書いてあること

  • 主な読者:利用客からのクレームに悩む経営者
  • 課題:威圧的なクレームにどう対処すればいいのか分からない
  • 解決策:不用意に謝らない、即答しないなど、対応時のルールを徹底することが大事

1 強要や暴言といった脅威が企業のリスクに

「おいっ! どうなってんだ? 責任者を呼べっ!」。威圧的な態度で理不尽な要求を突き付ける利用客。ひたすら頭を下げる店員。店内には怒号が鳴り響き、周囲にいた他の利用客はその場を離れ始める……。

誰もが遭遇したことがあるかもしれないシーンです。第三者であれば「あぁ~、やだやだ」で終わりますが、もし皆さんの会社が当事者になったら、そして従業員が店員だったら、どのような指示を出しますか?

「クレームはありがたい」とは言うものの、強要や暴言などの悪質クレーム、いわゆる「カスタマーハラスメント」は脅威です。対応を誤ればイメージ低下や顧客離れを招きかねません。企業はカスタマーハラスメント対策を真剣に講じる必要があります。

2 カスタマーハラスメントが生まれる要因

1)増加するも抜本的な解決策を見いだせず

社会問題化しつつあるカスタマーハラスメントは、自社の商品開発や業務改善に役立つクレームとは異なり、「店員への土下座の強要」などのように、常識的に許される範囲を超えているのが特徴です。

カスタマーハラスメントを受けたことのある人は少なくありません。流通業などの労働組合であるUAゼンセンが2017年に実施したアンケート調査によると、「ある」と答えた人の割合は73.9%を占めます。「増えている」と答えた人の割合は49.9%で、「減っている」(3.3%)を大きく上回っています。

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中でも「暴言」「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」「権威的(説教)態度」の割合が高くなっています。「辞めろ」「死ね」と怒鳴られたり、同じ問い合わせを何回もされたり、「お前は私の会社なら首だ」と叱られたりするなどの例があるようです。

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こうしたカスタマーハラスメントへの対応は、「謝り続けた」と答えた人の割合が37.8%で最も高く、抜本的な解決策を見いだせずにいる企業は少なくないようです。

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2)利用客が企業や店員より強い立場に

「お客様は神様」といった考えが接客業を中心に根強く残っていることが、カスタマーハラスメントを生む要因の1つと考えられます。「利用客の要望に応えるのがサービス」という考えが根底にあるため、店員は多少理不尽でも要望を聞き入れたり、利用客の発言を否定しなくなったりします。その結果、「多少の無理を聞いて当たり前」「客の要望を満たすのが店員の仕事」と解釈した利用客を増長させてしまうのです。

SNSやブログサイトの影響力が拡大したことも要因です。「食べ物に異物が混入していた」「店員が失礼な態度を取った」などの失態は、SNSなどを介して容易に拡散される時代です。たった一度の失態も、企業の信用を大きく失墜しかねません。そのため企業は、拡散による信用低下を恐れるあまり、利用客の要望に常に応えようとします。こうした取り組みが利用客をかえって増長させ、さらなる悪質クレームを誘発させるのです。

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その他、UAゼンセンへのヒアリングによると、格差社会による歪みが一部の人のストレスを増加させ、反抗できない店員に強い態度を取らせてしまうことも要因になり得るそうです。消費者庁に代表される消費者偏重の保護体制も要因といえます。

消費者の立場が企業や店員より強い一方、企業や店員は消費者に言い返せず恐れているという構図が、カスタマーハラスメントを生む素地になっていると考えられます。

3 カスタマーハラスメントがもたらす弊害

1)企業のイメージ低下

言いがかりをつける利用客が店舗に頻出したり、SNSやブログサイトで自社商品やサービスの評価を下げられたりすると、自社や自社ブランドのイメージが損なわれかねません。イメージ低下は売り上げに影響し、企業の業績低迷にも直結します。一度低下したイメージを回復するのは難しいことから、長期的なダメージを被ります。

