書いてあること

  • 主な読者:名称やロゴマークなどを「商標」として権利化したい経営者
  • 課題:名称やロゴマークしか保護されない? 他にはない独特な形状、色の組み合わせなどについても保護したい
  • 解決策:立体商標、色彩のみからなる商標など、さまざまな商標が保護の対象。商標は意匠などと異なり、半永久的に権利が保護されるので上手に活用する

1 商標によって半永久的な保護が可能に

商標とは、

自社の商品やサービスを、自社のものであると消費者に認識してもらうために表示する標識

です。会社の名称やロゴマーク、商品やサービスのネーミングなどの登録がよく知られています。商標の存続期間は設定登録日から10年ですが、更新手続きを行えば、

何度でも権利の更新が可能で、半永久的に権利が保護される

のが特徴です。

また、商標が保護するものは名称にとどまらず、例えば「きのこの山」のお菓子の形状など、

形状・動き・ホログラム・音・色彩・位置など、さまざまなものが商標として保護される

のです。

ブランドに対する顧客の信頼や愛着は、長い時間をかけて蓄積されます。長く権利を独占できる商標を上手に活用することで、それが実現できます。

2 「きのこの山」の形状も商標。アイデアやデザインも同時に保護できる「立体商標」

商標法の保護を受けられるものに、商品等の形状そのものを登録することで、その形状を独占する「立体商標」があります。立体商標は、文字商標(文字だけで構成される商標・「SONY」のロゴマークなど)や図形商標(図形のみから構成される商標・「ヤマト運輸のクロネコ」のロゴマークなど)ほどは活用されていないようにみえます。

ただし、立体商標は次のような点で非常に高い有用性を発揮することがあります。

  • 特許法、実用新案法、意匠法といった他法域で保護されるべきアイデアやデザインを併有できる
  • 登録商標として保護を受けることで、同時にこれに具体化されたアイデアやデザインについても、半永久的に他者に対して優越的な地位を得られる

立体商標の具体例は次の通りです。

1)「きのこの山」

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これは誰もが知っている「きのこの山」です。明治は「きのこの山」という文字商標の登録(登録第1330075号)に加え、その形状も立体商標として登録しています。これによって商品のネーミングのみならず、この形状のお菓子そのものを独占的に製造・販売できる法的地位を手にしています。

お菓子を含む「物の形状」に対する法的保護としては、一つには意匠登録による保護が考えられるところですが、意匠権の存続期間は出願日から25年であり、更新はできないとされています。一方、商標権の存続期間は設定登録日から10年ですが、更新によって半永久的に保護を受けられるため、保護期間の面でかなりメリットが大きいといえます。

もちろん商標登録を受けるには、登録要件としてその商標に識別力が備わっている必要があります。そのため、ありふれた形状だとなかなか識別力を認めてもらえず、立体商標としての登録は容易ではないでしょう。実際「きのこの山」の立体商標も、一度は審査段階で識別力欠如による拒絶理由を通知されましたが、使用による識別力の獲得を主張して登録を得ています。いずれにしても、ひとたび識別力を肯定されれば、以後その形状を独占できるのですから、かなり強力なブランディングとなります。

2)食パンの袋のクリップ

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こちらもよく知られる、食パンの袋についているあのクリップです。あまりにも生活の中に溶け込んでいるため意識しませんが、これ自体も登録商標です。一見して分かる通り、それは、クリップに対して一般的に求められる「留めやすくはずれにくい」形状をしています。そのため、やはり審査では識別力の問題を指摘され、これに反論して商標登録を得たという経緯があるようです。

この立体商標は、商標であると同時に、「留めやすくはずれにくい」形状という、クリップの構造に関するアイデアを具体化したものでもあります。登録商標としてこの形状そのものを独占しながら、併せて技術的アイデアについても、保護を受けられるかのような効果を得ている点において優れています。

なお、技術的アイデアは本来特許で保護されるのが一般的ですが、特許権の存続期間は出願日から20年で更新ができず、この期間が過ぎると消滅してしまいます。しかし、商標は、前述の通り更新を繰り返すことで半永久的に保護が受けられるので、この点は非常に大きなメリットです。

3 動き・ホログラム・色彩などなど。立体以外も保護される

2014年(平成26年)の法改正によって、新たに「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」「音商標」「位置商標」が加わりました。こちらについても代表的なものを幾つか紹介します。

1)動き商標

文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。

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2)ホログラム商標

文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標です。

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3)色彩のみからなる商標

単色または複数の色彩の組み合わせのみからなる商標(これまでの図形等に色彩が付されたものではない商標)で、輪郭なく使用できるものです。

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4)音商標

音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標です。

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5)位置商標

図形等を商品等に付す位置が特定される商標です。

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このように、文字や図形以外にも商標として機能するものがたくさんあります。顧客の目線に立ったとき、皆さんが提供されている商品やサービスの中にも、ブランディング戦略につながる価値を持つ商標がきっとあると思います。

4 商標を登録する際の課題。記述的な商標や他者と同じ商標はどう考える?

