書いてあること

  • 主な読者:トラック運送元請事業者
  • 課題:下請・傭車を使う場合にどのようなリスクがあるのか押さえておきたい
  • 解決策:労働災害や積み荷の損壊をはじめとするリスクを把握し対策を講じる。荷主・元請事業者・実運送事業者の連携が重要

1 貨物自動車が第1当事者となった交通事故件数

近年、交通事故件数合計は減少傾向にあり、2017年には47万2165件となっています。そのうち、貨物自動車が第1当事者となった交通事故件数は、自家用貨物自動車と事業用貨物自動車を合わせて7万9970件で、1日当たりおおよそ219件のペースで発生していることになります。

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交通事故の原因はさまざまですが、ドライバーの不注意や車両の整備不良などによることがあります。納品時刻に間に合わせるために疲労や睡眠不足を押して走行した場合など、運行作業にムリが生じたときに交通事故が発生しがちです。

2 トラック運送業における労働災害の発生状況

トラック運送業(陸上貨物運送事業)は、製造業、建設業に次いで労働災害事故による死傷者が多い業種です。

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トラック運送業ではドライバーが荷役作業を担う場合もあり、実際には労働災害の多くが荷役作業中に発生しています。例えば、荷台や荷物の上などからの「墜落・転落」の他、作業中の「転倒」、フォークリフトやかご台車などによる「はさまれ・巻き込まれ」といった労働災害も少なくありません。

3 荷主・元請事業者・実運送事業者の連携が不可欠

トラック運送業では、荷主から元請事業者、最終的に実運送を行う下請事業者(以下「実運送事業者」)までの間で下請構造が多層化しています。そのため、荷主から実運送事業者までの契約、輸送責任は複雑・曖昧になりがちです。また、元請事業者から自社の請負能力にかかわらず仕事を受注し、傭車(ようしゃ)を使うことで自らは実運送をせずにコスト管理のみを行う、いわゆる「水屋業」などもあり、トラック運送の市場構造は非常に複雑なものとなっています。

そうした中、業界では、自主的な交通労働災害防止対策の他、関係法令に基づき、輸送の安全確保のために必要な運行管理や運輸安全マネジメントが実施されています。

一方、荷主側は他社との競争が激しさを増す中、在庫をできるだけ持たないようにする傾向にあります。そのため、元請事業者、実運送事業者に対して、ジャスト・イン・タイムの納品や多頻度少量輸送などを要求するケースが増えています。

荷主の中には、到着時間に遅れた場合に元請事業者に対して厳しいペナルティーを科している場合もあり、それが行き過ぎて、実運送事業者の運行の安全を阻害する要因にもなっているといいます。このような事態が労働災害に結びついており、中には第三者を巻き込む深刻な交通死亡事故も発生しています。

運行作業中の労働災害防止のためには、実運送事業者が安全運転・車両整備点検を徹底するとともに、荷主、配送先、元請事業者など(以下「荷主等」)には、運行作業にムリが生じないように、発注や納品のスケジュールに配慮することが求められます。

荷役作業中の労働災害防止のためには、安全衛生教育の中で、「墜落・転落」「転倒」「はさまれ・巻き込まれ」などの災害防止に向けた作業手順の徹底などに取り組むことが求められます。実際には、実運送事業者のドライバーや作業者が、荷主等の構内で荷役作業を行うことが多く、その作業内容は、荷主等が提供する荷の積卸し現場の作業環境や荷主等が示す発注条件によって左右されます。そのため、荷主等にも安全衛生対策に関して積極的に取り組むことが求められます。

運行作業や荷役作業の安全には実運送事業者に第一義的責任があるものの、安全確保には、荷主等の理解と協力が不可欠です。

2017年11月4日に標準貨物自動車運送約款等が改正され、運送の対価としての「運賃」と、運送以外の役務等の対価としての「料金」の区別が明確化されました。荷主は、運送状に、積込み・取卸し、附帯業務(棚入れ、ラベル貼り等)の料金を、運賃とは別に記載する必要があります。また、運送状に記載がない作業や荷待ち時間が発生した場合においても料金を支払う必要があります。

トラック運送業者は、「積込料」「取卸料」「待機時間料」を新たに設定し、運賃・料金表の変更を届け出て、新標準約款を主たる事務所その他営業所に掲示する必要があります。

4 トラック運送業における労働災害防止に向けた行政の動き

1)厚生労働省「改善基準告示」

厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」)では、トラック運送業について、ドライバーの労働条件の改善を図るため、拘束時間の限度と休息期間の確保、運転時間の限度などが規定されています。改善基準告示の主なポイントは次の通りです。

