書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:契約不適合責任や危険負担など債務の履行のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 契約不適合責任の新設

1)契約不適合責任とは

改正民法では、「瑕疵(かし)担保責任」が廃止され、「契約不適合責任」が新設されました。契約不適合責任とは、特定物(取引の目的物として当事者が物の個性に着目した物)の売買(例えば、中古カメラ)か、不特定物(例えば、新品のカメラ)で分けることなく、目的物が契約内容から乖離(かいり)していることに対する責任です。

この改正により、買主が請求できる内容が増えました。旧民法では、目的物の欠陥に関する買主の救済手段は損害賠償請求と解除の2種類でしたが、これらに加えて、追完請求権や代金減額請求が可能となりました。

追完請求権とは、「代替物を引き渡せ」「不足分を引き渡せ」「目的物を修補せよ」といった債務の完全履行を請求する権利です(改正民法第562条第1項)。改正民法では、売主が契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合、追完が不能であったり、不相当な負担が生じたりするときを除き、買主には追完請求権が認められました(買主の追完請求に対する売主の責任は無過失責任)。

また、売主が契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合、買主の責めに帰すべき場合を除き、新たに代金減額請求権が認められました(改正民法第563条第1項、第2項)。代金減額請求権は、基本的には履行の追完がなされないときの二次的な救済策との位置付けです。

なお、追完請求権または代金減額請求権を行使しても、損害賠償の請求および解除権を行使することはできます(改正民法第564条)。

2)実務上の留意点

売主は、買主に追完請求を許すことで、場合によっては大きな負担となったり、対応が煩雑になったりすることがあります。そこで、売買契約において、買主が契約不適合であることを知っていた場合(例えば、売買契約上は、商品は仕様書に基づくと定められているものの、複雑な仕様のため、実際には仕様書と異なる点があることを売主は知らず、買主だけがそれを認識していたような場合等)について、一定の場合には責任を負わない特約を置いたり、契約不適合責任そのものを排除する特約を置いたりすることが考えられます。

また、追完請求権そのものを排除しないとしても、追完請求権の内容を特定することも考えられます。例えば、デザイナーの装飾を付したカメラを販売した場合、代替物を用意するが、同水準の別のデザイナーの装飾となるなどです。他には、追完請求権は排除しないが、補修に過大の費用(○円以上、売買代金の○%以上)を要する場合には、補修を行わないと明記することも考えられます。

また、売主としては、契約の交渉経緯や契約の動機を証拠に残すことが必要です。買主は契約に適合しないと主張して責任を請求してきますが、「契約に適合するかどうか」の解釈は、合意の内容や契約書の記載内容だけでなく、契約の性質(有償か無償かを含む)、当事者が契約をした目的、契約締結に至る経緯をはじめ、一切の事情を考慮して評価・判断されると考えられます。そのため、契約過程でどのようなやり取りをしたかを記録しておくことや、契約書に契約締結過程について記載しておくことが重要です。

なお、細かい点ですが、瑕疵担保責任は廃止されたので、契約書の中では「瑕疵」という用語を使わないことが望ましく、従前のひな型を使いたいなどの理由により、「瑕疵」という用語を残す場合は、定義条項を置きましょう。例えば、「本契約において『瑕疵』とは、種類または品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう」といった文言が考えられます。

2 危険負担における債権者主義の廃止

1)危険負担とは

危険負担とは、債務者の責めに帰することができない事由により、目的物が滅失・損傷などによって履行不能となった場合、その危険(リスク)を誰が負担するのかという問題を指します。旧民法では、債権者がその危険を負担することとなっていました(特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約における場合)。

例えば、売買契約の締結後に、売主が買主に建物を引き渡す前に、火災などにより当該建物が滅失したとします。このとき、建物は引き渡せないため売主の建物引渡義務は消滅しますが、債権者である買主の代金支払義務は消滅しませんでした(いわゆる債権者主義)。

改正民法では、この第534条を削除しました。前述の例でいうと、買主は、そのまま代金を支払わないか、契約を解除することができるようになりました。

2)実務上の留意点

改正によって条文などは大きく変わりました。しかし、旧民法の結論(債権者主義)は、通常の意思に反し合理性に欠けることから、以前から、契約締結後引渡前の滅失・損傷について旧民法第534条の適用を回避するために、契約で特約を定めることが一般的でした。そのため、実務への影響は実質的にはあまり大きくはないと思われます。

まずは、自社が標準的に使用している契約書などにおいて、そのような特約が盛り込まれているかを確認しましょう。

3 危険負担における債務者主義についての改正

特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約については、債権者主義が適用されます。それ以外の契約については、債務者主義が採用されており、それ自体は変わりません。債務者主義とは、当事者双方の責めに帰することができない事由により一方の債務の履行が不能となったときは、他方の反対給付債務も消滅するというものです。例えば、ある建物の補修について契約を締結したものの、工事前に不可抗力で建物が全壊してしまい、補修工事ができなくなった場合、債権者である建物オーナーの工事代金支払債務も消滅します。

この点について、旧民法では、自動的に債務が消滅していたのに対し、改正により、債権者が反対給付債務の履行を拒むことができると定めるにとどめ、自動的に債務が消滅しないこととなりました。ただし、債権者は、債務の履行が不能である場合は、債務者の帰責事由を問うことなく、契約解除をすることができ、これにより自己の反対給付債務を消滅させることが可能となります。

例えば、建物が全壊して補修工事ができなくなった場合、旧民法では、債務が自動的に消滅するので、債権者は特段の手続きは必要ありませんでした。これに対し、改正民法では債務は自動的に消滅しないため、自己の反対給付を拒むだけではなく、消滅させるには契約解除の手続きが必要となります。

なお、本稿で紹介した契約不適合責任や危険負担についての改正を踏まえた売買契約のポイントについては、次のコンテンツが参考になります。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:pexels

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