1 株式交換契約書に定めるべき内容
中小企業のM&Aのスキームとして株式交換が採用されることはそれほど多くはありませんが、
- 自社株を用いて現金を用いることなく、譲渡企業を完全子会社化することを計画している場合
- 株主全員と交渉を行うことなく、株主総会決議でもって完全子会社化することを計画している場合
などに採用されることがあります。同じような理由で株式移転というスキームが用いられる場合も少なくありませんが、株式移転は新たに設立する会社を親会社にすることに対して、株式交換は既に存在する会社を親会社にするという違いがあります。また、株式交付というスキームが用いられる場合がありますが、このスキームは株式交換と異なり、譲渡企業の株式の全部ではなく一部を取得するスキームであるという点で違いがあります。
株式交換を行うときには、株式交換契約書を作成する必要があり、次の事項(法定記載事項)を定めなければなりません(会社法第768条)。なお、新株予約権を発行している場合などには別途追加で定めるべき事項がありますが、この記事では省略します。
- 完全親会社および完全子会社の商号および住所(第2条)
- 完全子会社の株主に対して交付する対価の内容等および割当てに関する事項(第3条)
- 効力発生日(第5条)
2 株式交換契約書のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【株式交換契約書のひな型】
株式会社○○(以下「甲」という。)及び株式会社○○(以下「乙」という。)は、○○年○○月○○日(以下「本契約締結日」という。)、以下のとおり株式交換契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(株式交換の方法)
甲及び乙は、本契約に従い、乙を甲の株式交換完全親会社、甲を乙の株式交換完全子会社とする株式交換(以下「本株式交換」という。)を行い、乙は、本株式交換により甲の発行済株式の全部を取得する。
第2条(当事者の商号及び住所)
甲及び乙の商号及び住所は、それぞれ次のとおりである。
甲: 株式交換完全子会社
商号:株式会社○○
住所:○○
乙: 株式交換完全親会社
商号:株式会社○○
住所:○○
第3条(株式交換に際して交付する株式及びその割当て)
1)乙は、本株式交換に際して、本株式交換により乙が甲の発行済株式の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という。)において甲の株主名簿に記載または記録された甲の株主(以下「本割当対象株主」という。)に対し、その保有する甲の普通株式の合計に○○を乗じて得た数の乙の普通株式を交付する。
2)乙は、本株式交換に際して、基準時における甲の各株主に対して、その有する甲の普通株式1株につき、乙の普通株式○○株の割合をもって、乙の普通株式を割り当てる。
3)前二項の規定に従って本割当対象株主に対して割り当てるべき乙の普通株式の数に、1に満たない端数がある場合には、甲は会社法第234条その他関係法令の規定に従って処理する。
第4条(乙の資本金及び準備金の額)
本株式交換により増加すべき乙の資本金及び準備金の額は以下のとおりとする。
1.資本金の額 ○○円
2.資本準備金の額 ○○円
3.利益準備金の額 ○○円
第5条(本効力発生日)
本株式交換がその効力を生ずる日(以下「本効力発生日」という。)は、○○年○○月○○日とする。但し、本株式交換の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合には、甲及び乙は、協議し合意の上、これを変更することができる。
第6条(株主総会の承認)
1)甲及び乙は、○○年○○月○○日に開催予定の株主総会において、本契約の承認及び本株式交換に必要な事項に関する株主総会の決議を求めるものとする。
2)本株式交換の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合には、甲及び乙は、協議し合意の上、株主総会の開催日を変更することができる。
第7条(事業の運営)
甲及び乙は、本契約締結日から本効力発生日までの間、それぞれ善良な管理者の注意をもって自らの業務の遂行並びに財産の管理及び運営を行い、その財産若しくは権利義務に重大な影響を及ぼす行為を行おうとする場合については、あらかじめ甲乙協議し合意の上、これを行う。
第8条(本株式交換の条件変更及び中止)
本契約締結日以降本効力発生日に至るまでの間において、本株式交換の実行に重大な支障となる事態が生じ又は明らかとなった場合その他本契約の目的の達成が困難となった場合には、甲及び乙は、誠実に協議し合意の上、本株式交換の条件その他の本契約の内容を変更し、又は本株式交換を中止し、若しくは本契約を解除することができる。
第9条(本契約の効力)
本契約は、本効力発生日の前日までに、甲又は乙の株主総会における承認が得られないとき又は前条に従い本株式交換が中止され、若しくは本契約が解除されたときは、その効力を失う。
第10条(準拠法及び裁判管轄)
本契約は、日本法に準拠し、同法に従って解釈されるものとし、本契約に起因し又はこれに関連する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第11条(誠実協議)
甲及び乙は、本契約の条項の解釈につき疑義が生じた場合及び本契約に定めのない事項については、誠意をもって協議して解決する。
本契約締結の証として本書面2通を作成し、甲乙記名捺印のうえ、各1通を保有するものとする。
○○年○○月○○日
甲
乙
以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)
pj60367
画像:ESB Professional-shutterstock