書いてあること
- 主な読者:売掛金などを支払わない相手をけん制しつつ、時効の完成を猶予したい経営者
- 課題:まだ法的手段を講じる段階ではないが、その準備もしておきたい
- 解決策:「内容証明郵便」でこちらの姿勢を示し、法的手段に至った場合の証拠を得る
1 内容証明郵便が果たす役割
期日が過ぎているのに売掛金を支払ってくれない取引先がいる場合、状況にもよりますが、
「内容証明郵便」を送り、法的手段を見据えつつプレッシャーをかけること
が効果的です。内容証明郵便とは、
郵便認証司によって郵便物の内容を証明された郵便物
です。内容証明郵便を出すことで何か法的な効力が発生するわけではありませんが、後に裁判になった場合に、債権について「契約の名称、契約日、品名、残金、期限などについて文書を出した」という有力な証拠となります。それに、
万一、支払いに応じていただけない場合は、訴訟等の法的措置を検討せざるを得ません
と記載することで、「こちらは訴訟も辞さないですよ!」という姿勢を示すことができます。
また、その債権の時効が迫っている場合、債務者に内容証明郵便で「催告」することで、
時効の完成を催告日(内容証明郵便の到達日)から6カ月間猶予すること
ができます。催告とは、
相手に自発的な支払いを促すこと
です。内容証明郵便を送付することが時効の完成猶予の要件ではありませんが、催告の証拠としての価値が高いため、通常、この方法が用いられます。
債権回収の話題の中で、内容証明郵便が登場するのは以上の理由によります。この記事では、もう少し詳しく内容証明郵便の基本を紹介します。
2 時効に関する補足
時効について、少し補足をしておきます。例えば、商品の売掛債権の時効は、弁済日の翌日、弁済日の定めがない場合は売り掛けた日の翌日から5年間(2020年3月以前に発生した売掛金については2年)です。しかし、
催告を行うことで時効の完成を6カ月間猶予すること
ができます。ただし、自動的に時効が猶予されるわけではなく、この6カ月間に、裁判所に対して訴訟の提起・和解の申立てなどの手続きをしなければなりません。なお、内容証明郵便の送付による時効の完成猶予は一度だけ認められるもので、複数回利用できる制度ではない点は注意が必要です。
いずれにしても、催告がスタートとなるわけで、その「催告状」を内容証明郵便で送るのです。そこに、契約書、注文書、注文請書、請求書など、取引に関係する書類も併せることで、売掛金の存在がより明確になります。催告状を受け取った取引先から、
「支払いが遅延していることの弁解」などの連絡
があった場合、それも重要な証拠となります。書面であっても、メールであっても、大切に保管してください。
なお、取引先からの連絡内容が、債務が存在することを前提とした内容と評価できる場合には、当該取引先の行為は「債務の承認」に該当するため、時効が更新され、その時から新たな時効期間の進行が開始することになります。
3 内容証明郵便を送る前に確認すべき5つのこと
内容証明郵便に法的強制力はありませんが、相手に心理的プレッシャーをかけることができます。そのため、次のような場合はふさわしくないかもしれません。
- 今後も相手と取引を続けたいとき
- 取引先が誠意を見せているとき
- 相手の経営が危ないとき(財産を隠し、また、夜逃げをされる恐れがある)
- 相手が不渡りを出したとき(任意交渉よりも法的手段を検討したほうがよい)
- こちらに何らかの落ち度があるとき
また、内容証明郵便を送った後の取引先の対応には、「すぐに送金する」「弁解を申し出る」「無視する」などがあります。これによって、以後のこちらの方針も変わってきます。
4 内容証明郵便の書き方など
内容証明郵便の書き方などは日本郵便のウェブサイトで紹介されています。ここでは、内容証明郵便の書き方などを簡単に紹介します。
1)内容証明郵便に書くべき内容
内容証明郵便には、「契約の名称」「契約日」「品名」「残金」「期限」など、こちらが有する請求権を具体的に特定した内容を記述しましょう。ただし、郵便認証司が証明するのは文書の「存在」であって、文書内容の真実性ではありません。例えば、
「お金を貸したから返済せよ」という内容の文書を送った場合、そのような内容の文書を送ったことは証明できますが、「お金を貸した」という事実が証明されるわけではない
ことを誤解しないでください。
2)電子内容証明
日本郵便は、電子内容証明サービス「e内容証明」を行っています。「e内容証明」は現行の内容証明郵便を電子化し、インターネットを通じて24時間受け付けを行うサービスです。利用する場合は利用者登録が必要で、日本郵便が指定するひな型を使用して作成しなければなりません。ひな型は日本郵便のウェブサイトからダウンロードできます。
利用者が送信した電子内容証明文書は、次のような流れで処理されます。
- 郵便局の電子内容証明システムで受け付ける
- 電子内容証明の証明文、日付印を文書内に挿入する
- 差出人宛て謄本、受取人宛て原本を自動印刷する
受取人に対しては、自動封入封かんを行って郵便物として発送します。「e内容証明」は手書きの内容証明郵便に比べて、次のようなメリットがあります。
- 郵便局に行く必要がない
- 24時間受け付けなので、時間を気にする必要がない
- 料金が安い(内容証明文書が3枚(約1500文字)の場合の料金:郵便局で差し出す場合1479円、e内容証明の場合1220円)
- 宛名や封筒は自動作成されるので事前に準備する必要がない
- 差込差出し機能を使うことで、受取人ごとに内容(氏名・住所・金額など)が異なる文書を100通までまとめて発送できる
料金やひな型のダウンロード、作成規定などについては、以下のウェブサイトを参考にしてください。
■日本郵便「e内容証明」■
https://www.post.japanpost.jp/service/enaiyo/
3)内容証明郵便の書き方
内容証明郵便の書き方は内国郵便約款等によって定められています。内容証明郵便の決まりは次の通りです。なお、内容証明を取り扱う郵便局は限られるので、日本郵政のウェブサイトなどで事前に確認しておきましょう。
以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)
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画像:Mariko Mitsuda