1 水害リスクの増加について
水害とは、洪水、高潮など水による災害の総称であり、水災とも言います。毎年、梅雨の季節や台風シーズンには全国で多くの被害が出ていますが、近年は積乱雲が列をなし、線状に伸びた地域に大雨を降らせる線状降水帯による被害も増加しており、今後も地球温暖化の影響を受けて、水害を伴う自然災害が多発することが想定されています。そのような中、国も気候変動適応型の水災害対策への転換が必要との認識を持ち、施設能力を超過する洪水が発生することを前提に、社会全体で洪水に備える水防災意識社会の再構築を進め、気候変動の影響や社会状況の変化などを踏まえ、あらゆる関係者が協働して流域全体で行う、流域治水への転換を推進し、防災・減災が主流となる社会を目指しています。また、災害等に対する最後の砦である保険についても、火災保険が自然災害の増加により高騰している現状があり、益々企業の水災対策が重要性を増してきています。水害の発生はある程度予測が可能であることから、今後は台風や大雨による対策が不十分で損害を拡大し、ステークホルダーにマイナス影響を与えた場合には、経営者が責任を問われるケースも考えられるため注意が必要です。
国土交通書「水害レポート」
https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/suigai_report/index.html
2 水害の特徴と種類について
日本列島は、山地の多い地形に加え、台風・豪雨が発生しやすいアジア・モンスーン地域に位置し、風水災による被害を受けやすく、近年は宅地開発等によって山林の保水力が低下し、土砂崩れ等も発生しやすい状態になっています。さらに都市化の進展によって、人口や資産が洪水・集中豪雨の被害を受けやすい地域に集中しており、多くの企業・個人が大きな損失を被る可能性があります。尚、水害は大きく高潮・洪水・土砂災害の3つに分類されますが、高潮は台風や発達した低気圧が海岸部を通過する際に生じる海面の高まりを言い、特に太平洋沿岸が被害を受けやすいと言われています。また、洪水には内水氾濫と外水氾濫がありますが、外水氾濫とは、河川の水量の急激な増加によって堤防が決壊・破損し、水が提内地に流出する事で発生します。中小河川は流域面積が小さく、治水整備が遅れているため、被害に繋がりやすいと言われています。一方、内水氾濫とは、大雨時の増水により大河川の水位が高くなり、都市部の中小河川から本川に雨水を流す事が出来ず、市街地の水が排水出来ないため地表に水が溢れ出る事を言います。最後の土砂災害とは、地すべり・崖崩れ・土石流による災害であり、土砂の移動が強大なエネルギーを持ち、突発的に発生するため、家屋等に壊滅的な被害を与えるほか、人的被害をもたらす可能性があります。このように同じ水害であっても様々な形態があり、どの水害を想定するかによって対策も変わってきます。
出典:国土交通省「水害レポート2022」、気象庁 リーフレット「雨と風(雨と風の階級表)」
3 水害のリスクアセスメント
水害の起こりやすさの場所的な特徴としては、九州・沖縄等は台風襲来の可能性が高く、同じ地域でも物件の所在する場所・地形によってリスク状況が大きく異なります。沿岸地域は高潮、河川の流れが屈曲する場所や支流の合流地点は外水氾濫、都市部の低地では集中豪雨による内水氾濫、山地の凹地や傾斜地では土砂災害が起きやすいと言われています。また、海の最高潮位や河川の氾濫推移よりも地盤髙・床高の低い建物は水災による被害を受けやすいので注意が必要です。損失の大きさについては、建物等の資産や水に弱い商品・製品の有無、事業中断が発生した場合の影響などを考慮する必要がありますが、水害の特徴として、被害を受けた場合は復旧に時間が掛かる可能性があり、電気・ガス・水道・交通網等のライフラインが寸断されると直接被害を受けていない企業も大きな影響を受ける可能性があるため注意が必要です。近年においては、国が準備したハザードマップや水害リスクマップがあるため、それらを参考にしながら自社のリスクについて正しく認識した上で対策を検討することが求められます。
出典:「ハザードマップポータルサイト」を加工して作成
4 水害リスクのコントロール対策について
水害対策については、国や地域で河川の改修やダムの事前放流による治水対策や洪水情報のプッシュ型配信等による防災・減災の取り組みが数多く行われておりますが、それだけでは十分ではないため、自社を守るために自社のリスクに応じた対策を検討することが求められます。基本的には一企業が水害の発生を防ぐことは困難であることから、被害を受けないためには、事業所を危険な地域から移転したり、被害に遭う財物等をなくす回避対策を行う事が求められます。また、被害を小さくするための対策としては、設備等の分散や建物や設備の高所への設置、排水設備の充実や土嚢・砂袋・防水版の準備や設置等が考えられます。また、実際に水害が発生した場合に備えて、事業継続力強化計画(ジギョケイ)やBCPを策定し、リスクを最小限に抑える取組が求められます。水害リスクは、ハザードマップや水害リスクマップ、台風情報や気象情報によりある程度は事前に予測が可能であるため、自然災害が状態化する中、対策をしていないこと自体が企業としての姿勢を問われ、信頼を失う事に繋がるため注意が必要です。
5 水害リスクのファイナンス対策について
水害は企業に致命的なダメージを与える可能性が高いため、基本的には保険を活用するケースが多いですが、その保険料が自然災害の増加によって高騰しています。具体的には、損害保険料率算出機構は住宅向け火災保険料の目安となる「参考純率」を全国平均で13%引き上げ、損保各社は24年度から保険料に反映させる予定であり、参考純率は2000年に比べ5割程度上がる計算になります。また、料率改定のほか、全国一律の水災保険の保険料も24年度以降は水災が起きる危険度に応じて市区町村別に5段階に分ける予定であり、高リスク地域の保険料の急上昇を抑えるため、緩和策を導入しても料率差は1.50倍に拡大する予定です。そのため、今後はリスクコントロール対策を強化したり、財務力を付けることよって免責金額を設定し、保険の効率化を図ることが求められるでしょう。また、水害時の事業中断が想定される場合には、営業継続費用保険や利益保険等も必要となりますし、危険な状況下で従業員が被災した場合、安全配慮義務違反を問われて、高額な賠償責任が発生する可能性もありますので、注意が必要です。
以上(2023年8月)
sj09086
画像:photo-ac
提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/ )
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)