社会的な責任を負う可能性もあります。もし経営者による謝罪要求を受け入れれば、企業としての信頼が大きく失墜します。顧客離れはもとより、取引先や商談先と築き上げてきた関係も崩れかねません。

2)従業員の心的負担増加

暴言や暴力、威嚇などの行為は、対応する店員などにとって大きなストレスです。悪質な嫌がらせなどが続けば、心の病を患って長期離脱する店員も現れるでしょう。ストレスを強く受ける職場で働きたくないと考える店員が、離職する恐れもあります。

利用客による過度な要求は店員を疲弊させる他、働くモチベーションを低下させます。こうした職場環境を抱える企業は、従業員の離職率増加と定着率減少に悩まされる他、人材獲得が難しくなるといった課題に直面することになります。

3)利用客への影響拡大

自社商品やサービスのファンだった優良な利用客が、一部の言いがかりを発端とした風評被害で離れてしまう可能性があります。中でもSNSやブログサイトに投稿された口コミの影響力は甚大で、たとえ誤った情報でも真実と受け止められかねません。誤った情報を信じる利用客の中には、少なからず不信感を芽生えさせてしまう人もいるでしょう。

悪質なクレーム対応に時間を割かれると、他の利用客の満足度も低下します。店舗を訪れる利用客に商品などを十分に説明できなくなるため、利用客の商品知識やブランドへの理解が定着しにくくなることが懸念されます。

4 カスタマーハラスメントの傾向

1)クレームの悪質性の有無を見極める

利用客のクレームが悪質かどうか判別しにくいことが、店員や企業の対応を難しくしています。利用客が一方的に謝罪を要求したとしても、店員や企業に落ち度があれば一概に悪質とは言えません。10分で済む接客に1時間以上かかっても、利用客の主張に正当性があれば、それは必要な時間といえるでしょう。

「このクレームは悪質である」と断言しにくいことに加え、クレームは状況に応じた個別性が高いため、多くの企業が具体的な対策を講じるのに苦慮しています。

とはいえ、カスタマーハラスメントの対応を場当たり的にしのぐのは好ましくありません。そこで次の言動が見られる場合、カスタマーハラスメントを疑い、注意深く対応することが望まれます。

  • 大声で怒鳴る、威嚇する
  • 一般的には無理な要求を突き付ける
  • 店員の人格を否定する、名誉を毀損する
  • 責任者や経営者による対応を執拗に迫る
  • 危害を加える、器物を破損する

その他、店員や企業側の落ち度を理由に高額な賠償を請求したり、理不尽な要求を何回も何時間もし続けたりするケースも、状況によっては悪質性が疑われます。悪質性の有無を早期に見極め、不当な強要や暴言が続くようなら、毅然とした態度で拒否することが大切です。

2)カスタマーハラスメントの主な例

カスタマーハラスメントに該当する行為を分類すると、「暴言」「説教」「威嚇・脅迫」「拘束」「セクハラ行為」「暴力」などがあります。次の具体的な悪質クレーム例を参考に、自社でどのような対策を講じるのかを分類ごとに検討してみましょう。

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5 カスタマーハラスメントを退ける具体策

1)不用意に謝らない

「申し訳ございません」「すみません」などの発言に注意します。言いがかりをつける利用客の中には、「謝罪=非を認めた」と受け止める人がいるからです。不用意な謝罪は利用客をさらに増長させ、経営者の謝罪や高額な賠償などを要求する事態につながりかねません。

とはいえ、店員や企業に落ち度があれば謝罪は必要です。全ての言いがかりに対して「謝罪しない」という姿勢ではなく、利用客の気持ちをくみ取った配慮を示すことが大切です。謝罪する場合、漠然ではなく何について謝るのかを明確に示すことも必要です。

2)即答しない

利用客からの要求に対し、「分かりました」「そのようにします」などの即答は避けるべきです。事態を早急に収拾しようと、要求を安易に受け入れるのは禁物です。利用客の主張を正しく認識し、店員個人としての判断ではなく、事実確認や原因を踏まえた上で、企業として判断するのが望ましいでしょう。

