書いてあること
- 主な読者:取引先が「民事再生手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
- 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
- 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められ、中小企業の救済措置もある
1 「民事再生手続」の位置付け
取引先が民事再生手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の民事再生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。
会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、
- 私的整理:裁判所を利用しない
- 法的整理:裁判所を利用する
に大別されます。法的整理はさらに、
- 清算型:会社の清算を目的とする
- 再建型:会社の再建を目的とする
に大別されます。
民事再生手続は、
株式会社の他、個人や株式会社以外の法人においても利用できる制度
になります。財産の管理・処分権は原則として債務者が有することとなっており、各種手続も同じ再建型の手続きである会社更生手続よりも柔軟です。
では、民事再生手続の基本的なポイントを紹介していきます。
2 民事再生手続における債権の分類
民事再生手続では、債権を4つに分類します。
商取引上の債権の多くは再生債権です。再生債権は、「債権は○%カットされる」など権利変更の対象になります。一方、共益債権・一般優先債権は再生手続によらず、随時弁済を受けることができます。また、詳細は省略しますが、通常の商取引では開始後債権に該当するものは限られます。
上記の他、「再生手続開始後の利息請求権」や「再生手続開始前に劣後的債権とすることを合意した債権」などは、劣後的取扱いのされる再生債権となります。
3 民事再生手続の概要
民事再生手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。
1)裁判所による保全処分・中止命令等
会社を再建するには、債務者が所有する財産の散逸を防がなければなりません。そのため、民事再生手続の申立てから開始までには、債権者などの権利行使を制限するさまざまな定めがあります。例えば、裁判所は、一部の債権者のみに弁済したり、各債権者が自己の債権回収を進めたりすることを防ぐため、申立てまたは職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。加えて、こうした個別の対処では不十分な場合に備えて、
再生手続開始の決定までの間、全ての再生債権者(再生債権の権利者)に対して、強制執行などを包括的に禁止する
こともできます。
例外的な債権回収方法は後述しますが、
再生債権に関しては、民事再生手続申立て後は、基本的に認可を受けた再生計画によらずに弁済を受けることは難しい
と考えておいたほうがよいでしょう。
2)再生債権の届出
再生債権者は、民事再生手続の開始決定時に定められた債権届出期間内に、裁判所に自らの債権の内容等を届け出なければなりません。
再生債務者(再生手続の対象者)は、届出があった再生債権について、その内容などの認否を記載した認否書を作成します。原則、この認否書の内容に基づいて各再生債権者の債権の額などが調査・確定されます。再生債務者は、届出がない再生債権があることを知っているときは、それも再生債権に含める必要があります。
3)再生計画案の決議・認可
再生計画とは、
再生債務者の再生を図るための取り組みなどを定めた計画
のことです。再生計画には、全部または一部の再生債権者の権利を変更する条項、共益債権および一般優先債権の弁済に関する条項などが定められます。再生債権者から見ると、「債権は○%カットされる」など、権利変更の内容が定められた計画です。
再生債務者などが裁判所に再生計画案を提出すると、裁判所は書面などによる決議または債権者集会による決議に付します。このとき、再生債権者は再生債権額などに応じて議決権を有します。再生債権者にとっては、意思表示ができる数少ない機会です。
可決要件は、債権者集会に出席している再生債権者または書面などによる議決権を行使した債権者の頭数による過半数の賛成と、議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者の賛成の双方が必要となります。
4 民事再生手続中の取引先から債権回収する手立て
1)債権債務の相殺
再生債権者が再生債務者に対して債務がある場合、
債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺
できます。相殺できる債権債務には一定の条件があります。主な条件は次の通りです。
- 自働債権(相殺の意思表示をする側の債権。この場合は再生債権者)の弁済期が再生債権届出期間満了前までに到来していること。受働債権(相殺の意思表示をされる側の債権。この場合は再生債務者)の弁済期間が到来している必要はない
- 再生債権者による相殺の意思表示が、再生債権届出期間内に相手方に到達していること
2)担保権の行使
民事再生手続開始の時点で、
再生債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、民事再生手続によらずに行使できる
とされます。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、競売などを通じて債権回収できる可能性があります。
「特別の先取特権」は、「動産売買の先取特権」と「不動産の先取特権」に分けて詳細が定められています。動産売買の先取特権の場合、例えば、
再生債務者が自社から仕入れた商品を転売している場合、再生債務者が転売先に対して有する売掛金などの債権を、裁判所の債権差押命令によって差押さえて債権回収できる
場合があります。こうした方法で全額弁済を受けることができない場合は、不足する部分について、再生債権者として権利を行使することができます。
なお、一般の先取特権は別除権とはなりませんが、これによって担保される債権は、一般優先債権として、再生手続によらずに随時弁済を受けることができます。
3)その他の手立て
ここで紹介する手立ては再生債務者の申立てや裁判所の職権によるものなので、債権者が主体的に始めることはできません。しかし、債権回収の可能性がある手立てなので紹介します。
1.中小企業者の債権に対する弁済の許可
再生債務者を「主要な」取引先とする「中小企業者」が、再生債権の弁済を受けなければ事業継続に著しい支障を来す恐れがあるとき、裁判所は再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者などの申立てや職権によって、その全部または一部の弁済を許可することができます。
なお、「主要な」や「中小企業者」について絶対的な基準はなく、中小企業者と再生債務者のその規模や、再生債務者への依存度(取引高の規模)などが考慮して決められます。
2.少額債権の弁済の許可
「少額」の再生債権を早期に弁済することで民事再生手続を円滑に進められるとき、または「少額」の再生債権を早期に弁済しなければ、再生債務者の事業継続に著しい支障を来すときは、裁判所は再生計画が認可される前でも再生債務者などの申立てによって、弁済を許可することができます。
なお、「少額」についても絶対的な基準はなく、再生債務者の規模、債務の総額、弁済能力、弁済の必要性などが考慮して決められます。
以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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画像:Mariko Mitsuda