書いてあること

  • 主な読者:手形取引をしており、「危ない手形」の見分け方を知りたい経営者
  • 課題:どのような記載があると危ないのかなど、注意すべきポイントを知りたい
  • 解決策:振出日と支払期日の間が通常より長いなど、よくあるパターンを確認する

1 後を絶たない手形による被害

約束手形については、手形交換所が2022年11月に廃止され、政府は2026年をめどに全ての紙の手形や小切手を電子化する方針を示しています。とはいえ、足元ではまだまだ使われていて、不渡りなどの問題も生じています。

そこで、この記事では「危ない手形」の典型である、

「1.借用書代わりの手形」「2.回り手形」「3.融通手形」「4.偽造手形」

の特徴を紹介した後、万一の備えとしてすべき債権保全の策を紹介します。なお、手形を利用していない経営者は読む必要性の乏しい記事です。

2 「危ない手形」の4つのタイプ

1)借用書代わりの手形

借用書代わりの手形とは、

資金不足を補おうと、安易に振り出される手形

で、「危ない手形」の典型です。振出人の経営者は、支払期日が近づくと資金集めに奔走しますが、資金が集まらなければ倒産し、手形は不渡りとなります。

借用書代わりの手形を振り出す会社には、次のような傾向があるので注意しましょう。

  • 「台風手形」といわれる、決済期間が210日もしくはそれ以上に長い1年といった長期の手形を振り出すことが多い
  • 手形用紙が誰でも持ち出せる場所に置かれている。またいつでも振り出せるように、金額や支払期日を記載していない未使用の手形用紙に会社印などが押印されている
  • 手形の控えに金額、振出日、支払期日、受取人を書き入れていない
  • 社長、経理担当者が支払期日に不在の場合が多い

2)回り手形

回り手形とは、

取引先自らが振り出した手形ではなく、裏書譲渡された手形

です。裏書譲渡された手形は、振出人だけでなく、裏書人にも支払いを請求できるので、この点については安全といえるかもしれません。

ただし、特に裏書人が多い場合は注意しましょう。振出人や裏書人に信用があれば、自社に回ってくる前に銀行や手形割引専門業者が手形を割り引いてくれるはずで、次から次へと裏書されることは少ないと考えられるからです。従って、裏書人の多い手形は「危ない手形」の恐れがあります。もし、回り手形が振り出されたら、裏書人が正しく連続しているかについても確実にチェックしましょう。

なお、割引手形と似ているところがありますが、回り手形が支払目的である一方で、割引手形は支払期日よりも前に現金化することを目的とするという違いがあります。

3)融通手形

融通手形とは、

実際の商取引が伴わず、単に資金を調達する目的で振り出される手形

です。手形の受取人は、この手形を銀行などで割り引く(手形割引)ことで当面の資金を調達します。資金繰りに窮した会社同士が、相互に発行しあうこともあります。

融通手形を振り出せば、手形振出人は手元に現金がなくても資金に困った人の面倒を見ることができますが、手形の受取人は返済資金を工面できず、結果として手形の振出人にその請求がくるケースが多いです。そのため、

取引先から融通手形振り出しの依頼があっても、断るのが賢明な判断

です。

一般的に、「振出会社の名義が、手形を持ち込んできた会社の通常の取引先とは考えにくい場合」「取引関係からみて手形金額が大き過ぎる場合」などは、融通手形の可能性があります。また、融通手形が回り手形として回ってくる恐れもあるので注意しましょう。

4)偽造手形

偽造手形とは、

振出人の署名を偽ったり、手形用紙や印鑑を盗用したりする、文字通り、偽造の手形

です。偽造手形は、受取人側が「振出人本人が手形用紙の振出人欄に署名したこと」を立証できない場合、手形の受取人は現金化することができない場合があるので注意が必要です。

3 「危ない手形」のチェックポイント

1)約束手形の絶対的記載事項

約束手形には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」があります。これらが間違いなく記入されているかを確認しましょう。

「約束手形」という文字、金額(チェックライターまたは漢数字で記載されているか確認)、支払い約束の文言、支払期日、受取人、支払地、振出日、振出地、振出人の署名

もし、以下に該当する手形があれば、それは「危ない手形」である恐れがあります。

  • 振出日と支払期日の間が通常より長い
  • 支払日を訂正している(資金繰りが厳しくなっている可能性がある)
  • 手形の金額が振出人の規模からみて大き過ぎる
  • 振出人のメーンバンク以外から振り出されている(融通手形の可能性がある)
  • 裏書人の数が多い(回り手形)