  • 1カ月の拘束時間は原則293時間が限度。ただし、毎月の拘束時間の限度を定める書面による労使協定を締結した場合は、1年のうち6カ月までは、1年間の拘束時間が3516時間(293時間×12カ月)を超えない範囲内において、1カ月の拘束時間を320時間まで延長することができる。
  • 1日(始業時刻から起算して24時間)の拘束時間は13時間以内を基本とし、これを延長する場合であっても16時間が限度。1日の拘束時間を13時間から延長する場合でも、拘束時間が15時間を超える回数は、1週間について2回以内が限度。
  • 1日の休息期間は継続8時間以上。
  • 1日当たり運転時間は、2日(始業時刻から起算して48時間)平均で9時間が限度。
  • 1週間当たり運転時間は、2週間ごとの平均で44時間が限度。
  • 連続運転時間(1回が連続10分以上で、かつ、合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間)は、4時間が限度。

(注)拘束時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間で、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいいます。休息期間とは、勤務と次の勤務の間の時間で睡眠時間を含む労働者の生活時間として、労働者にとって全く自由な時間をいいます。

なお、時間外労働および休日労働は、1日の最大拘束時間(16時間)、1カ月の拘束時間(原則293時間、労使協定があるときは320時間まで)が限度です。また、使用者は、ドライバーの休息期間については、ドライバーの住所地における休息期間が、それ以外の場所における休息期間より長くなるように努めなければなりません。

2)国土交通省「安全運行パートナーシップ・ガイドライン」

国土交通省「トラック事業における荷主・元請事業者と実運送事業者との協働による安全運行の向上に向けて―安全運行パートナーシップ・ガイドライン―報告書」(以下「安全運行パートナーシップ・ガイドライン」)では、次の6項目が掲げられています。

  • 荷主側で、運送する貨物の量を増やすよう急な依頼があった場合、適正な運行計画が確保され、過積載運行にならないよう、関係者が協力して取り組む。
  • 到着時間の遅延が見込まれる場合、荷主・元請事業者は安全運行が確保されるよう到着時間の再設定、ルート変更等を行う。また、到着時間の遅延に対して一律に厳しいペナルティーを与えるのではなく、原因を分析し柔軟に対応する。
  • 荷主・元請事業者は、実運送事業者に対して安全運行が確保できない可能性が高い運行依頼は行わない。なお、無理な運行が予見される場合、到着時間の見直し等を行うなど協力して安全運行を確保する。
  • 荷主・元請事業者は、積込・荷卸し作業の遅延により予定時間に出発できない場合、到着時間の再設定を行い、適正な運行計画を確保するための措置を講じるとともに、貨物車両が敷地内待機できる措置を講じる。
  • 安全運行の確保に向け、協力して安全推進活動に取り組むとともに、安全運行パートナーシップ・ルールとして各種課題について具体的な改善方策を取り入れてルール化する。
  • 安全運行パートナーシップを確立するため、基本方針・目標の共有化、人材の育成・確保と実施体制の整備等を行う。

3)国土交通省「適正取引推進ガイドライン」

国土交通省「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」では、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)に抵触するような問題となる取引の防止に向けて、望ましい取引実例として次のような取り組みが挙げられています。

  • 原価計算に基づく運賃交渉
  • 3PLにおける原価把握
  • 燃料サーチャージ制運賃の導入
  • 手待ち時間のデータを示して交渉
  • 有料道路の利用条件、利用料金の支払い条件を書面化して適切な費用負担を実施
  • 試行的な業務実施(トライアル)による見積もりの作成
  • 安全運行のためのシステム導入
  • 手形支払期日の統一と柔軟な対応

4)厚生労働省「交通労働災害防止のためのガイドライン」

厚生労働省「交通労働災害防止のためのガイドライン」は、労働安全衛生関係法令や、前述した「改善基準告示」などと相まって、交通労働災害の防止を図るための指針です。交通労働災害防止のためのガイドラインでは、次の事項を積極的に推進するとされています。

  • 交通労働災害防止のための管理体制の確立
  • 適正な労働時間等の管理、走行管理
  • 教育の実施
  • 健康管理
  • 交通労働災害防止に対する意識の高揚
  • 荷主、元請による配慮

5)厚生労働省「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」

厚生労働省「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」は、労働者の荷役作業での労働災害を防止するために、トラック運送業者や荷主等が取り組むべきこととして、次のような事項が示されています。

  • 荷役災害防止のための担当者の指名
  • 定期的に運搬を発注するトラック運送業者と合同の安全衛生協議組織を設置
  • 荷役作業をトラック運送業者に行わせる場合の事前通知
  • 余裕を持った着時刻の設定
  • 安全に荷役作業ができる状況の保持(荷の積卸しや荷役運搬機械・荷役用具等を使用するために必要な広さの確保、床の凹凸や照度の改善、混雑の緩和、荷や資機材の整理整頓、できるだけ雨風が当たらない荷役作業場所の確保)
  • 墜落・転落防止のための施設等(プラットホーム、荷台への昇降設備、安全帯取付設備)の用意
  • フォークリフトによる労働災害の防止対策
  • クレーン等による労働災害の防止対策
  • コンベヤーによる労働災害の防止対策
  • ロールボックスパレット等による労働災害防止対策
  • 転倒、腰痛等の労働災害防止対策

