書いてあること

  • 主な読者:グループ経営を行う上場企業の子会社の役員、グループ経営を行う非上場企業の役員
  • 課題:子会社の役員として注意すべきポイントが知りたい
  • 解決策:「グループガイドライン」で示されている子会社の管理体制のポイントを理解する

1 今、グループ企業のガバナンスが注目されている

急速な産業構造の変化や少子高齢化に伴う国内市場の縮小などを背景に、日本企業のグローバル化や事業再編が進んでいます。その際、グループ経営を選択する企業も多いのですが、

  • 「攻め」のガバナンス:収益向上のための、機動的な事業ポートフォリオマネジメント
  • 「守り」のガバナンス:子会社不祥事問題を背景とした、子会社管理の実効性確保

が課題となります。

経済産業省は、2019年6月28日に主として単体の企業経営を念頭に作成されたコーポレートガバナンス・コードの趣旨を補完するものとして、グループ経営を行う企業におけるガバナンスの在り方を示す、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」(以下「グループガイドライン」)を公表しました。

グループガイドラインの主たる対象は、グループ経営を行う上場企業とその子会社からなる企業集団ですが、グループ経営を行う非上場企業やこれからグループ経営に取り組もうとする企業にとっても参考になる部分があります。

■経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)(下記URL中段)」■

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance/guideline.html

グループガイドラインは、あくまで一般的なベストプラクティスを示すものですが、これに沿った対応をすれば、「通常は(取締役等の)善管注意義務を十分に果たしていると評価されるであろうと考えられる」と解説されており、特に一般株主を有するグループ企業の親会社・子会社それぞれの取締役等にとっては、グループガバナンスに関する取締役等としての善管注意義務を果たす上で重要な指標となるでしょう。

そこでこの記事では、グループガイドラインを子会社側から見た場合に子会社に求められる取り組みや特に確認しておくべきポイントなどを紹介します。なお、この記事においては、主に親子上場ではないケースを想定します。

2 グループ本社による子会社の管理・監督

グループガイドライン中の2.3.3では、グループ本社による子会社の管理・監督について、特に実効的な方法として以下の4つの取り組みを提示しています。また、これらの取り組みを実践する上では、グループ全体での「ITシステムの統合」が有効とも指摘しています。

そこで、子会社側においては、これらの共通プラットフォームの整備やグループ管理規程の策定と子会社における社内規程化、グループ会社とのITシステムの統合などの取り組みが求められます。

1)グループとしての共通プラットフォームの整備・浸透

グループ子会社の管理・監督のためには、まず、親子間の意思決定権限の配分などに関するルールなど、グループ全体の基本的な枠組みを共通プラットフォームとして整備することが基本となります。また、ソフト面の対応として、グループ全体の経営理念・価値観・行動規範をグループ会社間で共有し、現場レベルに浸透させることが重要であり、経営トップが繰り返し、社内報やイントラなどの社内メディアを通じて直接メッセージを発信することが有効です。なお、海外子会社の場合には、共通プラットフォームを適用した上で、所在国の関係法令を踏まえた個別の調整を行う必要が考えられます。

2)リスクベースの子会社管理

子会社管理の具体的な運用においては、事業セグメントや子会社ごとのリスク(規模・特性)に応じて親会社の関与の強弱・方法を決定する、リスクベースアプローチが合理的であるとされています。

3)グループ管理規程の策定・周知

多数の子会社を実効的に管理するためには、明確な「グループ管理規程」(親会社の決裁・事前承認事項、報告事項、承認・報告ルートなどを具体的に定めたもの)を策定・周知すること、その子会社における遵守を担保する措置として、子会社において社内規程として導入する、親子間で管理契約を締結するなどの措置を講じることが必要であると指摘されています。

4)M&A後の海外子会社の管理・監督

異なる制度・言語・文化・商習慣を有する海外企業を適切に管理・監督することは特に難易度が高く、PMI(Post merger integration)はグループガバナンスの中でも特に重要課題であるといえます。そこで、M&A後の海外子会社の管理・監督においては、グループ本社が主導して、グローバルな経営体制の整備や海外子会社経営陣に適格な人材の配置などを通じて、適切な経営統合の在り方が検討されるべきであると指摘されています。

3 実効的な内部統制システムの構築・運用

昨今、企業不祥事の多くが子会社において発生していることから子会社管理の重要性が再認識されていますが、グループとしてのリスク管理を適切に行うためには、内部統制システムの構築・運用が重要課題となります。

