書いてあること
- 主な読者:定時株主総会の準備や運営をシンプルにしたい経営者、実務担当者
- 課題:株主総会だけにミスはできず、どこまで省略できるのか分からない
- 解決策:取締役と株主の同意があれば、取締役会と株主総会の招集手続や決議を省略できる
1 株主総会の手続きは大幅に省略できる
定時株主総会(以下「株主総会」)の開催は株式会社の義務とはいえ、スケジュールを意識して手続を進めることは大変です。特に、オーナー企業の社長は、
日ごろからコミュニケーションをとっているので、今さら仰々しく株主総会など必要ないのに……
などと考えるでしょう。
そのような社長に知っていただきたいのは、取締役と株主の同意を前提に、
株主総会の実務を大幅に省略し、「最短1日」で済ませることができる
ということです。具体的に省略できるのは、
取締役会の招集手続や決議、株主総会の招集手続、株主総会の決議
となりますので、この記事で、そのための手続きを紹介していきます。
この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社とは、
全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社
のことです。
2 取締役会の招集手続や決議の省略
1)取締役の招集通知を省略
株主総会を開催する前に取締役会を開催し、
- 株主総会の招集
- 会社が作成した計算書類等の承認
について決議する必要があります。この取締役会を開催するのにも招集手続が必要ですが、
取締役と監査役の全員の同意がある場合、招集手続をせずに取締役会を開催
できます。例えば、取締役や監査役が出社していて同意を得られる場合や社内チャットで呼びかけてすぐにウェブ会議で集まることができる場合、その場で会議をするように取締役会が開催できるわけです。
ちなみに、通常の招集手続を経る場合、開催日の1週間前まで(定款によって短縮される場合もあります)に招集通知を発送しなければなりません。
2)取締役会の決議を省略
取締役会の決議も省略できます。その条件は、
- 取締役が、取締役会で決議したい内容を提案する
- 提案された内容の議決に参加できる全ての取締役が書面かメールなどで同意する
ことです。これらが満たされた場合、その「提案を可決する旨の決議があった」とみなされます。このような決議を、一般的に“書面決議”といいます。
つまり、
取締役Aが「株主総会の招集」と「計算書類等の承認」をしたいことを書面やメールなどで提案し、他の取締役が書面やメールなどで同意した場合、取締役会の招集通知も決議も省略できる
ということです。
なお、書面決議を行う場合、注意点があります。監査役設置会社の場合、
監査役が、その提案に異議を述べていない
ことが求められます。上記の場合でいうと、取締役Aは監査役にも提案を送付して、異議がないかを確認する必要があります。
3 株主総会の招集手続の省略
通常、株主総会を開催するには、株主に書面などによる招集通知を発送しなければなりません。ただし、書面やメールなどによる議決権行使を認めないのであれば、
株主全員が同意すれば招集手続は省略が可能
です。
ちなみに、通常の招集手続をする場合、
招集通知は、株主総会の1週間前までの発送が必要
です。より詳細にいうと、この1週間には、招集通知の発送日と株主総会の日を含まず、中1週間が必要です。
また、書面やメールなどによる議決権行使を認める場合、株主総会の招集手続を省略することはできません。この場合、
招集通知は、株主総会の2週間前までの発送が必要
です。
4 株主総会の決議の省略
株主総会では株主の決議が必要ですが、これも省略できます。その条件は、
- 取締役が、株主総会で決議したい内容を提案する
- 提案された内容の議決に参加できる全ての株主が書面かメールなどで同意する
ことです。これらが満たされた場合、その「提案を可決する旨の決議があった」とみなされます。また、取締役が株主総会の報告事項について株主全員に通知し、株主総会への報告を省略することにつき同意を得た場合も、当該報告があったものとみなされます。このような決議も、前述した取締役会の場合と同じで、一般的に“書面決議”といいます。
ただし、株主間に対立がある場合などは注意しましょう。書面決議では、議決権を行使できる全ての株主全員から同意を得る必要があるので、決議したい内容に反対する株主がいると、書面決議は成り立たないことになります。
このような場合、招集手続からやり直さなければならなくなる可能性があり、株主総会がスケジュール通りに行かなくなる恐れがあります。そのため、最初から書面決議によらず、実際に開催する前提で準備する必要があります。
5 残念! 株主総会議事録は省略できない
株主総会の終了後、会社は株主総会議事録を作成しなければなりません。結論から言うと、
株主総会議事録の作成は省略できない
ということになります。これは株主総会の書面決議を行った場合も変わりません。
なお、作成した株主総会議事録は、一定の期間、会社の本店(支店にはその写し)を備え置く必要があります。また、株主総会議事録は、役員の選任といった商業登記の申請手続において、添付資料として使用します。
以上(2024年4月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
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