また、手形の記載に誤りや有害的な文言がある場合、手形そのものの効力が無効になるので注意しましょう。例えば、

支払期日:令和6年1月1日、振出日:令和6年3月1日

など支払期日より振出日のほうが後である場合、手形は無効になります(最高裁平成9年2月27日判決)。

2)振出人の経営状態の確認

「手形が危ない」ということは、つまり手形を振り出した会社の倒産が近いことを意味します。従って、その手形を振り出した会社や裏書をしている会社がどのような経営状態にあるかについて調べれば、手形の危険度が判断できます。会社の経営状態を調べる際、留意すべき事項は次の通りです。

1.「割止め情報」があるか

「割止め情報」(市中金融機関が手形の割引を拒否したという情報)を入手したからといって、必ずしもその会社が倒産するわけではありませんが、その会社が危険な経営状態である可能性は高いと考えられます。また、振出人の所在地の登記事項証明書を取り、「不動産があるかどうか、もしある場合、担保が付いているかどうか」などを調査しておくのも万一の備えとして有効です。

2.同業者の間で悪い噂が立っているか

「債務超過に陥っているらしい」「銀行から融資を断られたらしい」など信用不安に関する情報を同業者からキャッチしたときには、その会社は危ないと判断したほうが賢明かもしれません。ただし、当然のことながら噂の出所や真偽のほどについては十分に確認する必要があります。

3.過去に手形ジャンプの要請があったか

手形ジャンプとは、手形の支払期日を先の日付に延長することです。手形ジャンプの要請は、その会社の資金繰りが逼迫していることを示します。手形ジャンプの要請があったことは、すぐに同業者や市中金融機関などに知れ渡り、結果としてビジネスに支障を来したり、融資を受けられなくなったりする恐れもあります。従って、手形ジャンプの要請は倒産の兆候と判断すべきかもしれません。

4.大口の焦げ付きが発生しているか

手形振出人の得意先が倒産し、振出人に大口の焦げ付きが発生した場合は注意が必要です。資金繰りに支障を来し、振出人まで連鎖倒産する恐れがあります。

4 手形による被害に遭わないための債権保全

どれほど注意していても、受け取った手形が不渡りになる可能性は否定できません。そこで、たとえ不渡りになったとしても、確実に債権が回収できるよう事前に対策を取っておく必要があります。

1)人的担保

一番簡単な対策は、資力のある人に手形の支払いを保証してもらうことです。手形上に保証人として署名してもらう方法の他に、手形の原因となった債務について振出人の社長、専務、常務などの役員に個人保証してもらうのが一般的です。ただし、個人企業や中小企業の場合、多くの債務に役員の個人保証が付いていて、振出人の破産とともに役員個人も同時に破産することもあるため、個人保証をしてもらったからといっても必ずしも十分というわけではありません。

なお、改正民法により、役員などではない個人が、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約を締結する場合、その締結日の前1カ月以内に作成された公正証書で、保証人になる個人が、保証債務を履行する意思を表示していなければなりません。

2)物的担保

営業所や社長の自宅などに根抵当権、もしくは金額を確定した抵当権を設定するのも効果的な対策です。

また、倉庫などに特定の商品を一定量常に保持しておく等の義務を相手方に負わせ、不渡りの場合、その商品を引き揚げる契約(集合動産譲渡担保契約)を交わす方法もあります。この契約書には、公証人の確定日付を押印してもらうとよいでしょう。

ただし、確定日付は「遡及(バックデイト)」していない証拠にはなりますが(日付によっては管財人から否認されないというメリットがある)、集合動産譲渡担保を破産管財人など第三者に対抗するには対抗要件が必要です。

5 不渡りとなった場合の対処

1)債権保全をしていない場合

振出人に対して「手形訴訟」(もしくは通常の訴訟)を提起すると同時に、商品、銀行預金など相手の資産の仮差押えを行います。仮差押えは、将来の強制執行に備えて振出人の処分権を奪っておくために行うものです。

なお、手形訴訟は通常訴訟と異なり、証拠調べの方法が原則として書証に限られ、原則控訴が認められないなど簡略化された訴訟手続きです。

2)債権保全をしている場合

物的担保を取得している場合、担保権の行使によって債権の保全を図ります。人的担保を取得している場合、振出人と手形上の保証人を債務者として手形訴訟(もしくは通常の訴訟)を提起するか、簡易裁判所を通じて行う支払督促の申し立てをします。判決や支払督促などの債務名義を取得しているのに、それでも支払に応じない場合は、強制執行を行うことになります。

なお、担保権を行使しても、相手方が不渡り金額の返還に応じられそうにないときは、相手の扱う商品、原材料などを譲り受け、対価で相殺するのも選択肢の一つです。

以上(2024年5月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Mariko Mitsuda

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