曖昧な返事にも注意します。「結構です」「検討します」といった発言は肯定と受け取られます。拒否する場合、「即答できません」「約束しかねます」などときっぱり否定します。

3)トップを出さない

「店長を出せ」「社長を呼んでこい」などの要求は原則、のむべきではありません。意思決定者が対応すると即答を迫られるからです。再び言いがかりをつけに現れたとき、「前回は店長が対応した。今回も店員ではなく店長に代われ」などと、責任者の対応が常態化する懸念もあります。

もっとも、判断の難しい要求は店長やエリア統括マネジャーなどに代わるケースがあります。責任者としての見解を求められたり、解決まで長期化しそうだったりする場合、責任者に対応を引き継ぐことも必要です。

4)対応時間を短くする

言いがかりをつける利用客の中には店員を何時間も拘束し、理不尽な要求をし続けるケースがあります。店舗の営業時間終了後も店員を拘束し続けることは珍しくありません。長時間の拘束によって業務が停滞しないよう、できるだけ短い時間で対応を打ち切ります。

「○時○分までお話をうかがいます」などと、対応可能な時間を事前に伝えても構いません。対応時間を過ぎても帰らない場合、警察に通報するなどの措置を検討します。対応時間は長くても30分程度を目安にするとよいでしょう。

6 企業としての対策を講じる

1)全社で情報を共有する

過去に対応したカスタマーハラスメントの事案は、全社で共有することが大切です。利用客の具体的な要求、態度、行為などを記録し、どんなケースが多いのかを把握できるようにします。加えて、過去の事案に応じた対策も周知します。

店員が「クレームは接客対応した自身のミス」と受け止めて、報告をためらうことがないようにします。具体的には、クレームに関する相談窓口を用意するとよいでしょう。どう対処すべきかアドバイスを受けられるようにするとともに、店員の心をケアするために有効です。女性店員が相談しやすいよう女性の窓口担当者を配置するのも一案です。

2)マニュアルを作成する

接客や電話応対に不慣れな若手社員の場合、カスタマーハラスメントに対して誤った対応をする恐れがあります。企業としてどう臨むのかをマニュアルで標準化し、経験の浅い社員でも適切に対応できるようにします。

特に、利用客の要求に応えるか否かを明確に定めることが必要です。企業によっては「お客様の要求には徹底的に応える」といった方針を打ち出すケースが見られるものの、悪質で理不尽と思われる要求は断る方針も示すべきです。

店員の中には「たとえ悪質であっても要求に応えないと会社に迷惑をかける」と思う人がいます。カスタマーハラスメントには毅然とした態度で臨むという企業方針を打ち出すことが、従業員を保護するためには必要です。

3)2人以上で対応する

言いがかりをつける利用客の対応は、担当者1人を孤立させず2人以上を配置できるようにします。できるだけ多人数で対応し、利用客が威圧的な態度や恫喝(どうかつ)しにくい雰囲気をつくります。

状況に応じて利用客の要求をメモします。利用客の要求を正しく把握するとともに、訴訟になったときの証拠とします。会話の録音やカメラによる録画も有効です。「録音/録画する」という行為自体が、暴言や威嚇の抑止力にもなります。

4)外部と連携する

利用客の暴力やセクハラ行為などを想定し、警察との支援体制を確立します。近隣の警察署の担当部署や問い合わせ窓口などを事前に確認し、非常時にはすぐ通報できるようにします。

弁護士への相談体制も検討します。顧客や消費者とのクレーム対応や、カスタマーハラスメントを含むハラスメント全般に精通する法律事務所は少なくありません。こうした専門家のアドバイスを受けられる体制づくりも視野に入れましょう。悪質クレームを続ける利用客に対し、法的措置に踏み切るなどの強い姿勢を示せるようにします。

なお、カスタマーハラスメントに関する弁護士への電話相談が無料になる保険も登場しています。体制や対策を自社で講じられない場合、こうしたサービスの活用を検討してもよいでしょう。

以上(2018年12月)

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画像:pexels

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