企業の顧客の中には、障害のある人もいます。障害のために商品を買えなかったり、サービスを利用できなかったりすることは、望ましくありません。今年4月1日には、改正障害者差別解消法が施行され、障害者への配慮が企業にも義務づけられました。本稿では、企業に求められる障害者への配慮についてお伝えします。
1 合理的配慮
今年4月から義務になったのは、「事業者による障害者への合理的配慮の提供」です。「事業者」とは、商業その他の事業を行う企業や団体、店舗のことで、法人だけでなく個人事業主も対象となっています。
「障害者」の範囲も広く、身体障害だけでなく、知的障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害、難病など病気に伴う障害も含まれます。障害者手帳を持っていなくても、生活面で相当な制約を受けている人はすべて対象となります。
では、「合理的配慮」とは、どのようなものでしょうか。内閣府は、次のような具体例を挙げています。
※内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」
実際には、要望の内容や状況によって、ケースバイケースで対応することになります。その際、事業者は、過重な負担にならない範囲で、本来の事業に付随する配慮を行えばよいとされています。内閣府は、次のようなケースでは、合理的配慮が提供されなくても、違反にはならないと例示しています。
▽飲食店で「食事の介助」を求められたが、この飲食店では、食事の介助を事業の一環として行っていないので断った。
▽小売店で、混雑時に視覚障害者から、「店内を付き添って買い物の補助をしてほしい」と求められたケースで、店員が「混雑時のため付き添いはできないが、購入したい商品を聴き取ってリストにし、商品を準備します」と提案した。
2 対話が重要
できる限り合理的な配慮をするために、内閣府は「障害者と事業者の『対話』が重要」と強調しています。障害者からの要望に100%応じることができない場合でも、話し合って、「ここまでならできる」という点を探っていくことが大切です。
もっともよくないのは、「保護者や介助者がいなければ一律に入店を断る」「不動産会社が、『障害者向けの物件はない』と言って断る」「障害者に対して一律に接遇の質を下げる」といった対応です。これらは、正当な理由なく障害を理由としてサービス等の提供を拒否したり、提供するにあたって場所・時間帯等を制限するなどの「不当な差別的取り扱い」とされ、改正前の障害者差別解消法で、すでに禁止されています。
3 さいごに
改正障害者差別解消法では、合理的配慮を怠っても罰則はありません。しかし、超高齢社会の日本では、加齢に伴う障害をもつ人は大勢います。障害のある人へ配慮の行き届いたサービスは、障害のない人にとっても、良質なサービスとなるでしょう。まずは企業内で、合理的配慮について「対応マニュアル」をまとめることをお勧めします。
※本内容は2024年7月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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