書いてあること
- 主な読者:取引先が「会社更生手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
- 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
- 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められ、中小企業の救済措置もある
1 「会社更生手続」の位置付け
取引先が会社更生手続を申立てた場合、自社もその影響を受けます。そのため、取引先の会社更生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。
会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、
- 私的整理:裁判所を利用しない
- 法的整理:裁判所を利用する
に大別されます。法的整理はさらに、
- 清算型:会社の清算を目的とする
- 再建型:会社の再建を目的とする
に大別されます。
会社更生手続とは、
規模の大きな会社(株式会社に限る)の利用を想定した制度
です。そのため、多数の関係者の利害調整を行うことができるように、厳格な手続が定められています。なお、債権回収の可能性という観点で見ると、手続が厳格な分、民事再生手続よりも会社更生手続のほうが手続外で取り得る手立てが限られています。
では、会社更生手続の基本的なポイントを紹介していきます。なお、会社更生手続には、株主も利害関係者として参加できますが、この記事は債権者の視点を中心にしているので、株主に関する規定は省略します。
2 会社更生手続における債権の分類
会社更生手続では、債権を3つに分類します。
商取引上の債権の多くは更生債権です。また、更生債権の中には、一般の「先取特権」のように優先的取扱いのされる更生債権や、更生手続開始後の利息請求権などのように劣後的取扱いのされる更生債権があります。
民事再生手続との大きな違いは、
担保権が「更生担保権」として会社更生手続に取り込まれ、手続外での自由な権利行使が認められなくなる
ことです。つまり、担保権を行使することができなくなります。
3 会社更生手続の概要
会社更生手続の主な流れは次の通りです。図の網掛けについては以降で詳しく紹介しています。
1)更生債権等の届出
更生債権者は、定められた債権届出期間内に、裁判所に自身の債権の内容などを届け出ます。会社更生手続に取り込まれる担保権を有する者(更生担保権者)も届け出なければなりません。
また、民事再生手続においては、届出がない再生債権についても再生債務者が自認していれば再生債権に取り込まれますが、会社更生手続にはこうした制度がありません。その代わり、会社更生手続には、知れたる債権者が届出をしない場合、債権届出期間の末日を通知する旨の規定があります。
2)更生計画案の決議・認可
更生計画は、民事再生手続における再生計画に当たるものです。
ただし、更生計画では「更生担保権」「一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権」「更生債権」「約定劣後更生債権」「残余財産の分配に関し優先的内容を有する種類の株式」「これ以外の株式」の順で優先順位が定められます。原則として、上位の権利者のほうが債権の削減幅が小さくなる可能性が高いです。
また、可決の要件は、更生債権者・更生担保権者・株主ごとに異なる定めがなされています。議決権を行使する場合は、事前に確認をしておいたほうがよいでしょう。
4 会社更生手続中の取引先から債権回収する手立て
更生債権等は、原則、更生計画に基づいて権利の変更がなされ、それに従って弁済などを受けることになります。しかし、更生計画とは別に、債権回収を図ることができる手立てもあります。
民事再生手続と同じように、会社更生手続においても、
債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺
できます(相殺の条件は、基本的には民事再生手続と同じです)。同様に、中小企業者の債権の弁済の許可や少額債権の弁済の許可が定められています(内容は、基本的には民事再生手続と同じです)。
以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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画像:Mariko Mitsuda