書いてあること
- 主な読者:リモートワークをしている会社やペーパーレス化を進めている会社の経営者
- 課題:勝手な思い込みが原因で意図せず著作権を侵害している恐れがある
- 解決策:利用形態などに合わせて著作権者から許可(ライセンス)を得る
1 雑誌記事などをスキャンして共有したらアウト!
リモートワークをしている会社やペーパーレス化を進めている会社では、日常的にさまざまな資料をデータで共有しているでしょう。しかし、雑誌記事や新聞記事は、著作物です。例えば、営業活動に使用するために、雑誌記事や新聞記事を著作権者の許可なくスキャンして、そのデータを社内で回覧していたら、それは違法行為です。目的が営業活動以外の非営利目的であってもです。
「定期購読している雑誌を回し読みしているのと同じだから問題ない」と考える人もいるでしょう。しかし、私的利用の範囲を超えてスキャンデータを作成することは、著作権の1つである複製権(スキャンやコピーなどをする権利)の侵害になります。また、社内イントラネットなどにアップロードして複数人で共有することは、著作権の1つである公衆送信権の侵害になる恐れもあります。会議で使用するために、複数人に配布する場合も同様です。
こうした著作権の侵害をしないためには、雑誌社・新聞社などに、
- スキャンデータを作成すること
- オンライン上にアップロードして共有すること
について、それぞれ許可を得る必要があります。
雑誌社・新聞社などの多くは、日本複製権センター(JRRC)などの団体に、スキャンデータの作成や社内イントラネット上へのアップロードなどの許諾に関する管理業務を委託しているので、手続きや費用について確認しましょう。
■日本複製権センター(JRRC)■
■新聞著作権協議会(CCNP)■
■学術著作権協会(JAC)■
雑誌社・新聞社などが提供する電子版サービスを利用して、記事をクリッピング(雑誌や新聞の記事を切り抜いて保管すること)して社内で共有する場合も著作権侵害に注意が必要です。著作権者の許諾なしにコピーや転載、要約をすることは違法行為です。
電子版サービスの利用規約などを確認し、ライセンス違反にならないようにしましょう。なお、1IDにつき1人の利用が基本ですが、グループでの利用を想定した割安のオプションライセンスが用意されている場合もあります。
2 シーンは限定的だが「引用」であれば問題なし
著作物の利用が「引用」の範囲であれば、著作権者の許諾を得る必要はありません。次の条件を満たすと「引用」として認められる可能性があります。
- 公表されている著作物であること
- 「公正な慣行」に合致すること
- 報道、批評、研究その他の目的上「正当な範囲内」であること
「公正な慣行」に合致するか、「正当な範囲内」であるかについては、次の点から判断されます(ただし、論者によって整理の仕方は異なります)。
- 主従関係:引用する側を主、される側を従とし、質的・量的に主従の関係であること
- 明瞭区分性:他人の著作物とそれ以外が明瞭に区別されていること
- 必然性:なぜ、それを引用しなければならないのかの必然性があること
- 出所を明示すること
例えば研修で、他人が作成した著作物を研修資料に無断で掲載した場合、その他人の著作物のほうが主役であると評価されれば、引用は認められません。一方、上の引用の条件を満たした上で、他人の著作物であるイラストや文章だけをスクリーンに投映して、研修内容を口頭で説明するのであれば、許容されます。ただし、研修が終わった後に、他人の著作物だけをキャプチャーして自社のウェブサイトに掲載することは複製権や公衆送信権の侵害になる恐れがあり、著作権者に許可を得なければなりません。
なお、他人の著作物につき許可を得ずに利用する場合があったとしても、無断で表記を修正したり、トリミングを行ったりすることは、同一性保持権の侵害になる恐れがあり、認められません。
3 社有PCのソフトを社員の私有PCにもインストールする場合
社有PCの台数が不足しているなどの理由で、私有PCの業務利用(BYOD)を認めるケースがあります。その際、社有PCと私有PCの作業環境を同等にするために、社有PCで使っているパッケージソフトを私有PCにもインストールすることがあります。
しかし、パッケージソフトのインストールも、著作権法上「複製」に当たり得ます。通常、パッケージソフトの法人向けライセンス契約では、インストール可能な端末の台数や、その他使用範囲が制限されています。すなわち、複製が認められる範囲が限定されています。これに反して、ソフトをインストールすることは、著作権法に違反することになります。私有PCにインストールする場合、インストール数が購入済みのライセンス数を超えないことや、その他ライセンス契約の条件(許諾範囲)に違反しないことを確認する必要があります。
もし、ライセンス数や許諾範囲などを超えてしまう場合、パッケージソフトのライセンスの追加購入や、1人のユーザーに複数端末でのソフトの利用を認めるサブスクリプション型のライセンス契約への切り替えを検討しましょう。
以上(2023年12月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
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