ここまでのシリーズでは、起業家が知っておきたい「事業の適法性」事業の適法性を確保するための手段を紹介しました。最後となる今回は、事業の適法性というテーマが具体的にイメージできるよう、スタートアップのビジネスで問題となりやすい事例について、概要をご紹介します。

1 電気通信事業の届出

昨今、様々なアプリケーションで、クローズドのコミュニケーションツールが実装されているかと思います。このようなツールを提供することは、電気通信事業(電気通信事業法第2条4号)に該当し得、電気通信事業法上の電気通信事業の届出(同法第16条第1項)が必要となるケースが多いといえます。
さほど工数のかかる手続ではありませんが、こうした機能を実装したアプリケーションを開発・提供される企業のご相談を受ける際、見落とされがちな手続であり、違反すると「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」という刑罰規定もあるため、注意が必要といえます。
なお、同法の許認可や届出の要否については、総務省が『電気通信事業参入マニュアル[追補版]』を公表しており、チェックリスト等も掲載されているため、非常に参考になります。

2 前払式支払手段の届出または登録等

オンライン上でサービスを提供する場合、例えばサービス上で使用できる通貨を事前購入させるプリペイド方式を採用するケースがあります。このような決済手段は、資金決済法上の「前払式支払手段」(資金決済法第3条第1項)に該当することが多く、これに該当する場合には原則として、その内容に応じて届出または登録の申請を行う必要がある他(同法第5条第1項、第8条第1項)、発行保証金の供託等の厳格な規制の対象となります。
上記で「原則として」と表現したのは、例外がいくつかあるためですが、代表的な例外として、前払式支払手段の有効期限がその発行日から6カ月以内となっているものについては、届出または登録を含む資金決済法上の前払式支払手段に関する規律の適用を受けないものとされています。従って、サービスにトラクションが出るかわからない段階では、試験的に有効期限を発行日から6カ月以内に設定し、サービスをリリースするケースが見受けられます。
なお、前払式支払手段については、金融庁が事務ガイドラインの一部で取り上げている他、資金決済法に基づく認定資金決済事業者協会である一般社団法人日本資金決済業協会がQ&Aを公表しており、こちらも非常に参考になります。

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3 職業紹介事業の許可

人材の流動化や人手不足もあり、昨今、インターネットを用いた採用に関する人材系のサービスがより増加しているように感じます。職業安定法上、許可が必要とされる「職業紹介」は、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」と定義されていますが、求人者や求職者への情報提供等がどの程度に達すると雇用関係のあっせんに該当するのか、この定義のみからは判断が難しいところです。
「職業紹介」の該当性については、「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準」「職業紹介事業の業務運営要領」グレーゾーン解消制度の結果等((1)(2)(3))が参考になります。

なお、2018年1月1日施行の改正職業安定法により、上記の基準によって「職業紹介事業」に該当しなくとも、募集主から依頼を受け、募集に関する情報を求職者に提供すること、求職者から依頼を受け、求職者に関する情報を募集主に提供することのいずれかに該当する場合には、「募集情報等提供」として、募集内容が的確に表示されるために募集者に協力する努力義務等が新たに課されることになりました(関連資料)。
改正法により当該事業者に課される義務は基本的に努力義務ですが、行政庁から当該事業者に対し、法律の施行に必要な限度で報告を求めることが可能であり、これに応じずまたは虚偽の報告をした場合には、「三十万円以下の罰金」の刑罰が規定されているため、やはり注意が必要です。

4 おわりに

事業の適法性というテーマにおいて、リスクには濃淡があります。専門家に相談する場合にはコストがかかるため、スタートアップの限りある資源に目を向けるとき、全ての論点について、弁護士等の専門家に相談することは難しいかもしれません。
そこで、少しでも起業家の皆さんが事業の適法性について理解を深めて頂き、状況に応じて適切に制度や専門家の支援を活用できることを願い、今回のテーマを設定しました。起業家の皆さんにとって少しでも本稿がお役に立てれば幸いです。

以上

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