書いてあること
- 主な読者:公益通報者保護法に基づく内部通報の体制整備について知りたい人
- 課題:中小企業の場合、内部通報窓口の設置などは努力義務。取り組む意味を知りたい
- 解決策:内部通報とハラスメント相談の窓口を一元化して、社内のリスク情報を集約する
1 内部通報とハラスメントとSDGs
公益通報者保護法により、2022年6月から
社員301人以上の企業は、内部通報窓口の設置など内部通報の体制を整備すること
が義務付けられています。一方、社員300人以下の企業は努力義務なので、対応しなくてもお咎めはありません。
にもかかわらず、内部通報窓口を設置している社員300人以下の企業の割合は、
2016年度(26.3%)から2023年度(46.9%)にかけて、20.6ポイントも上昇
しています(消費者庁「民間事業者の内部通報対応―実態調査結果概要―」)。これは、なぜなのでしょうか? 注目すべき理由は2つです。
- ハラスメント防止窓口の設置義務
- SDGsの要請
1.は全ての中小企業に関わることで、どうせハラスメント相談窓口を設置するなら、そこに内部通報窓口の機能も持たせ、社員の声を幅広く拾っていこうというのが経営者の狙いです。もともと内部通報窓口に寄せられる相談の多くはハラスメント関係なので、合理的ともいえます。
2.のSDGsは、徐々に中小企業にも認識が広まっています。内部通報窓口で対応できるのは「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」ですが、SDGsに向けた動きは今後さらに活性化していくでしょうから、先んじて対応すれば他社に差をつけることができます。
いかがでしょうか。社員300人以下の企業が内部通報窓口の設置に積極的なのには、納得できる理由があるのです。この記事では、全ての中小企業に関係する1.にフォーカスし、
公益通報者保護法の改正点と、内部通報とハラスメント相談の窓口の一元化
について紹介します。
2 公益通報者保護法の概要
1)公益通報者保護法とは
そもそも公益通報とは、
社員が社内の「不正行為」(一定の法令違反行為)について通報すること等
を指します。不正行為とは、横領や食品偽装などだけでなく、刑法に違反するようなひどい暴言・暴力などを伴うハラスメントなども含まれます。また、次のような種類があります。
- 内部通報:社内の窓口に通報
- 外部通報(行政通報・事業者外部への通報):行政機関やマスコミ・消費者団体などに通報
公益通報者保護法は、こうした公益通報を行った人を保護するための法律で、図表1のように対象者と保護の内容が定められています。
2)求められる体制の整備
公益通報者保護法では、
内部通報に適切に対応するために必要な体制を整備すること
が求められています。具体的に必要な対応は次の2つです。
- 内部通報の担当者(以下「公益通報対応従事者」)を定める
- 「部門横断的な公益通報対応業務を行う体制」「通報者を保護する体制」「内部通報の対応を実効的に機能させる体制」を整備する
1.公益通報対応従事者
公益通報対応従事者とは、内部通報の受付、通報を受けての調査、是正措置に関する業務などを行い、通報者氏名などを伝達される人のことです。この公益通報対応従事者には、罰則付きの守秘義務が課されます。守秘義務とは、
正当な理由なく、通報対応で知り得た情報や通報者を特定する情報を漏らさないこと
です。故意に情報を漏洩した場合、公益通報対応従事者本人に30万円以下の罰金が科されます。
企業には次のような対応が求められます。
- 公益通報対応従事者を定める際に、本人に守秘義務が課されていることを説明し、書面で同意してもらう
- 公益通報対応従事者を対象に、教育や研修を充実させる
2.体制の整備
体制の整備に当たって必要な措置としては、図表2のようなものがあります。
3.罰則
ここまで紹介した体制の整備義務等に違反した場合、行政による報告要求、助言、指導、勧告を受けることになります。勧告を受けても従わないと、企業名公表の対象になるので注意が必要です。報告をしない場合や行政に虚偽の報告をした場合、20万円以下の過料が科されます。
3 内部通報とハラスメントの窓口を一元化
冒頭で紹介した通り、中小企業の経営者の興味は、
内部通報窓口とハラスメント相談窓口を一元化して、幅広いリスク情報を受け付ける
ことです。メリットは大きい一方、根拠法が違うため通報対象範囲や保護の範囲などが異なります。一元化するときは、特に図表3の赤字部分に注意してください。
内部通報窓口ではハラスメントの他にも、刑法、食品衛生法、個人情報保護法などで禁止されている行為を取扱います。また、社員だけでなく役員や退職者も保護の対象となります。ハラスメントの場合は関係者を特定できないと調査が行えない可能性が高いのに対し、内部通報の場合は匿名の通報にも正当な理由がない限り対応しなければならない点にも注意が必要です。
以上(2024年11月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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