書いてあること

  • 主な読者:取引先に適切な資産がないなど、担保が設定できずに困っている経営者
  • 課題:担保の設定以外に、どのように売上債権を保全できるのか分からない
  • 解決策:「取引信用保険」「ファクタリング」「債権譲渡」を検討する

1 担保が設定できない場合の債権保全はどうする?

取引先に対する債権を保全するための効果的な手段が「担保の設定」ですが、

取引先に担保を設定する適切な資産がない

などの場合、他の方法で債権保全を講じなければなりません。つまり、担保として適切な不動産や動産がなく、経営者個人を連帯保証にすることも資力の面などから難しいケースです。

こうした場合に、具体的にどのような方法で債権保全を図っていくべきなのかを紹介します。いざということになれば、

「仮差押え」という、裁判所が関与して債務者の不動産などを差し押さえる

などの方法もあります。しかし、そこまで状況が悪化していなければ、もう少し穏便に、

債権回収のリスクを移転する、つまり保険を利用するなど

して、債権保全をすることになります。

2 取引信用保険

まず検討したいのが、

保険の仕組みを活用した債権保全である「取引信用保険」

です。取引信用保険は、

損害保険会社(以下「損保会社」)で取り扱っている

ことがあります。債権者は損保会社と保険契約を交わして保険料(保険料は、保証額の2~3%程度の場合が多いようです)を支払います。損保会社は取引先の倒産などによって売掛金などの回収が不能になった場合、債権者(契約先企業)に保険金を支払います。また、損保会社は債務者に対しては求償(賠償や償還を求めること)を行うことがあります。

なお、取引信用保険と類似した制度として、中小企業倒産防止共済があります。これは、取引先が倒産した場合に、債権者が毎月積み立てていた掛金総額の10倍の範囲(最高8000万円)で回収困難な売掛債権額以内の金銭を無担保、無保証人、無利子で「貸付け」が受けられるものです。あくまで貸付けではあり、債権保全とは少し視点が変わってしまいますが、無担保、無保証人、無利子で貸付けを受けられるため、自社の存続のために検討してもよい制度といえるでしょう。

3 ファクタリング(売上債権の支払保証)

売上債権の支払保証とは、

債権者がファクタリング業務を行う会社と支払保証契約(ファクタリング契約)を交わすことによってなされる売上債権の保全

です。ファクタリングとは、

売掛債権等を弁済期日前に買い取ってもらう資金調達の一つの方法で、法的には債権売買(債権譲渡)契約

です。ファクタリング契約を結んだ債権者は、ファクタリング会社に手数料を支払う他、債権を割り引いて売却します。その代わり、債権者は早期かつ確実な債権回収を図ることができます。ファクタリング会社は債務者から債権回収し、回収不可能のリスクを負います。

なお、中小企業の経営者などを狙い、貸金業登録を受けていない事業者が、ファクタリングを装って、高額の手数料を払わせたり、業として、実質的に債権担保の貸付けを行ったりしている事案が報告されています。おかしいなと思うファクタリング取引であった場合は、取引を控えたり、弁護士に相談したりすることをお勧めします。

4 債権譲渡

債権譲渡とは、

債権者が、債務者の有する売掛金などの債権を譲り受け、譲り受けた債権をもって売掛金債権の支払いに充てること

です。債権者が譲り受ける債権は、債務者が債務者の売掛先(第三債務者)に対して保有する債権で、回収は債権者が直接、第三債務者に対して行います。イメージは次の通りです。

画像1

債権譲渡の場合、

  • 譲渡債権の債権者(図の債務者)から、譲渡債権の債務者(図の第三債務者)に、確定日付のある通知をする
  • 債権譲渡について、第三債務者の確定日付のある承諾を得る

のいずれかの条件を満たさなければ、債権者は、債権を譲り受けたことについて、第三債務者その他の第三者に対抗できません。つまり、

債権譲渡される者(図の債権者)が第三債務者に、「債権譲渡を受けた」と通知するだけでは不十分

ということです。

また、以上に加えて、債権譲渡を行う際は次の点に留意しましょう。

  • 債権者と債務者が「債権譲渡契約書」を交わすこと
  • 債権譲渡を禁止する特約がないこと(なお、民法改正により、2020年4月1日以降に債権譲渡の原因である売買等がされた場合の債権譲渡は、譲渡禁止特約が付されていても有効です)
  • 債務者が第三債務者に対して有する売掛金、その他貸付金や営業保証金などの債権の有無を調べておくこと
  • 第三債務者に、その意向(支払意思の有無、債務者とのトラブルの存否、相殺の可能性、仮差押え・差押えの有無など)を確認し、第三債務者の支払能力を調査すること

以上(2023年9月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

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画像:Mariko Mitsuda

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