書いてあること

  • 主な読者:働き方改革やDXの一環として電子印鑑の導入を検討している経営者
  • 課題:電子印鑑に法的効力があるのか不安。電子署名などとの違いも分からない
  • 解決策:電子印鑑に法的効力はないため、電子署名と組み合わせる必要がある。一方、そもそも請求書やほとんどの契約書に押印が必要なわけではない

1 電子印鑑に法的効力はない

働き方改革やDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進む中、「電子印鑑」の導入を検討する会社が増えています。例えば、印鑑を押すためにわざわざ出社するというのは面倒なので、この問題を解決したいところです。

気になる電子印鑑の法的効力ですが、この点は次の通りです。

  • 法的効力なし:印影を模しただけの電子印鑑
  • 法的効力あり:電子署名法の要件を満たす「電子署名」

となると、リアルの印鑑はどうなんだということになります。この点については、「リアルの印鑑で押印されていると、本人の意思に基づいて文書が作成されたもの」と推定されることになります。以下の資料で詳しく解説されています。

■法務省「押印についてのQ&A」■

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00095.html

リアルの印鑑も電子印鑑も「誰が押印したか分からない」はずですが、単なる印影画像にすぎない電子印鑑はセキュリティーが脆弱であり、リアルの印鑑よりも信用性が乏しいといえます。つまり、効力が大きい順に並べると、

リアルの印鑑≒電子署名>電子印鑑

となります。

いずれにしても、働き方改革やDXを進めるための情報として、電子印鑑や電子署名などについて知っておくことは大切です。この記事で分かりやすく解説していきます。

2 電子印鑑・電子署名・電子サインは何が違う?

電子印鑑・電子署名・電子サインについては、いずれもコスト削減やビジネスの効率化というメリットがありますが、それぞれデメリットもあります。それぞれの法的効力やセキュリティーなどの違いを整理しましょう。

画像1

1)電子印鑑

電子印鑑とは、

WordやPDFなどの書類データに押印できる印影画像

のことです。印鑑データは、ソフトを利用して印影(イラスト)を作成したり、実際の印鑑の印影をスキャンしてデータ化したりします。電子印鑑は、あくまでも「押印されているように見える」だけで、法的効力はありません。

2)電子署名

電子署名とは、

「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」の要件を満たす電子的な署名

のことです。要件を満たした電子署名は、

手書きの署名や押印と同等の法的効力

を持ちます。要件は次の2点です。

  1. 署名を行った本人によるものであることを示すこと
  2. 電子文書の内容が改変されていないことを確認できること

オンラインで契約書を交わす電子契約サービスは、電子署名を施すことで法的効力を担保しています。

3)電子サイン

電子サインは法律上の定義もなく、多義的に、また広範な意味で用いられています。前述した電子署名も含む用語であり、例えば、

パソコンなどに表示される申込書などに、指やタッチペンで行ったサイン

も含まれます。ただし、当然ながら、これだけでは電子署名にはなりません。

3 電子印鑑を利用する際はセキュリティーに注意

電子印鑑はなりすましや不正利用の懸念もあり、法的効力はないため、重要な書類については電子署名を用いなければなりません。なお、一部の電子契約サービスでは、

電子署名と電子印鑑を組み合わせて提供

しているので、これであれば、法的効力を担保しつつ、見た目も押印したようになります。電子署名があれば電子印鑑は不要ですが、「押印があると、なぜか安心」ということでしょう。また、雰囲気だけのものとはいえ、電子印鑑はセキュリティーが脆弱です。容易にコピーを作成したり、印影データを取り外したりすることができるので注意が必要です。

なお、有料サービスであるのが一般的ですが、印影データに使用者の識別情報を加えたり、コピー防止機能が付加されたりした電子印鑑もあります。単に印影をデータ化したものよりも信用力が大きく異なります。

4 電子印鑑もリアルと同じで使い分けが必要?

電子印鑑・電子署名・電子サインには大きな違いがあるので、目的に応じた使い分けが不可欠です。また、誰が確認、押印するか、どの書類にどの方法を利用するかについては、社内規程で定めておく必要があります。

1)請求書

日本には「ハンコ文化」があり、請求書に押印されることが多いですが、これは法令上の義務ではありません。そのため、押印なし、もしくは電子印鑑で請求書を発行しても、その効力に問題は生じません。ただし、取引先にあらかじめ説明・相談するなどの配慮は必要でしょう。

2)契約書

請求書と同じように、契約書にも押印しなければならないという法令上の義務はありません。ただし、契約書は、将来的な紛争発生時には証拠となることがあります。「文書が偽造された」「勝手に契約が締結された」などのトラブルを防ぎ、証拠として価値を有するものにしておく必要があるため、

電子印鑑だけではなく、電子契約サービスを導入して電子署名をすること

が必要でしょう。電子署名をすることができない場合は、契約相手とのメールなどのやり取りを記録・保存しておくことも有益です。

なお、定期借地契約や定期建物賃貸借契約などについては、法令上、電子署名が認められません。これらについては、従来通り書面によって契約書を作成し、押印する必要があります。

3)社内文書

稟議書などの社内文書(取締役会議事録などは除く)の形式について、法令上の定めはありません。そのため、電子印鑑でも問題ありません。ただし、誰が押印するのかなど、ルールは明確に定めておく必要があります。

注意を要するのは、

取締役会議事録については、法令で署名または記名押印が必要

とされていることです。議事録をデータで作成した場合、「署名または記名押印」に代わる措置として、電子署名をしなければなりません。

以上(2023年11月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

pj60179
画像:mapo-Adobe Stock

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です