1 アフターコロナに伴うリスクについて
新型コロナが5類に移行することになり、ようやく元の社会に戻りつつありますが、アフターコロナの社会に向けた環境変化のリスクにどう向き合い、対応するのか?元に戻すべきものと戻さないものの取捨選択の判断を適切に行うことが求められます。具体的には、行動制限や非接触の意識等を変えられない場合、景気回復の遅れやコミュニケーション不全による生産性の低下につながる可能性があります。一方で、コロナ禍で根付いたオンライン面談やテレワーク等は、DXを推進して生産性を高めていく上でも、柔軟な働き方を受け入れ優秀な人材を採用・確保するためにも重要と考えられます。
そして、アフターコロナにおいても、コロナ禍で背負った負の遺産までが消え去る訳ではありません。その代表格がコロナ禍において倒産防止のために行われたゼロゼロ融資です。借入である以上は、当然のことながら返済が必要となる中で、返済に追われ、息切れ倒産となるケースが増加しています。今回はゼロゼロ融資の返済がピークを迎える中で、その現状と共に、国の資金繰り支援の対応措置や取引先企業の倒産リスクへの対応について解説をさせていただきます。
2 ゼロゼロ融資について
ゼロゼロ融資とは、新型コロナウイルス感染症の拡大で売上が減った企業を支援するために2020年に始まった融資です。一定の要件を満たす企業に対して、金融機関に支払う利子を公的機関が3年間負担し、返済できない場合も信用保証協会が肩代わりするもので、実質無利子(利子ゼロ)・無担保(担保ゼロ)であるため、「ゼロゼロ融資」と呼ばれています。融資総額は2022年9月末時点で計約43兆円にのぼり、2023年7月~2024年4月に返済開始の山場を迎えます。元々は、コロナ禍において企業の窮地を救うための措置でしたが、基本的に売上減少による運転資金に対する借入であるため、借入金は既に人件費や家賃等の支払いに消えています。そのため、多くの企業がコロナよる環境変化に対応するための経営改善を行うことが出来ない中で、従来の経営を続けながら、利益の中から返済を行う事が求められています。しかし、環境変化の中で、コロナ前は返済に必要な利益を出していた企業でさえ利益を出すことが難しい中で、そもそも返済に必要な利益を出していなかった企業は、返済の目途が立たないことも想定されます。
3 ゼロゼロ融資の返済開始に伴う現状
東京商工リサーチが発表した2月の全国企業倒産件数は前年同月比26%増の577件となり、リーマン・ショック前後の2009年4月以来、13年10カ月振りに11か月連続で前年を上回り、ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産も48件と2・5倍に増加しました。最長3年間の利子補給期間が4月から順次終了し、返済が本格化する中で、環境変化に対応した経営改善が進んでいない企業が多いとなると、今後も倒産件数は増加することが想定されます。また、ゼロゼロ融資の返済に加えて、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、円高等の影響による燃料・原材料価格の高騰、人手不足が追い打ちをかけており、経営再建を断念する息切れ型の倒産も広がっています。実際に、物流業界では燃料の高騰で賃上げがかなわず、運転手不足が加速しており、営業を続けるホテル・旅館でも人手不足の課題を抱え、需要の回復にも拘らず、人員不足のためサービスを十分に提供できず、売上を拡大することが出来ないケースが目立ち始めています。
※企業の倒産情報
https://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/202302.html
4 ゼロゼロ融資の継続支援策
そのような厳しい現状の中で、中小企業庁は民間のゼロゼロ融資からの借り換えに加え、他の保証付融資からの借り換えや、事業再構築等の前向き投資に必要な新たな資金需要にも対応する新しい借換保証制度(コロナ借換保証)を創設しました。
この制度の保証限度額は民間ゼロゼロ融資の上限額の6,000万円を上回る1億円となっており、保証期間は10年以内で据置期間は5年以内、金利は金融機関所定となりますが、保証料率は0.2%と非常に低い水準となっています。
しかし、売上または利益率が前年比5%以上減少していることや、金融機関による伴走支援と経営改善に向けた具体的な経営行動計画書の作成等が条件となっており、現状では2024年3月31日までに信用保証協会に保証申込を行う必要があります。
本制度は、新型コロナの影響で債務が増大した中小企業者の収益力の改善等を支援するための措置であり、要件を満たす企業の場合は、有利な資金調達ができるため、活用することをお勧めします。また、本制度の対象とならない企業についても、今後の様々マイナス影響を想定し、早期に財務戦略を決定し、返済計画を立てる事が求められます。
・コロナ借換保証の詳細は以下のURLを参照下さい。
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sinyouhosyou/karikae.html
5 取引先の倒産リスクへの対応
そして、倒産が増加する局面において非常に重要となるのが取引先の与信管理です。しかし、中小企業では与信管理に多くの人員を割くわけにもいかず、ましてコロナ禍において急速に変化した取引先の状況を適切に把握することは困難と考えられます。そのような中で、財務リスク対策として注目されるのが、取引先の倒産などに備える取引信用保険であり、損害保険大手4社の契約件数も2022年度に前年度比で1割増の大幅な増加となる見通しです。
取引信用保険は取引先の倒産などにより売掛金・受取手形が回収不能になった場合に、貸倒損失に対して保険金を支払う仕組みです。景気後退局面で加入が伸びる傾向にあり、ゼロゼロ融資の返済が本格化して倒産企業が増加する中で、売掛金を回収できずに連鎖倒産に至るリスクを回避するための財務対策として非常に有効な保険です。取引信用保険の活用メリットとしては、貸倒時に資金調達がスピーディーにできる点と、保険会社による与信管理機能の活用によって、貸倒損失の補填のみならず営業戦略にも活用できる点であり、特に中小企業に有用な保険と考えられます。
以上(2023年4月)
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画像:photo-ac
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