1 株式交付計画書に定めるべき内容

株式交付は、2021年3月に施行された改正会社法によって認められた比較的新しいスキームということもあり、中小企業のM&Aのスキームとしてまだあまり採用されているケースは見受けられません。もっとも、今後、

  • 買収したい会社の経営者が、引き続き、一部の株式を持ち続けたいという希望を持っている状況で当該会社を子会社化していきたい場合
  • 自社株を用いて、譲渡会社を子会社化したい場合

に株式交付のスキームが採用されることもあるのではないかと思われます。なお、類似のスキームとして株式交換というスキームがありますが、このスキームは株式すべてを交換し取得されることを想定していますので完全親子会社化が前提になります。そのため、株式の一部取得にとどまることが可能な株式交付とは異なるものといえます。

株式交付を行うときには、株式交付計画書を作成する必要があり、次の事項(法定記載事項)を定めなければなりません(会社法第774条の3)。なお、新株予約権を発行している場合などには別途追加で定めるべき事項がありますが、この記事では省略します。

  • 株式交付子会社の商号および住所(第1条)
  • 株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数(第2条)
  • 株式交付子会社の株式の譲渡人に対して交付する対価の内容等および割当てに関する事項(第3条)
  • 効力発生日(第7条)

2 株式交付計画書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【株式交付計画書のひな型】

株式会社○○(以下「甲」という。)は、甲を株式交付親会社、株式会社○○(以下「乙」という。)を株式交付子会社とする株式交付(以下「本株式交付」という。)を行うにあたって、次のとおり株式交付計画(以下「本計画」という。)を作成する。

第1条(株式交付子会社の商号及び住所)

乙の商号及び住所は、次のとおりである。

商号:○○

住所:○○

第2条(株式交付親会社が本株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限)

甲が本株式交付に際して譲り受ける乙の普通株式の数の下限は、○○株とする。

第3条(本株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して交付する株式及び金銭並びにそれらの割当て)

1)甲は、本株式交付に際して、乙の普通株式の譲渡人に対して、当該普通株式の対価として、その譲渡する乙の普通株式の合計数に○○を乗じて得た数の甲の普通株式を交付する。

2)甲は、本株式交付に際して、乙の普通株式の譲渡人に対して、その譲渡する乙の普通株式1株につき、甲の普通株式○○株を割り当てる。

3)前二項の規定に従い、甲が乙の普通株式の譲渡人に対して交付する甲の普通株式の数に1株に満たない端数があるときは、甲は、会社法第234条その他関係法令の規定に従い、処理する。

第4条(株式交付親会社の資本金及び準備金の額)

本株式交付により増加すべき甲の資本金及び準備金の額は以下のとおりとする。

1.資本金の額 金0円

2.資本準備金の額 会社計算規則第39条の2に従い甲が別途定める額

3.利益準備金の額 金0円

第5条(株式交付子会社の株式の申込みの期日)

乙の普通株式申込みの期日は、○○年○○月○○日とする。

第6条(株式交付計画の承認決議)

甲は、効力発生日の前日までに、本計画の承認及び本計画に必要な事項に関する機関決定を行う。

第7条(本株式交付がその効力を生ずる日)

本株式交付が効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)は、○○年○○月○○日とする。ただし、本株式交付の手続進行上の必要性その他の事由により必要がある場合には、甲は、これを変更することができる。

第8条(本計画の変更及び本株式交付の中止)

本計画作成日から効力発生日までの間において、本株式交付の実行に重大な支障となる事象が生じたこと等により本株式交付の目的を達成することが困難となった場合には、甲は、本計画の内容を変更し又は本株式交付を中止することができる。

第9条(株式交付計画の効力)

本計画は、第6条に定める甲の適法な機関決定が得られないときは、その効力を失うものとする。

第10条(規定外事項)

本計画に定める事項のほか、本株式交付に関する事項は、本株式交付の趣旨に従って、甲がこれを決定する。

○○年○○月○○日

株式会社○○

代表取締役 ○○

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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