書いてあること
- 主な読者:テレワークでも与信管理を徹底したい経営者
- 課題:物価高倒産の増加など経営の先行きが不透明。会えない相手をどう管理すべきか?
- 解決策:現状に合った与信管理をシンプルに行う。必ず債権回収とセットで考える
1 「無い者からは回収できない」が基本
テレワークの推進など、多くの会社が抜本的な業務効率化を進めています。いわゆる「印鑑レス」の動きや、生成AIを使った取り組みは慣習を断ち切るきっかけとなり、“ダラリ(ムダ、ムラ、ムリ)”が見直されていくのは本当に良いことです。
ただし、強化すべき業務には逆にてこ入れが必要です。例えば、この記事のテーマである「与信管理」もその1つでしょう。現在は相手と会う機会が減り、限られた情報を基に取引しなければなりませんし、いわゆる物価高倒産も増えています。
「無い者からは回収できない」というのが、与信管理・債権回収の大前提です。経営者はいま一度、自社の体制を確認する必要があります。
2 与信管理と債権回収を必ずセットにする
テレワークでも、与信管理で行うことは従来と同じです。
「テレワークなので、厳重に!」と強化したいところですが、やり過ぎると取引開始までに時間がかかったり、現場での負担が大きくなったりして活動が定着しない
恐れがあります。テレワークだからこそ、
与信管理はシンプルに進めることがポイント
です。決して手を抜くということではなく、テレワークに合ったやり方に変えていくのです。
社内に与信管理に留意する雰囲気を定着させることも大切です。そのために、与信管理のプロセスを「見える化」します。具体的には、与信管理の内容をデータ化して担当者で共有する、オンライン会議の場で取引先の状況を発表するなどします。こうして、社員が与信管理を身近な業務として認識できるようにします。
また、与信管理と債権回収が分断されていてはいけません。「おかしいな」と感じたら、即座に行動できるように、
- 支払いが滞ったら、3日以内に催促メールを出す
- それでも回収できなければ、内容証明郵便を送る
などをルール化します。時間がたつほど債権回収は困難になるので、先々を見据えた回収計画や対応を事前に決めておきます。与信管理は「転ばぬ先のつえ」ですが、実際に問題が顕在化した場合に即座に行動できなければ意味がありません。
3 正しい情報を得ることが与信管理の第一歩
1)代表者同士で面談する
多くの会社では、営業担当者の情報収集が与信管理の重要な一部となっています。しかし、物価高や人材不足など経営環境は、かつて経験したことのないレベルで変化しており、営業担当者が収集できるレベルの情報では判断が難しくなっています。こうした中、事業方針を大きく転換する企業もあり、それを営業担当者の報告だけで判断するのは難しいです。だからこそ、自社と取引先の代表者同士が面談し、状況を共有することはとても大切です。
2)営業担当者レベルでは、スマートフォンの番号などを交換する
テレワークでは、気軽に取引先を訪問できません。取引先もテレワークをしている場合はなおさらです。つまり、
訪問を前提とした営業担当者の情報収集は機能しにくい
ということです。
そこで、訪問の代わりにオンライン会議や電話で情報を収集します。スマートフォンの番号を交換したり、SNS(Facebookなど)のメッセージ機能を使ったりして、連絡を取れるようにしましょう。こうしたつながりは、ビジネスとしての訪問からプライベートに少し近づく行為ともいえるため、相手と良い関係が構築できていなければなりません。
3)もらいにくかった資料も提出してもらう
長く取引している相手の場合、決算書や事業計画書などの提出を求めないことがあります。「そうした書類がなくても信頼していますよ」という、こちらの信頼を暗に伝えるためです。
しかし、テレワークで与信管理を徹底するには、決算書や事業計画書は、ぜひ、提出してもらいたい資料です。「このようなときなので、お願いします」と依頼すれば、相手もむげに断ったりはしないでしょう。
4)信用調査サービスを利用する
自社だけでは収集できない情報を得たり、客観的に相手を分析したりするために、信用調査サービスを利用するのも1つの方策です。信用調査サービスはさまざまで、調査リポートを提出してくるサービスの他、SNSの投稿内容などを分析して、危険な場合にアラームを出して知らせてくれるサービスもあります。取引規模などに応じて、信用調査サービスを選択、利用するとよいでしょう。
4 テレワークでも使える与信管理「20のチェックリスト」
ここまでの内容も踏まえた、テレワークでも失敗しない与信管理をするためのチェックリストを紹介します。取引前と取引中でそれぞれ10項目、合計で20項目あります。
1)取引前のチェックリスト10
取引前に確認したいチェックリストは次の通りです。
- 与信管理規定は整備されており、社内で周知徹底されていますか?
- 電子契約の導入など、業務効率化を進めていますか?(与信管理から契約までの負担を軽減するためです)
- 相手と知り合った経緯に違和感はないですか?(飛び込み営業、付き合いの浅い人からの紹介などは要注意です)
- 取引の契約を交わす前に、日経テレコンや週刊誌などを検索し、違和感のある記事はないことを確認しましたか?
- 信用調査サービスを使って事前に調査しましたか?
- 可能であれば同業他社などからの情報を得て、違和感のある噂などがないことを確認しましたか?
- 相手の代表者などと面談しましたか?(取引中も定期的に面談できたら理想的です)
- 取引開始について、社内の3名以上が同意をしていますか?
- 技術やサービスの水準に問題はないですか?
- 取引に当たり、きちんと契約を交わしていますか?
2)取引中のチェックリスト10
取引中に確認したいチェックリストは次の通りです。
- 取引の実態に応じて、「見積書、注文書、注文請書、納品書、検収書、請求書、領収書」などのデータを残していますか?
- 自社内のミーティングで、与信管理や新規取引先の話題を共有していますか?
- 決算書や事業計画書などの情報を収集していますか?
- スマートフォンの番号などを交換し、すぐに連絡を取れる状態になっていますか?
- 定期的にオンライン会議をしていますか?
- 電話やオンライン会議の際、相手の言動に違和感はないですか?
- たまに訪問して、相手の状況を確認していますか?
- 納品が正当な理由なく遅延していませんか?
- 支払いが正当な理由なく遅延していませんか?
- 問題が顕在化した際、すぐに債権回収ができる体制になっていますか?
5 自社も与信管理される立場である
最後に補足をします。取引は相手ありきのことであり、自社も相手から与信管理をされています。つまり、この記事で紹介した内容の裏返しで、相手も自社の与信管理を強化したいと考えているはずです。そうした取引先とより良い関係を築くためには、互いの与信管理に快く協力するという視点を忘れてはなりません。
また、万一の際、即座に債権回収をせずに相手の復活を待つという判断をすることもあります。こうした判断の前提は「信頼」ですので、そうした意味でも日ごろの付き合い方が重要になってきます。
以上(2024年5月更新)
pj60222
画像:Mariko Mitsuda