書いてあること

  • 主な読者:反社会勢力からの被害の防止に備えたい経営者
  • 課題:具体的にどのような対策をしておけばよいのか分からない
  • 解決策:ケースごとの具体的な対応要領を押さえておく。相談窓口も確認しておく

1 反社会的勢力の活動の状況

暴力団やその関連企業など(以下「反社会的勢力」)は、組織の実態を隠し、企業活動を装ったり、共生者(注)を利用したりするなどして、活動を不透明化させています。反社会的勢力は、企業などに対してさまざまな手段で不当な要求を行い、活動の資金源としており、証券取引や不動産取引などを通じて資金獲得活動を巧妙化させています。

暴力団関係相談受理件数の推移は次の通りです。ただし、これはあくまで警察と暴追センターに寄せられた相談受理件数であり、実際には、警察や暴追センターに相談していないケースもあると考えられます。

(注)暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力などを利用し自らの利益拡大を図る者。

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2 反社会的勢力の活動への対策のポイント

1)反社会的勢力による被害を防止するための基本原則

政府は、2007年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ。以下「指針」)を公表し、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、次の5項目を示しています。

  • 組織としての対応
  • 外部専門機関との連携
  • 取引を含めた一切の関係遮断
  • 有事における民事と刑事の法的対応
  • 裏取引や資金提供の禁止

2)経営トップのコミットメント

企業が組織として対策を進める上で重要なのは、「反社会的勢力とは一切の関係を持たない」という基本方針と、経営トップによるコミットメントです。多くの企業が、倫理規程として定める企業行動指針や、就業規則など従業員が順守しなければならない義務を定めた規程の中で、反社会的勢力との関係遮断について明文化しています。

反社会的勢力の活動をリスクとして認識し、一切の関係を遮断することは、反社会的勢力の活動資金源を絶つことにつながります。

3)取引先の状況を確認する

新規取引先や既存取引先が反社会的勢力と関係していないか、調べ直すことも大切です。すぐに実行できる方法として新聞記事や雑誌記事を検索し、取引先の企業情報を収集・分析することが挙げられます。

また、専門会社のデータベースを利用するのもよいでしょう。例えば、企業の危機管理を総合的に支援するエス・ピー・ネットワークでは、反社会的勢力に係る独自のデータベースを使った情報分析サービスを提供しています。

この他、所轄の警察署や都道府県警察本部の暴力団対策主管課に照会する方法も考えられます。警察では、取引などの相手方が反社会的勢力でないことを確認するなど、暴力団排除条例に定められた事業者の義務を履行するために必要と認められる場合には、可能な限り情報提供を行っています。

4)契約書や取引約款に「暴力団排除条項」を盛り込む

暴力団排除条項は、取引先が反社会的勢力と認められる場合には一方的に契約を解除できることを定めるもので、反社会的勢力との関係遮断のために有効です。ただし、現行の契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込む場合、「コンプライアンスを重視する企業の姿勢を示す一環として、暴力団排除条項を盛り込むことになりました」と説明するなど、取引先に失礼のないようにしなければなりません。

5)日ごろからの対策

反社会的勢力の活動への対策を進めることは、企業の社会的責任の観点からも重要です。基本方針に基づいて、反社会的勢力への応対の方法を検討します。また、責任体制を明確にし、経営トップ以外で直接応対に当たる責任者を選任し、日ごろの心構え、具体的な応対要領を従業員に徹底します。

3 具体的な応対要領

1)相手を確認する

初対面の段階で、名刺をもらうか面会カードに記載を求めるなどの方法で相手の氏名、勤務先などを確認します。相手がこれに応じなければ、「お引き取りください」などと面談を断ります。

2)相手より有利な人数や場所で短時間で応対する

反社会的勢力の常とう手段は、大声や脅し文句で不安・恐怖を与え、懐柔するそぶりで困惑させ、要求に応じざるを得ないようにするものです。面談の際には、相手より多い人数で社内で応対することで心理的に優位な状態を保ちます。

反社会的勢力が指定する場所(暴力団の組事務所など)に出向いてはいけません。また、応対時間は、あらかじめ15分などと決め、それ以上に長引くようならば「お引き取りください」と言って面談を打ち切ります。なお、茶菓を出す必要はありません。