5 元請事業者が把握しておきたいリスク

1)ドライバー不足が続く

トラック運送業では、ドライバー不足と高齢化が急速に進行しています。ドライバーは、長時間労働の割に賃金が低く、職業としての魅力が薄れているといわれ、新規就業の減少と高齢者の退職によって、ドライバー不足の深刻化が懸念されています。

一部の元請事業者では、下請事業者や傭車を使ってもほとんど手数料が入らないような仕事を断ったり、人材確保・維持のために荷主に対して運賃の値上げ交渉を始めたりするケースも出てきています。

2017年3月には年齢制限や運転経験の要件を普通免許と同一にし、高校を卒業して間もない人材でも取得可能な「貨物自動車を運転できる免許」として、準中型免許が新設されました。これにより、若年層の雇用増加が期待されています。

2)把握すべきリスクは多岐にわたる

元請事業者が下請事業者や傭車を使う場合にも、荷主に対する契約上の責任は基本的に元請事業者にあります。下請事業者がさらに下請事業者や傭車を使ったとしても、万一、到着が遅延したり、積み荷に損壊などが発生した場合には、元請事業者が下請事業者の監督を適切に行わなかったということで、損害賠償を請求される可能性があります。

それ以外にも元請事業者が把握すべきリスクは多岐にわたります。例えば、下請事業者や傭車が過積載をしていた場合、道路交通法違反によって荷主等の責任も追及される可能性があります。荷主等が、反復して過積載の要求をする恐れがあると認められるときは、警察署長から過積載の「再発防止命令」(道路交通法第58条の5第2項)が出されます。その命令に違反すると6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金に処されます(道路交通法第118条第1項第3号、第123条)。

なお、国土交通省では、過積載車両の荷主対策を進めており、基地取締り時に、ドライバーから任意で荷主情報の聴取を行うなど、荷主にも過積載の責任とコスト等を適切に分担させる仕組みの導入を図ろうとしています。

この他、窒素酸化物(NOx)・粒子状物質(PM)の排出基準を満たす適合車以外の運行を、条例などで規制している都道府県などでは、荷主等に対して、下請事業者や傭車が適合車以外の車両で輸送を行わないように必要な措置を講じることを義務付けている場合があります。

3)元請事業者が下請事業者や傭車を使った場合に発生した労災事故の責任

元請事業者が下請事業者や傭車を使った場合に、運行作業中の交通事故や荷役作業中の墜落・転落などの事故が発生したことによって、元請事業者が一緒に責任を問われるかどうかは、一概には言えません。これは、請負契約の場合、法的には元請事業者と下請事業者や傭車は独立した存在であり、その責任も個別にあると考えられるためです。

しかし、下請事業者や傭車が元請事業者の指揮監督下にあり、通常の従業員と変わらない存在である場合には、元請事業者にも責任が認められます。実際には、裁判を通じて、両者の一般的な関係、資本関係や取引内容、自動車の使用状況などを総合的に勘案して判断が下されています。

例えば、和歌山地方裁判所判決平成16年2月9日/平成15年(ワ)第114号損害賠償請求事件では、原告(傭車のドライバー)と被告(原告を傭車として専属的に使っていた運送会社)との間に、雇用契約に準じるような使用従属関係があったと判断されました。その上で、原告が起こした追突事故および後遺障害を負った要因が、被告が少なくとも1年にわたって原告に対して恒常的に過重な業務を行わせた結果、原告が高血圧性脳内出血および脳梗塞を発症したためであることを認め、被告に対して、安全配慮義務違反による損害として逸失利益、慰謝料など合計6887万円余を支払うよう判決が下りました(労働判例874号64頁)。

4)元請事業者が下請事業者や傭車を使った場合に発生した積み荷の損壊に対する責任

元請事業者が下請事業者や傭車を使う場合にも、荷主に対する契約上の責任は基本的に元請事業者にあります。事故が発生して積み荷に損壊などが発生した場合に備え、元請事業者は、下請事業者や傭車の側で損害を賠償できるかどうか、損害保険に加入しているかどうかについても把握しておくべきでしょう。

その上で、下請事業者や傭車の側では損害が賠償できない場合には、自社の損害保険を下請事業者や傭車の側に適用できるようにしておく必要があるでしょう。損害保険会社では、貨物の輸送中に生じた損害によって荷主等に対して負う法律上・契約上の賠償責任を補償する保険(「貨物賠償保険」など)を取り扱っています。

元請事業者は、下請事業者や傭車の側が損害保険に加入しているかどうか、また、加入している場合には、その補償内容についても可能な限り把握しておく必要があるでしょう。ただし、元請事業者が、下請事業者や傭車の側に対して、自社や関連会社のような特定の損害保険代理店での自賠責・任意保険などへの加入を強要することは、独占禁止法や下請法に抵触する可能性があるため行ってはなりません。

以上(2018年10月)

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画像:pixabay

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