行わなければなりません。
9)書面などの備え置き
吸収合併の存続会社は、合併効力が発生した後遅滞なく(新設合併の設立会社は、新設会社の設立登記の日から遅滞なく)、合併により承継した消滅会社の権利義務その他の合併に関する事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。
これらの書面または電磁的記録は、吸収合併では効力発生日から6カ月間、新設合併では設立会社の成立の日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。
以上(2024年8月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)
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画像:Mariko Mitsuda