3)用件を確認する

初期段階で、相手の用件や要求内容を確認することが重要です。反社会的勢力は、恐喝や威力業務妨害などの罪に問われることを恐れて、「誠意を見せろ」などと要求内容を明示しない場合が多いので、「具体的にどうすればよいのですか」などと聞き返し、要求内容と根拠を相手自身から明確に引き出します。

なお、「お前では話にならない。社長(最高責任者)を出せ」と言われても、応対の責任者が「当社では、私がその担当者ですので、まず私が話を伺い、報告することになっています」と言って最高責任者には取り次がないようにします。

4)言動に注意する

反社会的勢力は巧みに論争に持ち込んで、相手の失言を誘い、言葉尻を捕らえて因縁をつけてきます。不用意な発言をしないように慎重に言葉を選び、発言は必要最小限にとどめます。また、相手の不当な要求に対しては、曖昧な返答をしないで明確に断ります。その場を逃れようとして「検討します」「善処します」などと言うのは禁物です。

5)応対内容を記録する

反社会的勢力との電話や面会の際には、応対内容を録音したり、メモを取ったりして正確に記録に残すことが重要です。また、事前に「正確を期すため、会話の内容を録音させていただきます」と告げることは、相手をけん制する上で効果的です。

6)わび状などの書類作成は拒否する

反社会的勢力は、「一筆書けば許してやる」などとわび状や念書を書かせようとします。わび状や念書は、相手の不当な要求に対して、非を認めた証拠となります。相手に有利な交渉材料を与えるだけなので、わび状や念書の作成には絶対に応じてはいけません。

7)警察に通報する

反社会的勢力が暴行や器物損壊など不法行為に及んだときは、直ちに警察に通報します。受傷事故などを防止するために、気付かれないように通報するとよいでしょう。通報することを相手にとがめられたら、「警察にそうするように指導を受けている」と答えます。

4 ケースを想定した対応策

1)見知らぬ団体などから機関紙・図書などが送り付けられ、料金を請求される

売買契約を結んでいない機関紙・図書が送り付けられてきた場合、相手に返送するのが基本です。

開封前であれば、メモ用紙に「受取拒否」と記載し、受取人の名前を記載して押印した上、郵便物などの宛名面に貼り付け、郵便局などを通じて返送します。

開封後であっても、購読拒否の意思を相手に明確に伝える文書を同封し、簡易書留や宅配便で送付します。なお、後日、言い掛かりをつけられる可能性もあるため、書留郵便物受領書や宅配便の送付依頼書、同封した文書の控えを保管しておくとよいでしょう。

2)見知らぬ団体などから電話があり、機関紙・図書などの購入を要求される

電話による機関紙・図書の購入要求に対しては「必要ありません」と明確に拒否することが基本です。

相手が「同業他社の多くが協賛している」「今回限りで構わない」などと強引に購入を要求してきても、その場しのぎに要求に応じてはいけません。また、「結構です」などといった、どちらとも取れる返答をするのは禁物です。なお、機関紙・図書などを購入するかしないかは、各企業の自由意思であり、購入を拒否する理由を告げる必要はありません。

今まで機関紙・図書の購読をしている場合でも、購入に至った経緯や現状での必要性を改めて確認し、必要のないものであれば購入を断るべきです。

5 主な相談先

各都道府県に設置されている暴力追放運動推進センターでは、反社会的勢力の活動に対する企業の対応について、弁護士や警察出身者など専門知識や経験を有する暴力追放相談委員による相談を受け付けています。

また、暴力追放運動推進センターや警察署では、暴力団対策法に基づき、事業所ごとに選任された不当要求防止責任者に対して、暴力団の情勢や暴力団からの不当な要求の対処方法などに関する講習を実施しています。

反社会的勢力の活動に関しては、所轄の警察や暴力追放運動推進センターの担当者との連携を密にし、ささいなことでも早期に相談するとよいでしょう。各都道府県の暴力追放運動推進センターは次のウェブサイトで確認することができます。

■全国暴力追放運動推進センター「都道府県暴追センター連絡先一覧表」■
http://fc00081020171709.web3.blks.jp/center/index.html

日本弁護士連合会や各地の弁護士会でも、反社会的勢力の活動に関する相談を受け付けています。

■日本弁護士連合会■
https://www.nichibenren.or.jp/

以上(2018年10月)

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