1 株式移転計画書に定めるべき内容

中小企業のM&Aのスキームとして株式移転が採用されることは基本的にはなく、株式移転が採用されるのは、

  • 事業承継の準備段階として、グループ経営を行っている企業において、複数の会社を一つの会社の管理下に置くために株式移転によって新たな親会社を設立する場合
  • 所有と経営を分離するために、グループ経営を行っている複数の会社の持ち株会社となるホールディング会社を設立するために株式移転を行う場合

などになるでしょう。同じような理由で株式交換というスキームが用いられる場合も少なくありませんが、株式移転は新たに設立する会社を親会社にすることに対して、株式交換は既に存在する会社を親会社にするという大きな違いがあります。

株式移転を行うときには、株式移転計画書を作成する必要があり、次の事項(法定記載事項)を定めなければなりません(会社法第773条)。なお、新株予約権を発行している場合などには別途追加で定めるべき事項がありますが、この記事では省略します。

  • 設立する会社の目的、商号、本店の所在地および発行可能株式総数(第2条)
  • 完全親会社の定款で定める事項(第2条)
  • 完全親会社の設立時取締役等役員の氏名(第3条)
  • 株式移転に際して完全子会社の株主に対して交付する完全親会社の株式の数または算定方法および割当てに関する事項(第4条)
  • 完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項(第5条)

2 株式移転計画書

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【株式移転計画書のひな型】

株式会社○○(以下「当社」という。)は、単独株式移転の方法により、当社を株式移転完全子会社とする株式移転設立完全親会社(以下「本持株会社」という。)を設立するための株式移転を行うにあたり、次のとおり株式移転計画(以下「本計画」という。)を定める。

第1条(株式移転)

本計画の定めるところに従い、当社は、本持株会社成立日(第7条に定義する。)において、当社の発行済株式の全部を本持株会社に取得させる株式移転(以下「本株式移転」という。)を行う。

第2条(本持株会社の目的、商号、本店の所在地、発行可能株式総数その他定款で定める事項)

本持株会社の目的、商号、本店の所在地及び発行可能株式総数は、次のとおりとする。

1.目的

本持株会社の目的は、別紙1「株式会社○○定款」第○○条に記載のとおりとする。

2.商号

本持株会社の商号は、「株式会社○○」と称し、英文では、「○○」と表示する。

3.本店の所在地

本持株会社の本店の所在地は、○○とし、本店の所在場所は、○○とする。

4.発行可能株式総数

本持株会社の発行可能株式総数は、○○株とする。

5.前項に定めるもののほか、本持株会社の定款で定める事項は、別紙1「株式会社○○定款」に記載のとおりとする。

第3条(本持株会社の設立時取締役の氏名及び設立時会計監査人の名称)

1)本持株会社の設立時取締役(設立時監査等委員である設立時取締役を除く)の氏名は、次のとおりとする。

1.取締役 ○○

2.取締役 ○○

3.取締役 ○○

4.取締役 ○○

2)本持株会社の設立時監査等委員である設立時取締役の氏名は、次のとおりとする。

1.取締役 ○○

2.取締役 ○○

3.取締役 ○○

4.取締役 ○○

3)本持株会社の設立時会計監査人の名称は、次のとおりとする。

○○

第4条(本株式移転に際して交付する株式及びその割当て)

1)本持株会社は、本株式移転に際して、当社の発行済株式の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という。)における当社の株主に対し、その保有する当社の普通株式に代わり、当社が基準時に発行している普通株式の合計に1を乗じて得られる数の合計に相当する数の本持株会社の普通株式を交付する。

2)本持株会社は、前項の定めにより交付される本持株会社の普通株式を、基準時における当社の株主に対し、その保有する当社の普通株式1株につき、本持株会社の普通株式1株をもって割り当てる。

第5条(本持株会社の資本金及び準備金に関する事項)

本持株会社の設立時における資本金及び準備金の額は、次のとおりとする。

1.資本金の額 ○○円

2.資本準備金の額 ○○円

3.利益準備金の額 ○○円

第6条(本株式移転に際して交付する新株予約権及びその割当て)

1)本持株会社は、本株式移転に際して、基準時における当社が発行している各新株予約権の新株予約権者に対して、それぞれの保有する当社の新株予約権に代わり、基準時における当該新株予約権の総数と同数の本持株会社の新株予約権をそれぞれ交付する。

2)本持株会社は、本株式移転に際して、基準時における当社の新株予約権者に対して、その保有する新株予約権1個につき、本持株会社の新株予約権を1個を割り当てる。

第7条(本持株会社の成立日)

本持株会社の設立の登記をすべき日(以下「本持株会社成立日」という。)は、○○年○○月○○日とする。ただし、本株式移転の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合は、当社の取締役会の決議により本持株会社成立日を変更することができる。

第8条(本計画承認株主総会)

当社は、○○年○○月○○日を開催日として定時株主総会を招集し、本計画の承認及び本株式移転に必要な事項に関する決議を求めるものとする。ただし、本株式移転の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合には、当社の取締役会の決議により当該株主総会の開催日を変更することができる。

第9条(本計画の効力)

本計画は、第8条に定める当社の株主総会において本計画の承認及び本株式移転に必要な事項に関する決議が得られなかった場合、本持株会社成立日までに本株式移転についての国内外の法令に定める関係官庁の許認可等が得られなかった場合、または、次条に基づき本株式移転を中止する場合には、その効力を失うものとする。

第10条(本計画の変更等)

本計画の作成後、本持株会社成立日に至るまでの間において、天災地変その他の事由により当社の財産または経営状態に重大な変動が生じた場合、本株式移転の実行に重大な支障となる事態が発生した場合、その他本計画の目的の達成が困難となった場合は、当社の取締役会の決議により、本株式移転の条件その他本計画の内容を変更し、または本株式移転を中止することができる。

○○年○○月○○日

株式会社○○

代表取締役 ○○

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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