グループガイドラインの中の4.6では、実効的な内部統制システムの構築・運用の在り方として、内部統制システム構築・運用のグローバルスタンダードの考え方である「3線ディフェンス」の導入、整備および適切な運用の検討の重要性が指摘されています。3線ディフェンスとは、

事業部門(第1線)、管理(本社)部門(第2線)、内部監査部門(第3線)という3つのグループ(防衛線)によって組織のコントロールとリスク管理を十分に機能させる体制

のことです。3線ディフェンスの運用例は下記の図をご参照ください。

画像1

特に、過去の子会社不祥事事案において、子会社のトップに管理部門の人事権限が集中していたために第2線によるけん制機能が発揮されなかったことを踏まえると、第2線のけん制機能の確保が重要であるといえます。管理部門と事業部門との間でレポートラインや人事評価権者などをできる限り分離して、親会社の管理部門と子会社の管理部門を直接のラインとして通貫させ「タテ串」を通すことを検討すべき、と指摘されています。

また、子会社業務に関する第3線の内部監査は、子会社の状況に応じて、子会社において実施して親会社の内部監査部門等が実施状況を監視・監督するか、親会社の内部監査部門が一元的に実施するかを適切に判断することが必要であり、子会社監査の実効性を高めるためには、親会社の監査役等や会計監査人が、子会社の監査役等や内部監査部門等とも連携して子会社に対する監査を行う「縦の連携」が重要であると指摘されています。

従って、内部統制システムの構築・運用に関して、子会社としては、第2線については親会社の管理部門と子会社の管理部門の連携を、第3線については親会社の監査役等や会計監査人と子会社の監査役等や内部監査部門等との縦のレポートラインの確保と連携を行うことが求められます。

4 不祥事等が発生したときの親会社との連携

いかに内部統制システムを適切に構築・運用しても不祥事等の発生を完全に回避することはできません。では、いざ不祥事等が発生またはその疑いを察知した場合、どのような対応が必要でしょうか。

この点、グループガイドラインの中の4.10では、有事対応の目的は「速やかに事実関係の調査、根本原因の究明、再発防止策の検討を行い、十分な説明責任を果たすことにより、ステークホルダーからの信頼回復とそれを通じた企業価値の維持・向上を図ることである」と説明しています。初動の対応として、被害の大きさ(人の身体の安全や健康に関わるものか)や影響範囲(不特定多数に及ぶか、継続しているか)などを踏まえて公表の要否を検討し、公表が必要と判断した場合には、迅速かつ適切に行うことが必要と指摘されています(上場会社の場合は、公表の要否やタイミングについて、金融商品取引所の適時開示ルールに従う必要があります)。

そして、不祥事等が子会社で発生した場合は、「子会社における不祥事等は、親会社の直接の関与があったような特殊な場合を除き、第一次的には子会社の取締役等の責任」としつつも、

  • 事案の態様(子会社トップの関与など、組織ぐるみかどうか)や重大性(ステークホルダーへの影響の程度)
  • 子会社における対応可能性(子会社自身によるガバナンスが有効に機能することが期待できるか、体制・リソースが十分か)

などを勘案し、グループ全体の企業価値を維持するために特に必要な場合には、グループとしての信頼回復に向けて、親会社が不祥事等の原因究明や事態の収束、再発防止策の作成に向けた対応を主導することも期待されています。

つまり、子会社において不祥事等の発生またはその疑いを察知した場合、子会社役員としては、親会社への迅速な報告と連携が求められます。

5 子会社経営陣の指名・報酬

子会社経営陣の指名・報酬について、グループガイドラインでは、グループとしての企業価値を向上させる観点から、グループ本社において統一的な人事・報酬政策を明確に示した上で、各子会社の事情に応じた最適な人事管理・報酬設計を行わせることで適切なガバナンス体制を構築することが期待されています。

6 まとめ

グループ経営の在り方は様々であり、グループガバナンスの在り方も一律ではありません。そこで、各企業グループにおいて、グループガイドラインを参考にして自らのグループ全体の企業価値向上のために最適なガバナンスの在り方を早急に検討・構築することが求められています。そして、子会社役員は、その構築を親会社に完全に委ねることなく、自らが子会社に対して負う善管注意義務を常に意識して積極的に取り組んでいくことが必要なのです。

以上(2023年10月更新)
(執筆 弁護士 鳥居江美)

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画像:nenetus-Adobe Stock

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