書いてあること

  • 主な読者:訴訟提起による債権回収を検討している経営者
  • 課題:訴訟を起こすことのメリットやデメリットをしっかりと押さえておきたい
  • 解決策:判決で決着がつくが、それまでに時間とコストが掛かる。また、相手に支払う資産があるか、判決に従うかは別の問題となる

1 訴訟による債権回収

相手から任意に支払いを受けることが難しい場合、

裁判所の判決ではっきりした決着をつける(和解もある)のが訴訟

です。訴訟では、裁判所が争点となった債権債務の存在や金額を判決によって判断します。また、他の制度のように金額や債権の種類に制限はありません。そして、判決が出て控訴等がなされず確定すれば、その判決は「債務名義」と呼ばれ、「強制執行」ができます。

ただし、本格的に訴訟を提起する場合、弁護士に依頼して準備する必要があり、コストが掛かります。また、個別の事案によりますが、

訴訟提起から判決に至るまで1年以上掛かる

ことも少なくありません。その間に相手の財産状況が悪化したり、財産を隠匿されたりすると、勝訴したとしても回収できなくなる恐れがあります。そうした事態に備え、訴訟を提起する場合は仮差押えや仮処分なども利用しておくことが考えられます。さらに、裁判所から判決を得る場合は、売掛金などの存在や金額について、契約書、発注書、注文請書、納品書、請求書などによって証明しなければなりません。特に、取引先が作成した書類は重要な証拠になります。

訴訟のメリットとデメリットは次の通りです。これらを考慮して別の手段も検討しつつ、訴訟を提起するかを判断しましょう。

【訴訟提起のメリット】

  • 取引先と争いがある場合、終局的な解決を図ることができる
  • 勝訴判決を得れば、その判決に基づいて「強制執行」ができる

【訴訟提起のデメリット】

  • 訴訟を提起する場合、弁護士費用などの相応のコストが掛かる
  • 勝訴判決を得るためには、十分な立証が必要になる
  • 判決を得るまでに時間がかかる

2 訴訟の流れ(民事訴訟の場合)

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訴訟を提起する場合、まず訴状と証拠書類一式を裁判所に提出します。裁判所は、請求をする当事者(原告)が提出した訴状や証拠書類を審査し、相手方となる取引先(被告)に対し、訴状や期日呼出状を送達し、被告に反論があれば、反論をするように求めます。これに対して、被告は、反論となる答弁書や証拠を裁判所と原告に提出して、期日に出頭します。

期日では、裁判所が原告と被告の双方の主張を聞いて証拠を調べます。さらなる反論や追加の主張がある場合、必要に応じて複数回の期日が開催されます。個別の事案によりますが、このように書面および証拠のやり取りを通じて争点を絞り込んでいくやり取りがおおむね半年から1年程度続きます。

その後、双方の主張や証拠がおおむね出そろったものの、証拠書面だけで判断ができない場合は証人尋問が行われます。証人尋問が終わり、双方の主張や証拠が出尽くしたところで、審理を終結して判決がなされます。ただし、訴訟の進行状況により、裁判所から和解を勧められ、途中で和解が成立して訴訟が終了することもあります。以上のように、訴訟提起から判決までの期間は1年から1年半程度掛かることが通常です。

3 他制度との比較

訴訟に準じる手続として、民事調停、支払督促、少額訴訟などがあります。これらも裁判所を利用しますが、より簡易な手続となっているので検討してみてください。

1)民事調停との違い

裁判所を利用した話し合いの制度として、「民事調停」があります。民事調停は、簡易裁判所の裁判官と民間の有識者(弁護士や不動産鑑定士など)から選任された調停委員が間に入って、話し合いで解決を図る制度です。通常2~3回の期日で解決するものとされているため、訴訟と比較して時間や費用も掛からないというメリットがあります。

しかし、相手が全面的に争う姿勢の場合、話し合いによる解決の余地はなく、調停を申し立てる意味はないといえます。

2)支払督促との違い

形式的な書面審査のみで申し立てることができる制度として、「支払督促」があります。訴訟のように期日が開かれず、債務者から異議が出なければ、申し立てた通りの債務名義が得られるため、簡易迅速な手続きであることがメリットです。裁判所に納める収入印紙も訴訟の半分で済みます。

しかし、相手方に異議があると通常の訴訟に移行するデメリットがあります。そのため、相手が全面的に争う姿勢の場合、余計に時間が掛かることや、相手方住所地を管轄する裁判所での手続になるなどの不利もあり、初めから訴訟を提起することが考えられます。

3)少額訴訟との違い

請求金額が60万円以下の場合には、1回の期日だけで主張と立証を行い、裁判官が判決を出す制度として「少額訴訟」があります。

しかし、相手方が少額訴訟による審理を希望せず、通常訴訟に移行させたいとの申し出をした場合、通常訴訟に移行してしまうデメリットがあります。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:Mariko Mitsuda

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