ところで、商品やサービスの名称として、どのような商標を採択するのが望ましいのでしょうか? 例えば、今までになかった全く新しい商品・サービスを開発した場合、その商品等の性質やコンセプトを顧客にアピールするようなネーミングを採択することが少なくないと思います。「アスクル」「スーパードライ」「ヒートテック」などがそのような商標に当たるといえるでしょう。

このような商標は、今後同種の商品等で市場に参入しようとする後続事業者にとっては、誰もが使いたい商標です。これを商標登録して独占しておくことは重要な戦略です。

ただし、そのような記述的な商標は、

単に商品等の性質を説明するにすぎないとして、識別力の問題を突き付けられる

のが通常でしょう。では、記述的であっても、なお商標登録を受けられる商標かどうかについては、どのような点に注意したらよいのでしょうか。

1)「加圧トレーニング」の名称は商標登録できるのか?

腕と足の付け根に適正な圧力を加え、血流量を制限した状態でトレーニングをすると、通常の場合と比べて少ない負荷でも、大きな効果が得られることを発見したとします。これを新たなトレーニング方法としてビジネス展開するに当たって、そのネーミングを「加圧トレーニング」として商標出願した場合、これは登録を受けられるでしょうか、それとも、一般名称にすぎないとして拒絶されるでしょうか。

この「加圧トレーニング」の名称については、実際に出願された事例があります(商願2005-96978)。この出願は、審査で一度拒絶され、不服審判で認容審決を得て商標登録を受けたものの、第三者から異議申立てを受けるなど、識別力について再三争われました。しかし、最終的に特許庁は、「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」などの文献に「加圧筋力トレーニング」という記載はあるものの、「加圧トレーニング」という記載はないことを根拠に、「加圧トレーニング」は特定の商品の品質や役務の質を直接的、かつ、具体的に表示するものではないとして、識別力を認める判断をしています。

すなわち、

判断基準はその商標が商品の品質等を「直接的、かつ、具体的に」表示するものか否かであって、間接的・抽象的にとどまるものについては識別力が肯定される

ことになります。この観点により、間接的・抽象的・暗示的な商標を検討していくのがよいといえるでしょう。

2)同じ単語(文字列)が使われている商標は登録できるのか?

企業のイメージやコンセプトを表現した図形等を用いて構成される「ロゴマーク」を商標登録する場合、どのように商標を構成するのがよいか、これもまた難しい問題を含んでいます。もちろん、図形要素と文字要素を分け、さらに文字要素については重ねて標準文字でも登録しておくのが理想的であるのは言うまでもありません。

ただし、出願件数に応じてその費用も2倍、3倍とかかってきますから、コスト面を勘案して、図形と文字を組み合わせた一つの商標として出願・登録することも少なくないでしょう。しかし、これには注意が必要です。例えば、次の例をご覧ください。

1.「WORLD」

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2.「STAGE」

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3.「LPGA」

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4.「やんちゃ」

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1.から4.に示した商標は、いずれも「WORLD」「STAGE」「LPGA」「やんちゃ」といった文字列部分が明らかに共通しています。しかし、いずれも非類似と判断され、すべて併存して登録を受けているのです。

ロゴ図形と文字列を組み合わせた商標によって商標登録を受ける場合は、

その文字列部分のみを使用する者に対して、商標権の効力が及ばない可能性が十分にあり得る

ということを念頭に置かなくてはなりません。

そして、この点に関する検討には十分なリサーチが不可欠となりますので、判断に迷った際には、ぜひ知財を専門とする弁護士等にご相談されることをお勧めします。

どのようなマークによって顧客に認識してほしいのか、商標によるブランディング戦略を考える際には、いつもこのテーマに立ち返る必要があります。

以上(2021年12月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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画像:areebarbar-Adobe Stock

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