書いてあること

  • 主な読者:公正証書を作成して、債権回収の強制力を強めたい経営者
  • 課題:公正証書の具体的な効力が分からない
  • 解決策:「強制執行認諾文言」を定めた公正証書であれば、判決に従わず、債務を履行しない相手から強制的に回収できる(強制執行)

1 強制執行の申立ができる「公正証書」の作成

公正証書とは、

公証役場で公証人がその権限に基づいて作成する文書(公文書)

です。単なる公正証書は私的な契約書と比べて訴訟における証明力は非常に強いですが、法的効力自体は同じです。公正証書に私的な契約書よりも強力な効力を持たせるためには、

公正証書に「強制執行認諾文言」を定める

必要があります。強制執行認諾文言とは、

債務を履行しない場合は、「強制執行」を受けてもやむを得ないという条項

です。強制執行認諾文言が入った公正証書を「執行証書」と呼び、確定判決などと同様に「債務名義」になります。

強制執行とは、

判決等によって債務の履行をすべきであるにもかかわらず、相手がそれに応じない場合、裁判所に「強制執行の申立」をして、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する

ことです。国家の強制力という表現からも非常に強い手続であることが分かります。それ故に強制執行の申立をするには「債務名義」が必要です。債務名義とは、簡単にいうと、

強制執行をする根拠となる文書であり、債権債務の存在を公に認めるもの

です。執行証書は債務名義になるわけですから、その効力の大きさが分かります。

ただし、執行証書は一定の額の金銭の支払い等を目的にするものに限られるため、継続的に取引が行われ、支払額が定まらない「基本契約書」の場合は作成できません。また、執行証書に「執行文」が付与されていなければ強制執行はできないのですが、この点は後述します。

2 強制執行を開始するための要件

執行証書に基づいて強制執行を開始するための要件が2つあります。

1つ目は、

執行証書の正本に執行文の付与を受けること

です。執行文とは、

債務名義に付与されるもので、強制執行ができるという証明

です。執行証書の場合、原本を保存する公証人が債権者の申し立てによって執行文を付与します。少しくどいですが、執行証書であっても執行文の付与がなければ強制執行はできません。

2つ目は、

執行証書の謄本をあらかじめ執行を受けるべき債務者に送達し、そのことを公証人の作成した送達証明書によって執行機関に証明すること

です。

執行文付与の手続は次の通りです。

  1. 執行証書の正本を所持する債権者が、その原本を保存する公証人に対し、手数料を納付して執行文の付与を請求する
  2. 債権者が執行証書の正本を提出して執行文の付与を求めたときには、公証人は、その正本の末尾に、「甲(債権者)が乙(債務者)に対しこの証書により強制執行することができる」旨の文言を付記して、これを債権者に交付する
  3. 執行証書の記載から、金銭請求権が債権者の証明すべき事実の到来(例えば、目的物を先に提供することが条件になっている場合など)にかかっているときは、債権者が、その事実の到来した(条件が成就した)ことを証する文書を提出しない限り、執行文を付与できない場合がある

3 公正証書の作成

以上、公正証書の有効性を紹介してきました。公正証書の作成には手間、時間、費用(相手方の負担にすることもできます)がかかります。また、債権回収のリスクを考えても、全ての契約書を公正証書にする必要はありませんが、取引金額が大きいなどの場合は検討に値します。

詳細は日本公証人連合会のウェブサイトなどに記載されていますが、補足として、以下に公正証書を作成するまでの流れを簡単に紹介します。

■日本公証人連合会■

https://www.koshonin.gr.jp/

まず、契約書に次のように定めておきます。

甲(売主)及び乙(買主)は、本契約締結後速やかに、強制執行認諾条項付の公正証書を作成する。なお、公正証書作成費用は、乙の負担とする

こうすると、契約書に基づいて公正証書が作成される流れとなります。

なお、公正証書を作成する際は、原則として、売主(債権者。以下、同様)と買主(債務者。以下、同様)が公証役場に行きます。しかし、手続上、公正証書を作成したい売主が、買主から公正証書作成のための代理人の選任の委任を受け、後日、売主が買主の代理人を選任して公正証書を作成することもあります。

売主本人が公正証書を作成する当日に公証役場に行かずに売主の代理人と買主にて公正証書を作成する場合の基本的な手順は次の通りです。

  1. 売主と買主が協議して売買契約書を作成する
  2. 買主が「売買契約書の内容について強制執行認諾条項付公正証書とする旨を委任する」旨の委任状に署名なつ印(実印)して、印鑑証明書とともに売主に交付する。その際、添付する売買契約書になつ印する
  3. 委任状があれば、買主の代理人は買主の社員や知人でもよく、その代理人と一緒に公証役場に行き、公正証書の原本に署名なつ印の上、公正証書を作成してもらう
  4. 売主は、作成された公正証書を買主本人に送達することを公証人に申請する(その際、送達証明書の交付も申請。送達証明書の交付は強制執行を開始するための要件。後に強制執行をすることになった場合、買主が行方不明になっていたり、公正証書の受領を拒否したりするなど、強制執行を妨げる事態が生じることを防ぐため)
  5. 売主が、送達証明書を公証人から交付されて完了

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所弁護士 栗原功佑)

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画像:Mariko Mitsuda

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