こんにちは、弁護士の當舎修と申します。シリーズ「民法改正と契約書の見直し」の第8回は、消費貸借契約、その中でも特に、民法改正で新たに規定された「書面でする消費貸借」を中心に扱います。

1 現行民法における消費貸借契約

現行民法によれば、消費貸借契約は、1.種類、品質及び数量の同じ物を返還することを約して、2.相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、効力が生じるものとされます。

ここで、例えば、A社がB社から1000万円を借り受けることについて、11月1日に契約書(金銭消費貸借契約書)を取り交わし、12月1日にB社からA社に対して1000万円が貸し渡されたとします。

現行民法の規定に従えば、B社からA社に1000万円が貸し渡され、1.と2.の要件がいずれも満たされた12月1日まで消費貸借契約は成立しないこととなります。しかし、このような解釈では不都合が生じる場合があることから、判例上、当事者間で貸し借りの合意が成立した時点(先の例では11月1日に金銭消費貸借契約書が取り交わされた時点)で、実際に金銭等の授受がなくても、有効な契約(諾成的消費貸借契約)が成立したものとして扱われていました。

2 改正民法の概要

1)「書面でする消費貸借」の明文化

前述のような現行民法上の扱いを踏まえて、改正民法では、貸し借りの合意と金銭等の授受がなされた場合(前述1.と2.の双方の要件を満たした場合)に消費貸借契約が成立するという従来の原則を維持しつつも(改正民法第587条)、新たに、「書面でする消費貸借」について、金銭等の引渡しとその返還を合意することにより効力を生ずる旨の定めを設けました(改正民法第587条の2)。

「書面でする」といっても、必ず契約書などを作成しなければならないわけではなく、メール等の電磁的記録による消費貸借も、書面でしたものと見なされます。

一方で、改正民法が特に「書面でする消費貸借」と規定していることからすれば、今後、書面によらない口頭の合意などの場合には消費貸借(諾成的消費貸借)契約の成立が否定されるものと想定されます。また、「借用書」など、貸主の「貸す意思」が書面上に記載されない一方的な書類差入れなどでは、「書面でする消費貸借」と認められない可能性がありますので注意が必要です。

2)目的物授受前の借主による解除等

「書面でする消費貸借」契約が締結された場合でも、借主にとって借入れの必要がなくなったときに借入れを義務付ける必要はないものと解されます。そこで、改正民法上、借主は、貸主から金銭等を受け取るまで、契約を解除することができます。

しかし、貸主において、借主に貸す資金の調達などのために費用を負担している場合など、損害が生じる状況も想定されることから、借主の契約解除によって貸主が損害を受けたときは、貸主は借主にその賠償を請求することができるものとされています。

併せて、借主が借り受けた資金を約定の期限前に弁済した折にも、貸主に損害が生じる場合が想定されることから、借主の期限前弁済によって貸主が損害を受けたときは、貸主は借主にその賠償を請求することができるものとされています。

3)借主が破産手続開始決定を受けた場合の失効

「書面でする消費貸借」契約を締結した場合、貸主は、借主に対して金銭等を貸し渡す債務を負います。しかし、借主が破産した場合にまでこの原則を貫くと、貸主は、返済見込みのない相手に金銭等を渡さなければならないこととなり、貸主に酷な結果となります。

そこで、改正民法は、貸主から借主への金銭等の交付前に借主が破産手続開始決定を受けた場合には、消費貸借契約が失効する旨を規定しています。


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3 契約の見直し

次に、これらの改正民法の規定を踏まえて、消費貸借契約に関する契約書のどのような点について見直しを検討すべきか、見ていきましょう。

1)契約書の作成

前述の通り、今後は、書面によらない諾成的消費貸借契約は効力を否定されるものと考えられます。

書面によらずに合意がなされた場合でも、後に金銭等の授受があれば、その時点で消費貸借契約が成立しますが、借主にとっては、貸主から将来確実に融資を受けるために、金銭等の授受前に「書面」を作成して消費貸借契約を成立させることが重要な意味を持ちます。また、返還時期の定めがない場合には、借主は、相当期間経過後にいつでも返還請求を受ける可能性があることとなりますので、「書面」に返還時期を明記することも望まれます。

一方で、改正民法上、特約がなければ利息を請求することができない旨が明文化されましたので、貸主の側にも利息の特約を「書面」に明記しておくことに意義があると解されます。

なお、書面で消費貸借契約を締結した場合、原則として直ちに効力が生じますが、従来の消費貸借契約のように金銭等の授受の際に効力を発生させたいときは、当事者間でその旨を合意することもできると考えられます。このような合意をした場合には、後に疑義が生じないよう、その旨を契約書に書き込んでおきましょう。

2)借主の資力悪化等による解除

前述の通り、書面で消費貸借契約を締結した場合、貸主は、借主に対して金銭等を貸し渡す債務を負います。改正民法上は、借主が破産手続開始決定を受けない限り、借主の資力が悪化した場合なども、貸主は契約通りに金銭等を貸し渡す債務を負い続けることとなります。

このような事態に備えて、貸主としては、以下のように、一定の場合に契約を解除できる旨を契約書に規定しておくことが望ましいといえます。

貸主は、借主が以下の各号のいずれかに該当したときは、催告をすることなく本契約を解除することができる。この場合において、貸主は、借主に生じた損害を賠償する責任を負わない。

  • 支払の停止又は破産・和議開始・会社更生?続開始・会社整理開始若しくは特別清算開始の申立があったとき
  • 手形交換所の取引停止処分を受けたとき
  • 財産について仮差押・保全差押又は差押の命令・通知が発送されたとき

……

3)損害賠償額の予定

書面による消費貸借契約について、金銭等の授受前に借主が解除した場合、貸主は、借主に対して損害の賠償を請求できますが、損害の発生及び金額については、貸主が証明しなければなりません。しかし、実際には、損害の発生及び金額を証明することはなかなか難しいものです。

そこで、貸主としては、借主が契約を解除した場合について、以下のように違約金を定めておくことが考えられます。なお、違約金の額があまりに高額であったり、当事者間の力関係に基づいて一方的に額を定めたりすると、改正民法第90条または消費者契約法第9条の規定により、違約金の定めが無効と判断される可能性がありますので、注意が必要です。

貸主は、借主が貸付金を受領する前に本契約を解除した場合には、借主に対して違約金〇〇円を請求することができる。ただし、貸主に実際に生じた損害が上記違約金額を上回る場合には、貸主は、借主に対して、実際に生じた損害の賠償を請求できるものとする。

他方、借主としては、契約を解除した場合に、貸主から高額の損害賠償請求を受けることがないように、以下のように規定することが考えられます

借主は、貸付金を受領する前に本契約を解除した場合には、貸主に対し、その損害を賠償する。ただし、借主が貸主に対して賠償する損害の金額は、〇〇円を超えないものとする。

次回は、賃貸借契約について解説いたします。


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以上

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