書いてあること

  • 主な読者:取引先が「破産手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
  • 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められる

1 「破産手続」の位置付け

取引先が破産手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の破産手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

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会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

破産手続とは、

会社を清算し、消滅させることを想定した制度

です。会社の全財産が債権額に応じて債権者に按分で弁済され、会社は消滅します。弁済しきれない残債務は実質的に免責されます。そのため、取引先が破産手続に進むと、

何らかの担保を設定していない限りは、全て破産手続上でしか回収できない

状態になります。また、回収できるのは、債権額の0~1%程度にとどまることも少なくないため、ほぼ回収できずに債権が消滅してしまう恐れもあります。

では、破産手続の基本的なポイントを紹介していきます。

2 破産手続における債権の分類

破産手続では、債権を5つに分類します。

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商取引上の債権の多くは一般破産債権です。債権額のほとんどは弁済されないことになるため、取引先が破産をしてしまうと、最終的に貸倒損失として処理をすることになります。

3 破産手続の概要

破産手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。

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1)裁判所による包括的禁止命令・財産保全処分

裁判所は、破産手続の申立てを受けてから破産手続開始の決定があるまでの間、

全ての破産債権者に、破産債務者の財産に対する強制執行などの禁止を命ずる包括的禁止命令を出す

ことができます。包括的禁止命令が出ると、債権者は売掛金の回収や自社商品の引き揚げなどができません。

また、民事再生手続と同様、裁判所は職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。

2)破産債権の届出・調査・確定

債権者は、破産手続の開始決定後、裁判所が定める債権届出期間内に、裁判所に対して債権の内容および額などを届け出ます。この届出を怠ると、債権者は債権を失う恐れがあるため十分に注意する必要があります。

債権者からの届出を受けた裁判所は、債権の内容および額などについて調査期間を設けます。その調査期間において、破産管財人が作成した債権認否書の内容について、破産債務者が認め、かつ届出をした破産債権者の異議がなかったときは、その破産債権の内容は確定します。

3)債権者集会の決議

破産法では、破産債権者の意思を、債権者集会あるいは債権者委員会(破産債権者をもって構成する委員会)によって破産手続に反映させます。債権者集会は、破産管財人・債権者委員会・知れている破産債権者の総債権について、裁判所が評価した額の10%以上の破産債権を有する破産債権者の申立てまたは裁判所の職権で招集します。

債権者集会の決議は、債権者集会に出席または書面投票した者の議決権の総額の50%超の同意によってなされます。

債権者委員会は裁判所または破産管財人に意見を述べることができ、裁判所は債権者委員会から意見を求めることが可能です。また、破産管財人は財産の管理および処分に関して、債権者委員会の意見を聴取することとされています。

4)破産債権者に対する配当

破産管財人は、財産の換価の終了後、遅滞なく、裁判所書記官の許可を得た上で届出をした破産債権者に配当します。配当には、原則型である「最後配当」、最後配当に代わる簡便な手続である「簡易配当」と「同意配当」、換価終了前の例外的な手続である「中間配当」、最後配当の補充的な手続きである「追加配当」があります。通常、単に配当という場合は「最後配当」を指します。

破産管財人は、配当の手続に参加できる破産債権者の氏名または名称および住所、債権の額および配当できる金額を記載した「配当表」を裁判所に提出します。その後、破産管財人は遅滞なく、配当の手続に参加することができる債権の額および配当できる金額を公告、または破産債権者に通知します。

配当表に異議のある破産債権者は、破産管財人が裁判所に届出をした日から2週間以内(除斥期間)に、配当表の修正記載の基礎となる事実を提示します。破産管財人は、これを受けて配当表を更正します。さらに、配当表の記載に不服がある破産債権者は、除斥期間が経過した後1週間以内に限り、裁判所に異議を申立てることができます。

4 破産手続中の取引先から債権回収する手立て

1)債権債務の相殺

破産債権者が債務者に対して債務を有する場合、

破産手続によらずに、双方の債権債務を相殺

できます。相殺権を行使する場合、一般的に配当を受けるわけではない以上、破産債権の届出は必要ないと考えられています。

なお、破産債権者の公平・平等と相殺権行使の濫用防止の観点から、破産手続特有の相殺禁止に関する定めがあるので注意が必要です。

2)担保権の行使

破産手続開始の時点で、

債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、破産手続によらずに行使できる

とされています。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、原則として競売などを通じて債権回収できる可能性があります。なお、担保権の実行手続を開始している場合、破産手続が開始されても影響を受けません。

以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Mariko Mitsuda

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