1 安全配慮義務の根拠

労働者が業務従事中に事故により死傷等した場合において、最高裁は、使用者は、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき業務を負」う(川義事件・最判昭和59年4月10日)との判断を示し、これを受けて、労働契約法5条が「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」明記するに至りました。よって、労働者は会社に対して、労働契約法5条に基づき、労働契約上の債務の不履行として、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求ができることになります。

2 請求原因

(1)安全配慮義務の存在

一般に、債務不履行を理由として損害賠償請求する場合、債権者において、債務者が債務を負っていることを主張・立証しなければならず、安全配慮義務に基づく損害賠償請求をする場合でも同様です。よって、労働者側から会社が安全配慮義務を負っていることを主張・立証しなければなりません。上述したように、安全配慮義務は、労働契約に基づいて、法律上当然に発生しますから、労働者側は、労働契約を締結した事実を主張・立証すれば足りることになります。

(2)安全配慮義務違反

次に、債務不履行を理由として損害賠償請求をする場合には、債権者において、債務が履行されていないことを主張・立証しなければならないため、労働者側から義務違反に該当する具体的事実を主張・立証しなければなりません。そのため、労働者としては、会社側は具体的にいかなる安全配慮義務を負っていたかを特定したうえで、どのようにかかる義務に違反したかを具体的に主張・立証する必要があり、抽象的に生命、身体を害しないようにする義務を負っているという程度の主張では足りません。

そして、安全配慮義務の具体的な内容については、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる具体的状況等によって異なるとされ(前掲川義事件)、具体的な状況を、①物的な環境に関するもの、②人的な環境に関するもの、③体制としての環境に関するもの、の3通りに分類すれば1、具体的内容として以下のようなものが考えられます2

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(3)損害・因果関係

加えて、損害および安全配慮義務違反と損害との間の因果関係を主張・立証する必要があります。

(4)小括

以上を整理すると、請求原因としては、以下の通りとなります。

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1酒井正史「職場環境に関する安全配慮義務をめぐる裁判例と問題点」判タ1192号64頁

2國井和郎「第三者惹起事故と安全配慮義務」判タ529号196頁

(日本法令ビジネスガイドより)

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