書いてあること
- 主な読者:債務者が申し出た「特定調停」に応じるか思案している経営者
- 課題:特定調停がどのようなものなのか、その効力はどのくらいなのか分からない
- 解決策:債務が減額されるかもしれないが、相手が破産する前に一部でも回収できる。調停調書は判決と同様の効力がある
1 特定調停を利用する意義
特定調停は債務者に配慮した制度であり、債務者が申し立てるものです。債務者の立場としては、相手が特定調停を申し立てたときの備えをする必要があるため、この記事で特定調停の基本を紹介します。
特定調停とは、
債務の返済ができなくなる恐れのある債務者(以下「特定債務者」)の経済的再生を図るため、特定債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を行う手続
です。特定調停はいわゆる債務整理に特化した民事調停といえます。民事調停と同じく、裁判官と一般市民から選ばれた調停委員(特定調停委員)とともに進められます。なお、民事調停と違って申立てができるのは特定債務者だけです。また、
特定債務者の状況に配慮して調停が進むのが通常のため、債務は減額される
ことは珍しくありません。ただし、
特定債務者が破産する前に、減額されたとしても債権の一部は回収できる
という点は好ましいといえます。
債権者の立場から見た場合、特定調停に応じるメリットとデメリットは次の通りです。
【特定調停のメリット】
- 特定債務者との話し合いができる
- 調停が成立すれば判決と同じ効力が認められる
【特定調停のデメリット】
- 特定債務者に配慮した結果になることが多い
- 対応のための時間・費用がかかる
2 特定調停手続の流れ
特定調停手続の流れは次の通りです。
1)特定債務者による申立書の提出
特定債務者が簡易裁判所に特定調停の申立てをし、これが受理されると裁判所から債権者に申立書等の書類が郵送されます。裁判所から金銭消費貸借契約書等の写しの提出や、債権額に係る計算書の提出を求められた場合はこれに応じます。
2)調停期日の指定
通常、調停期日は2段階で進められます。まず、特定債務者のみから事情を聴取する事情聴取期日が開かれます。その後、裁判所において調整期日が開かれます。これは、債権者も出席して返済方法などを調整する日です。電話での調整が行われることもあります。
3)調停成立
裁判所が間に入って特定債務者が返済可能な弁済計画を立て、債権者の意見も聞いた上で返済方法の調整を行います。合意に至った場合、調停が成立します。裁判所は調停の内容を「調停調書」にまとめます。特定債務者が調停調書の義務を履行しない場合、強制執行が行えます。
なお、特定調停は、通常、申立てからおおよそ2カ月の期間で終了します。
4)調停に代わる決定
債権者が話し合いに応じなかった場合や合意に至らなかった場合、裁判所は「特定調停に代わる決定」を出すことがあります。特定調停に代わる決定とは、
裁判所が当事者の言い分を衡平に考慮した上で、解決条件などを決定して双方に提示するもの
です。当事者がこれを受け取った後、2週間以内に異議の申立てがなければ特定調停が成立したのと同じ効力が生じます。しかし、いずれか一方が異議を申し立てると効力は生じません。異議は、理由を問わず任意に出すことができます。
以上(2023年9月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)
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画像:Mariko Mitsuda