書いてあること

  • 主な読者:自分はもちろん、配偶者の健康管理も行って経営リスクを低減したい経営者
  • 課題:社長の妻であることを、配偶者がなかなか理解してくれない
  • ポイント:自分たちだけではなく、社員やその家族にも影響が及ぶことを伝える

1 社長の家族が病気になったら……

会社経営に影響する健康リスクといえば、社長や社員の健康を思い浮かべますが、見逃されがちなのが、

社長の家族、特に配偶者の健康リスク

です。配偶者が病気などで倒れたらどういった状況に陥るのかについては、既に多くの経営者は経験済みのはずです。例えば、配偶者がインフルエンザや新型コロナウィルスなどに感染したときのことを考えてみてください。社長が配偶者の看病や家事をする必要もあるので、働ける時間は短くなります。

インフルエンザなどは10日もすればある程度は落ち着くでしょうが、もっと重い病気だったらそれどころではありません。実際、家族の看病を優先して引退した著名な社長もいます。

もともと社長に労働時間という概念はなく、昼夜を問わず働いています。不規則で、ある意味で自分勝手な働き方ができるのは、配偶者をはじめとする家族の理解と支えがあってのことです。ですから、社長は家族の健康をケアすることがとても大切なわけです。

2 まずは対話とフォロー

1)家族に立場を理解してもらう

社長は、万一のリスクを考慮して自身の健康管理を心がけるものですが、これは社長の家族についても同じです。

そのため、必要以上に改まる必要はありませんが、配偶者としっかり話し合って、

自分(配偶者)の家族だけではなく、社員やその家族にも影響が及ぶ

ということを理解しておいてもらわなければなりません。社長は「公人」であり、その配偶者もまた「公人」といえる面があることを伝えましょう。

2)対話を心がける

健康リスクには、うつ病など精神疾患もあります。そのきっかけに早めに気づき予防するためにも、社長は普段から配偶者(子供がいる場合は、子供についても同様)とよく対話することが大切です。

もしかすると、配偶者から相談したいことがあっても、生活のリズムが合わないために擦れ違っているかもしれないので、社長のほうから意図的に会話の時間を作るようにしましょう。

3)幹部社員との話し合い

幹部社員とも話し合っておくのが理想です。そして、誰かがこれまでのように働けなくなった場合の対策を決めておきましょう。特に社長は、自分が一線を退かざるを得なくなった場合に、誰がトップに立って指揮を執るのかを明確に決めて周知します。突然、社長が働けなくなると社内が混乱することは避けられませんが、その影響を最小限に抑えるためです。

また、社長は自分が行っている仕事を整理し、重要なポイントやリスクを幹部社員に説明しておきましょう。いざというときに、幹部が速やかに社長の仕事を引き継げるようにするためです。

3 健康診断の実施など

1)全国健康保険協会の費用補助

具体的な健康ケアとして身近なのは健康診断です。健康保険の場合、社長は被保険者、配偶者は被扶養者となりますが(生計維持関係などが問われますが、ここでは割愛します)、健康保険には健康診断に関する給付がありません。

ただし、全国健康保険協会が運営する「協会管掌健康保険」では、年度内に1回に限り、被保険者が受ける健康診断の費用の一部が補助されます。協会管掌健康保険に加入している中小企業では、この費用の補助を利用するとよいでしょう。また、40歳から74歳までの被扶養者についても、「特定健康診査」の費用の一部も補助されます。項目は限られますが、血液検査などには対応しています。

2)健康経営の推進

健康経営の一環で人間ドックの受診を取り入れる会社があります。社長など役員とその親族だけを対象にすると給与等として課税されますが、全社員が対象ならば福利厚生費となります。

また、「成人病の予防のため、年齢35歳以上の希望者の全て」など、年齢など一定の要件で絞り込む場合も福利厚生費となることがあります(国税庁「人間ドックの費用負担」)。

健康リスクは社長とその家族だけではなく、社員とその家族にも及びます。会社の規模や負担可能な費用にもよるものの、健康経営の一環として、幅広く社員やその家族が人間ドックを受診できるようにすることも、一考に値するかもしれません。

4 「第二の患者」をつくらないために

がん患者の家族を、「第二の患者」と呼ぶことがあります。病状の変化で精神的に追い詰められ、看病で肉体的な疲労が蓄積し、実際に家族が体調を崩してしまうこともあります。

配偶者など社長の家族が病気になり、社長がこれまでのように働けなくなったら、会社の状況は大きく変わります。社長の仕事は幹部社員に引き継がれ、幹部社員の仕事はその部下に引き継がれる……。

こうして社員の負担が重くなります。その状態が長期にわたる場合、仕事の内容や進め方を根本的に見直さなければ、いずれ立ち行かなくなります。社長自身も、家族を心配する心と社員に申し訳ないという気持ちの板挟みになってしまうかもしれません。

このように、社長の家族が病気になると、「第二の患者」を生み出してしまう恐れがあります。社長は、社長の責務として、自分のことと同じように、家族の健康管理に努めることが大切なのです。

以上(2024年3月更新)

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画像:pexels

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