1 海外PLトラブルへの備えは万全ですか?
2 輸出先の法制度に合わせて、製造工程の確認と見直しを図る
3 契約で自社の免責条項などを設定する
4 文書管理を徹底する
5 取扱説明書や品質表示ラベルを見直す
6 ISO9000シリーズの認証を取得する
7 海外PLトラブルを想定した対応マニュアルを作成する
8 海外PL保険への加入を検討する
1 海外PLトラブルへの備えは万全ですか?
海外展開をしている企業の皆さん、自社が輸出した製品が原因となり、日本国外で発生する海外PL(製造物責任(Product Liability、以下「PL」))トラブルへの備えは万全ですか?
日本からの輸出の多くを占めるのは米国や中国ですが、これらの国では、訴訟を含むPLトラブルが日本よりも多く起きています。
国にもよりますが、海外PLトラブルが発生すると次のような事態が起こり得ます。
- 集団訴訟制度(クラスアクション)があり、原告側が訴訟を起こすハードルが低い
- 懲罰的損害賠償(裁判所の裁量により、実際に起きた損害の補填に加えて、制裁金を上乗せして賠償請求をする制度)が認められる場合がある
- 完成品だけに限らず、部品や原材料メーカーなどで製造に一部でも関わっていれば、訴えられる恐れがある
- 訴訟の証拠開示手続き(ディスカバリー)への対応だけでも、被告側が負担する労力・費用は多大になる
また、欧州連合(EU)では、製造物責任法の原則にあたる「Product Liability Directive (製造物責任指令)」が全面的に改正され、2024年12月8日に発効しています。この改正では、実体のある製品に限らず、ソフトウェア・AIといった無体物に対しても製造物責任が問われることになりました。
こうした観点からも、海外向けに製品を輸出するメーカーや越境ECの出店者は、海外PLトラブルに備えなければなりません。次に挙げるポイントについて、抜け漏れや不備がないか、いま一度確認してみましょう。
- 輸出先の法制度に合わせて、製造工程の確認と見直しを図る
- 契約で自社の免責条項などを設定する
- 文書管理を徹底する
- 取扱説明書や品質表示ラベルを見直す
- ISO9000シリーズの認証を取得する
- 海外PLトラブルを想定した対応マニュアルを作成する
- 海外PL保険への加入を検討する
それぞれのポイントについて、以降で詳しく解説します。
2 輸出先の法制度に合わせて、製造工程の確認と見直しを図る
輸出先の国に合わせて、自社の製品が現地の法制度に沿った安全基準や品質基準を満たしているのかを確認しましょう。見直すべき点は次の通りです。
- 製造ラインの設計
- 設備や機器などの整備
- 安全対策ポリシー、作業手順書の作成
- 従業員の教育や訓練の実施、品質管理・安全対策専門部署の設置
- 検査の実施
この確認や見直しは、
自社の完成品だけでなく、サプライヤーから調達している部品についても行う
必要があります。サプライヤーに対しては、仕様や品質の基準を書面で示したり、定期的に検査を実施したりして、品質を保つようにしていきます。
3 契約で自社の免責条項などを設定する
商社などの取引先を通じて自社の製品を輸出している場合、取引先とのコミュニケーションを密に取りましょう。例えば、取引先からは「米国向けの輸出」と聞いていたのに、実際は、中国やその他の国々にも輸出されていて、中国でPLトラブルが発生したといったケースも起こり得ます。
また、被害者への対応などで取引先が費用を負担していれば、自社も負担を求められる恐れがあります。
取引先との契約には、輸出先の国、販売方法、製品の用途などを指定し、契約に反した場合のPLトラブルは自社が責任を負わないよう、免責条項を設定
しておきましょう。ただし、こうした免責条項が有効なのは、自社と取引先(契約の当事者)間だけです。契約関係にない被害者から、自社に直接、損害賠償などを求められた場合は対抗できません。そこで、
取引先が契約に反した際のPLトラブルによって自社が損害賠償金を負担した場合に、取引先に求償できるような補償条項を設定
することも検討すべきです。
また、取引先が上記のような補償条項に応じない場合に備えて、
自社の損害賠償責任の制限・免責条項を設定
することを検討すべきでしょう。
4 文書管理を徹底する
訴訟の際、米国などでは広範な証拠開示手続き(ディスカバリー)が求められ、短期間で訴訟に関連した大量の文書提出が必要になることもあります。また、訴訟の際は、自社に責任がないことを証明するために、日ごろから安全性の確保に万全を尽くしていたと示す証拠が必要になることもあります。
そのため、
日ごろから製造活動全般に関する文書や、取引先などとのやり取りを文書として残し、適切に保管
しておくことが重要です。
5 取扱説明書や品質表示ラベルを見直す
製造工程の見直しなどに比べて、取扱説明書や品質表示ラベルは後回しにされがちですが、米国などでは取扱説明書や品質表示ラベルの「表示上の欠陥」を指摘する訴訟も多いとされています。そのため、
- 製品の使用方法を分かりやすく説明しているか
- 危険な使用方法などについて注意喚起する表示になっているか
などを確認しましょう。
6 ISO9000シリーズの認証を取得する
JETRO(日本貿易振興機構)は、輸出製品の製造事業所はISO9000シリーズの認証を取得しておくことが望ましいとしています。ISO9000シリーズは、ISO (国際標準化機構)が定めた品質マネジメントシステムに関する国際規格で、ISO9001、ISO9004、ISO9011などがあります。
ISO9001は、製品やサービスの品質を向上させ、顧客満足度を高めていくことを目的としています。この規格に基づいて社内で品質管理の仕組みを見直して改善したり、顧客や第三者機関が品質管理状況を審査したりします。認証の取得には、審査費用、マネジメントシステム構築費用、設備投資、諸経費などが掛かります。
7 海外PLトラブルを想定した対応マニュアルを作成する
海外PLトラブルが発生した場合の対応についてマニュアルを作成しておきます。海外PLトラブルに特化したものではありませんが、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック」では、事故への対応などについて紹介しています。こうした資料を参考に、製品の不具合が発見された場合のリコール対応などの手順について定めたマニュアルを作成したり、輸出先の国の実情に詳しい弁護士に対応を相談したりするなどしておきましょう。
■経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック」■
https://www.meti.go.jp/product_safety/producer/recalltorikumi.html
8 海外PL保険への加入を検討する
細心の注意を払っていても、海外PLトラブルの発生リスクをゼロにすることはできません。また、海外PLトラブルへの対応は広範囲に及びます。そこで、
海外展開する際には、訴訟に発展した場合に備えて、海外PL保険に加入する
ことも検討しましょう。PL保険とは、PLトラブルが起きたときに損害賠償金や訴訟費用などを補償するものです。
通常のPL保険の補償範囲は「日本国内での事故や訴訟」に限定されているので、海外PLトラブルに備えるのであれば、海外PL保険への加入が必要です。海外PL保険には、
- 損害賠償金や訴訟費用などの費用面での補償
- 示談交渉や訴訟を担当する弁護士の選定
などを代行してくれるものもあります。
例えば、日本商工会議所では、会員を対象とした「中小企業海外PL保険制度」を提供しています。安心して自社のビジネスを拡大していくための一策として、海外PL保険への加入を検討しましょう。
■日本商工会議所「中小企業海外PL保険制度」■
https://hoken.jcci.or.jp/overseas-pl
以上(2025年3月更新)
(監修 弁護士 田島直明)
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