書いてあること
- 主な読者:裁判所の関与で相手にプレッシャーをかけ、強制的に債権回収したい経営者
- 課題:通常の訴訟のような時間、費用を掛けたくない
- 解決策:債務者の所在地が分かっている金銭債権などの回収に有効。相手が異議を申し立てると通常の訴訟手続に移行する
1 支払督促制度を利用する意義
内容証明郵便などで催促をしても相手が債務を弁済してくれない場合、「支払督促制度」を利用する方法もあります。支払督促制度とは、
簡易裁判所の裁判所書記官から、債務者に対して「金銭等の支払いを命じる督促状(支払督促)」を送ってもらう制度
です。内容証明郵便とは違い、裁判所からの督促となるので、相手に相当のプレッシャーをかけることができます。また、
支払督促制度で発付される「仮執行宣言付支払督促」は「債務名義」の1つ
です。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。また、強制執行とは、「判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する」ことです。
支払督促制度のメリットとデメリットは次の通りです。
【支払督促のメリット】
- 債権者(申立人)は裁判所に出頭しなくてよい
- 対象は金銭、有価証券など金銭債権が中心で、請求金額の制限がない
- 債務者からの異議がなければ早くて1カ月程度で強制執行手続ができる
- 費用は通常の裁判の半額程度
【支払督促のデメリット】
- 債務者の住所が不明の場合、支払督促制度は利用できない
- 債務者は容易に異議を申立てることができ、その場合、債務者の住所地、本店所在地を管轄する裁判所にて通常訴訟に移行する
2 支払督促の流れ
支払督促制度の流れは次の通りです。
1)支払督促の申立書の提出
通常の訴訟の場合、債務履行地が債権者の主たる事務所等であることが多いです。その場合、債権者の本店所在地を管轄する裁判所に訴えを提起することができますが、支払督促の申立ては、債務者の普通裁判籍(債務者の住所、主たる事務所等)の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して行う必要があります。支払督促制度の対象は、金銭その他の代替物、または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求に限られます。
2)支払督促の発付
債権者が支払督促を申立てると、裁判所書記官がその内容を審査し、支払督促を発付します。支払督促は、債務者を審尋(意見や主張を聞くこと)しないで発付します。
支払督促の効力は債務者に送達されたときに生じます。債務者は支払督促に対し、これを発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に異議の申立てをすることができます。債務者が異議を申立てた場合、事件は通常の訴訟手続で審理され、支払督促は失効します。なお、異議の内容は、
- 請求は認めるが分割払いにしたい
- 理由が何も記載されていない請求には納得がいかない
など、請求をそのまま認めないということであれば、どのような内容でも構いません。
そのため、債務者が支払督促に対してどのような対応に出てくるかを想定し、何も反応しない可能性が高い場合に、訴訟提起ではなく、支払督促の申立てを考えることがよいでしょう。
3)仮執行宣言の発付
債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てをしないとき、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続きの費用額を付記して仮執行の宣言をしなければなりません。仮執行宣言の付された支払督促の発付です。
なお、債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から、30日以内にその申立てをしないときは、支払督促はその効力を失います。
債務者が仮執行宣言の付された支払督促に異議を申立てた場合、通常の訴訟手続で審理されます。ただし、仮執行宣言の効力は当然には失効しません。債務者は支払督促への異議申立てとともに、強制執行の停止や取消しを求める必要があります。仮執行宣言の付された支払督促に対し、債務者が異議を申立てることのできる期間は、仮執行宣言付支払督促を受け取った日の翌日から数えて2週間です。
4)支払督促の効力
仮執行の宣言に対して債務者が異議を申立てないとき、または異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は確定判決と同一の効力を有します。従って、支払督促に基づき強制執行を行うことが可能となります。
5)支払督促に要する費用
支払督促の申立ての手数料は、請求の目的の価額に応じ、民事訴訟費用等に関する法律別表第1第1項により算出した額の2分の1の額となります。その他、督促状を債務者に送付するための切手代を要します。
- 100万円までの部分:その価額10万円までごとに1000円の2分の1
- 100万円を超え500万円までの部分:その価額20万円までごとに1000円の2分の1
- 500万円を超え1000万円までの部分:その価額50万円までごとに2000円の2分の1
- 1000万円を超え10億円までの部分:その価額100万円までごとに3000円の2分の1
- 10億円を超え50億円までの部分:その価額500万円までごとに1万円の2分の1
- 50億円を超える部分:その価額1000万円までごとに1万円の2分の1
以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)
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画像:Mariko Mitsuda