1 雇用関連リスクの増加

毎年4月は新たな新入社員を迎え入れる企業が多いかと思いますが、今回は雇用に際してのリスクについて解説させて頂きます。コロナ禍が終焉を迎える中、事業の発展に水を差している一つの理由に雇用の問題が挙げられます。実際に人手不足倒産は毎年増え続けており、東京商工リサーチによると、今年1-2月の「人手不足」関連倒産は合計21件(前年同期比162.5%増)で、前年同期の2.6倍に急増しています。内訳は、「求人難」が10件(同100.0%増)、「従業員退職」が6件(同100.0%増)で、この2要因で全体の76.1%と8割近くに達し、人件費高騰も5件(前年同期ゼロ)発生しています。優秀な人材の採用・確保・育成が企業の発展のカギになるのは明らかですが、そのためにも今後は柔軟な働き方を受け入れる必要があり、働き方改革への対応のみならず、コロナ禍で一般化したテレワークや副業、人権問題への配慮やジョブ型雇用への移行等の新たな雇用体制の確立などが求められます。そして、仮に人材の採用・確保ができたとしても、人材は企業にとって最も重要な経営資源である一方で、実は最大のリスク要因であることも忘れてはいけません。雇用関連リスクというと、多くの方が労働災害をイメージするかもしれませんが、実は雇用に関連するリスクは非常に幅広く、しかも雇用環境の変化の中で増大しつつあります。今回は採用に伴って生じる義務や人事労務管理に基づく3つの雇用関連リスクについて考えたいと思います。

2 採用に伴うリスクについて

先ず1つ目は、人を採用するという事自体が先行投資であり、そもそもリスクを抱える事だという事です。特に新卒採用の場合は実績もなく、能力も未知数な人材に対して賃金を約束して雇用する訳であり、働きが悪くても一旦雇い入れると簡単に解雇が出来ないため、継続的にお金を払い続ける必要があります。また、中小企業では賃金を決定する際に、賃金以外の必要な費用について正しく理解していないため、結果的に人件費の増大につながり、生産性を落とすケースも多いと考えられます。具体的には、労働社会保険の会社負担分(概ね賃金の15%)や残業が発生する場合は残業代、退職金や福利厚生制度がある場合はその積み立てや費用増加も考えられます。法改正によって、現状ではパート・アルバイトを採用する場合でも企業規模が100名超の場合は社会保険を適用する必要がありますし、年次有給休暇の5日間の取得が義務付けられましたが、100%の消化を前提にすると6か月間で8割以上の日数勤務した場合は10日の年次有給休暇が付与され、勤続年数が6.5年を超えると20日まで増えるため、ほぼ1カ月間が有給に充てられる計算になります。それらの費用や時間を含んで賃金額を決定しなければ、費用対効果が合わなくなります。そのため、採用時の人の見極めも非常に大切ですが、適切な賃金の設定も非常に重要となります。

3 雇用に伴う義務に関するリスク

また、人を採用すると、事業主は必然的に様々な義務を負うことになります。具体的には、人を雇うと労働基準法等の雇用に関する法令を順守すると共に、勤務時間等に応じて労働保険や社会保険、厚生年金保険への加入が求められます。仮に法令違反で社会保険等に入っていない場合、2年前まで遡って保険料の支払いを求められ、会社側に徴収義務があるため従業員負担分まで会社側が負担し、従業員から回収が出来ない可能性も考えられます。また、労働契約法には安全配慮義務が課せられており、安全配慮を怠ったことによって従業員が労災事故に遭った場合には安全配慮義務違反を問われて、巨額の賠償責任を負うケースが考えられます。更に、労働安全衛生法違反等があった場合は民事上の問題だけで終わらず、業務上過失致死傷罪として禁固刑となる可能性もあるので、注意が必要です。つまり、人を雇うことによって生じる様々な義務や責任を果たさなければ、大きな損失に繋がる可能性があるという事です。

4 人事労務管理に関するリスク(ハラスメント等)

しかし、優秀な人材を採用し、労務コンプライアンスを徹底し、安全配慮義務等を果たしていたとしても、企業としての理念やビジョンを共有し、必要な教育・研修を行い、成果に対して適切な評価が出来なければ、従業員は継続的に高いモチベーションを維持し、成長することでレベルの高い仕事を行い、生産性を高める事は出来ません。

逆に言うと、適切な人事労務管理が出来ていなければ、モラルやモチベーションが低下して品質や生産性が低下し、会社への不平不満が高まることで雇用トラブルの増加や定着率の低下等をもたらします。また、会社に対する批判や誹謗中傷、悪意を持った行動が行われるようになると、手抜きや不正、ハラスメントの横行に発展し、メンタルヘルス問題につながる可能性もあります。つまり、適切な人事労務管理を怠ると、品質や生産性の低下のみならず、不正やハラスメント等の様々な雇用トラブルを生み出し、会社に対する損害賠償や風評による売上減少等の様々なリスクの増大につながります。

5 雇用関連リスクへの対応について

様々な雇用関連リスクに対応するためには、先ずは自社の問題点をしっかり把握することが、人材を採用する上でも、雇用リスク対策を実施する上でも非常に重要です。その上で役に立つのが、全国社会保険労務士会連合会が行っている「社労士診断認証制度」です。この認証制度は3段階に分かれていますが、認証を受ける過程で自社の問題点が明確になり、認証取得を目指すことで労務コンプライアンスが徹底され、認証取得によって求職者や取引先への信用力の向上をもたらします。しかし、どれだけ対策を行っても雇用トラブルは発生するため、従業員から不当解雇やパワハラ、セクハラ等を理由に損害賠償請求されたときに備える雇用慣行賠償責任保険や、労働災害による損害賠償請求に備えた使用者賠償責任保険等に入っておくことも非常に重要です。

※人手不足倒産の増加

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20230307_03.html

東京商工リサーチ調べ

※社労士診断認証制度

・経営労務診断のひろば
https://www.sr-shindan.jp/

・説明動画
https://www.sr-shindan.jp/assets/img/top/shindan_movie_full_20200907.mp4

社労士診断認証制度

以上(2023年5月)

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画像:TarikVision-Adobe Stock


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