1 吸収分割契約書に定めるべき内容

中小企業のM&Aのほとんどは、株式譲渡か事業譲渡です。ただし、

  • 優良事業を切り出して事業再生を図る
  • 許認可が必要な事業だけを切り出してM&Aを実行する

といった場合に会社分割が利用されることがあります。事業譲渡と会社分割には似たような機能がありますが、事業譲渡が個別承継となるのに対し、会社分割は組織法上の行為で包括承継となるという大きな違いがあります。また、手続上の違いとして、会社分割は、債権者異議手続、反対株主の株式買取請求等の法律で定められた手続きを履践しなければなりません。

吸収分割を行うときには、分割会社と承継会社との間で分割契約を締結し、次の事項(法定記載事項)を定めなければなりません(会社法第757条、第758条)。なお、新株予約権を発行している場合などには別途追加で定めるべき事項がありますが、この記事では省略します。

  • 分割会社及び承継会社の商号及び住所(第2条)
  • 承継会社が承継する資産・負債等の権利義務に関する事項(第3条)
  • 承継会社が分割会社に対して交付する金銭等に関する事項(第4条)
  • 効力発生日(第6条)

2 吸収分割契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【吸収分割契約書のひな型】

株式会社○○(以下「甲」という)と○○株式会社(以下「乙」という)とは、甲の営む事業につき、次のとおり、吸収分割契約(以下「本件契約」という)を締結する。

第1条(吸収分割)

1)甲及び乙は、甲が営む○○事業(以下「本件事業」という)に関して有する権利義務の全部を吸収分割により乙に承継させ、乙はこれを承継する(以下、「本件吸収分割」という)。

2)甲及び乙は、信義に従い誠実に、本件吸収分割等の取組みを実施し、互いにとってより良い結果となるよう努めると共に、当該取組みによって何らかの問題・支障が生じた場合には、解決に向けて相互に協力して対応にあたることを確認する。

第2条(商号及び住所)

甲及び乙の商号及び住所は、以下のとおりである。

甲:吸収分割会社

(商号)株式会社○○

(住所)東京都○○区○○

乙:吸収分割承継会社

(商号)○○株式会社

(住所)東京都○○区○○

第3条(権利義務の承継)

1)乙が本件吸収分割により甲から承継する資産、債務、契約その他の権利義務(以下「承継対象権利義務」という。)は、別紙のとおりとする。

2)本件吸収分割による甲から乙に対する債務の承継は、免責的債務引受の方法による。甲は、承継対象権利義務に含まれる債務について履行をしたとき(会社法第759条第2項に基づき履行をしたときを含む。)は、乙に対してその全額について求償することができる。

3)乙は、承継対象権利義務に含まれる債務以外の甲の債務について履行をしたとき(会社 法第759条第3項又は第4項に基づき履行をしたときを含む。)は、甲に対してその全額について求償することができる。

第4条(本吸収分割に際して発行する株式の割当)

乙は、本件吸収分割に際して発行する普通株式○○株を、甲に対して交付する。

第5条(増加すべき乙の資本金及び準備金)

本件吸収分割により増加すべき乙の資本金、資本準備金及び利益準備金は、以下の額とする。

資本金 ○○円。分割後の乙の資本金は○○円とする。

資本準備金 ○○円

利益準備金 ○○円

第6条(本件吸収分割の効力発生日)

本件吸収分割の効力発生日は、○年○月○日とする。ただし、吸収分割手続の進行上必要がある場合、甲乙が協議の上、これを変更することができる。

第7条(株主総会決議)

甲及び乙は、それぞれ○年○月○日に株主総会を開催し、本件契約の承認及び本件吸収分割に必要な事項の決議を求める。ただし、分割手続きの進行上の必要性その他の事情により、甲乙協議の上、開催期日を変更できるものとする。

第8条(競業避止義務)

甲は、効力発生日から○年○月○日までの間、本件事業と実質的に同一の事業を行わないものとする。ただし、甲乙間で別途合意した場合はこの限りではない。

第9条(業務運営)

甲及び乙は、本件契約締結後効力発生日に至るまで、善良なる管理者の注意をもってその業務の執行及び財産の管理、運営を行い、その重要な財産又は権利義務に重大な影響を及ぼす行為については、あらかじめ甲乙協議の上、これを行うものとする。

第10条(条件の変更、解除)

本件契約締結日後効力発生日に至るまで、本件事業又は承継対象権利義務に重大な変動が生じた場合、本件吸収分割の実行に重大な支障となる事態が生じた場合、その他本件契約の目的の達成が困難となった場合には、協議の上、合意により、本件契約を変更し又はこれを解除することができる。

第11条(準拠法及び管轄裁判所)

1)本契約は、日本法を準拠法とし、日本法に従って解釈される。

2)本契約に関し紛争が生じたときは、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第12条(協議事項)

本件契約に定める事項のほか、本件吸収分割に必要な事項は、本件契約の趣旨に従い、甲及び乙が協議し合意の上、これを定める。

本件契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各1通を保有する。

○年○月○日

(甲)

東京都○○区○○

株式会社○○

代表取締役 ○○

(乙)

東京都○○区○○

○○株式会社

代表取締役 ○○

別紙 承継対象権利義務

1)資産

1.流動資産

2.固定資産

2)債務

本件事業に関する債務は承継されないものとする。

3)契約

効力発生日において甲が締結している契約のうち、以下に定める本件事業に関連する契約に係る契約上の地位及び当該契約に基づく権利義務

契約

4)労働契約上の権利義務

以下に定める従業員に関する雇用契約

雇用契約

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

pj60365
画像:ESB Professional-shutterstock