書いてあること

  • 主な読者:取引相手に契約の打ち切りを伝えなければならない経営者、担当者
  • 課題:どのように伝えればトラブルにならず、円満に契約終了ができるのか知りたい
  • 解決策:つらいのは相手のほうであることを認識し、非効率でも誠意と感謝を込めて伝える。こちらの誠意が伝われば、契約終了の条件交渉も進めやすくする

1 傷口に塩を塗るような対応をしていないですか?

「終わりよければすべてよし」「立つ鳥跡を濁さず」などと言われるように、物事の終わりに真摯に向き合い、確実に締めくくることは大切です。しかし、これができていない人が多いです。ビジネス関係の終わりといえば「契約終了」。粛々と進めたいところですが、不用意に相手を怒らせ、事態をこじらせてしまいがちです。なぜ、そうなるのか。一言でいえば、

誠意を欠き、これまでの感謝が感じられない対応をしてしまう

からです。

ビジネスですから、方針転換や条件の不一致などの理由で契約終了となるのはやむを得ません。ただ、誠意の感じられない契約の打ち切り方をされた相手は憤慨し、

  • 「ひどい会社だ」などと悪評を同業他社に広めたり、SNSに書き込んだりする
  • 契約終了時の条件交渉で駄々をこねる

かもしれません。「大人げない」と思うかもしれませんが、これが「人の感情」というものです。このような事態に陥らないために、以降では法人と法人との継続的取引を前提に、「契約を打ち切る側がやってはいけないNG対応」を紹介します(契約書の定め方や交渉方法などについては記載していません)。

2 「メール1通、ひな型の文章」で済ませない

契約終了は当事者の双方にとってつらいものですが、その度合いは大きく違います。通常、契約を打ち切る側は、契約終了が濃厚となった時点から、別の取引先を探したり、別の事業を検討したりして前に進んでいます。一方、契約を打ち切られる側は収入源や仕事を失うなど、後ろ向きにならざるを得ません。これは大きな違いです。ですから、打ち切る側は、

契約を打ち切られる側のほうが、よほどつらい

という前提を認識しなければなりません。

ネット記事には、「契約終了を伝える際のメールのひな型」を紹介したものがあります。そうした記事では、避けたほうがよい表現やこれまでのお礼の伝え方が紹介されています。「誠意の示し方」の一例ですが、「軽い」です。契約終了という重大なことを、メール一通で、しかもいつもとはトーンが異なる「借り物の言葉」で伝えられたら、内容がどんなに丁寧でも心中穏やかなはずがないのです。

誤解を恐れずに言えば、こうしたひな型的なメールは契約を打ち切る側の省力化でしかありません。また、そうした重大なメールを、ひな型を使わなければ作れないほど経験値が乏しい社員に送らせる会社側にも問題があります。

3 「直電」で状況を伝える

契約を打ち切る側には事情があります。経営陣の鶴の一声なのか、状況の変化なのか、いずれにしても「契約終了」が前提となっています。しかし、そうした過程に関与できない相手(打ち切られる側)にとっては、契約打ち切りの一報は「寝耳に水」でしかありません。そして、必ずこう思います。

「なぜ、決定される前に教えてくれなかったの?」

ですから、可能であれば、契約終了を正式決定する前に、契約を打ち切る相手に「状況」を伝えてあげましょう。テレビドラマで出てくるように、

直接電話をして、「ちょっと難しい状況になっています」などと伝える

のです。もちろん、情報セキュリティーの観点から伝えることができる内容は限られるでしょうが、「状況が大きく変わる」というニュアンスは伝えられるはずです。また、直電というのも大事です。メールやチャットのコミュニケーションが広まる現在、電話は貴重です。しかも代表番号にかけるのではなく、直電をすることで、相手側は「いつもとは違う」と察知します。

最悪なのは、「1カ月後に契約終了を伝える相手と、6カ月後のビジネスの話をする」ケースです。このような話をしたら相手は契約が打ち切られるなどとは夢にも思わないので、6カ月後に向けて前向きに準備するかもしれません。契約を打ち切る側は、努めて通常通りにコミュニケーションを取っているつもりでしょうが、契約を打ち切られる側からすれば、「上げて、急に落とされる」というひどい体験となります。

4 少なくとも「現場の責任者」が伝える

何の権限もない担当者が契約打ち切りを伝えてきて、そのまま条件交渉の窓口になるケースがあります。しかし、少なくとも、契約終了に向けた方針が固まるまでは、責任者が条件交渉の場に出席するべきです。

契約を打ち切られる側は、そうと決まったのなら、次の提携先の獲得などのために素早く条件交渉を済ませたいと考えます。それなのに、権限のない人が窓口だと、何を言っても「私では決められないので、会社に持ち帰って検討します」となってしまいます。打ち切られる側からすれば、

突然、契約打ち切りを言い渡してきた上に、権限のない担当者を窓口にして条件交渉に時間をかけるつもりか?

となります。とても納得できるものではありません。

5 「対面」で伝える

契約打ち切りの一報は、対面で伝えるのが好ましいです。わざわざ訪問するのは効率的ではありませんが、本当に感謝の気持ちを伝えたいのなら、

時間とコストをかけてでも訪問するべき

でしょう。中には、わざわざ新幹線に乗って地方から契約打ち切りの申し出をしに出向く企業もあります。「そこまでしなくても」という意見もありますが、そうされた側(打ち切られる側)には確実に誠意が伝わります。誠意が伝われば、その後の条件交渉で不必要にもめることもなくなるでしょう。

6 できるなら「最後の交渉」の場を整える

契約を打ち切られる側が、ほぼ結果は覆らないことを理解しつつも、

最後に、意思決定権者に提案をさせてほしい

と訴えてくることがあります。こうした「最後の交渉」の場を強く望まれたのなら、実現するための努力をしたいものです。結果はどうあれ、「最後の交渉」を行った相手は「やれることはやった」というモードになって救われるからです。

ただし、「最後の交渉」の場を用意するのは簡単ではありません。努力はしたがもろもろの事情で実現できないのなら、そうした状況をきちんと相手に伝えましょう。なし崩しになかったことにするのは最悪です。

7 契約終了の条件交渉はシビアに

ここまで相手に配慮した契約打ち切りの伝え方を紹介してきましたが、ビジネスはビジネスですから、契約終了の条件交渉はシビアに進めるべきです。

ただ、交渉は、交渉のテーブルに着く前にすでに始まっていることを認識しましょう。契約終了の伝え方がまずいと相手は憤慨し、場合によっては「そちらがその気なら、こちらにも考えがある」と無理な要求をしてくるかもしれません。そのような事態に陥らないために、契約終了の件は、相手に最大限配慮して伝えなければなりません。

以上(2024年5月作成)

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画像:vladdeep-Adobe Stock

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