書いてあること

  • 主な読者:外国企業と取引したい経営者
  • 課題:外国企業と取引する際の注意点が分からない
  • 解決策:国のリスクや商習慣の違いなどを踏まえる。相談先機関も活用する

1 外国企業と取引する際の注意事項

国内で完結する取引と異なり、国際的な取引(いわゆる「貿易取引」)には、「取引相手の情報が不足している」「思わぬ手間や出費を強いられる」などのリスクがあります。そのため、国内企業との取引とは違う点にも注意を払わなければなりません。

外国企業との取引で注意すべき点は次の通りです。

1)情報の不足

日本国内で取引をする場合に比べ、土地勘がなく、顔を直接向き合わせてのコミュニケーションが難しい外国企業との取引は情報が不足しがちです。そのため、契約不履行(商品の相違、納期遅れなど)、詐欺、取引相手の倒産、現地政府の政策による輸出入の差し止め、その他商習慣の違いなどに起因するトラブルの発生を防ぎにくい傾向があります。自社で情報収集を強化するだけでなく、現地事情に精通した専門家や専門機関を活用し、必要な情報を得られるようにしておきましょう。

具体的に不足しがちな情報としては、次のようなものがあります。

  • 相手となる外国企業の信用情報
  • カントリーリスク
  • 商習慣や文化の違い

なお、企業情報の調査機関である帝国データバンクや東京商工リサーチでは、海外の提携調査機関から取得した、外国企業の信用情報を提供しています。

■帝国データバンク■
https://www.tdb.co.jp/
■東京商工リサーチ■
http://www.tsr-net.co.jp/

2)展示会などに出展

国内外で開催される国際的な展示会・展覧会・商談会へ定期的に出展することで、新規取引先を発掘したり、既存取引先との関係を強化したりする良い機会になります。自社で負担できる費用と、開拓したい市場(国・地域、販売チャネルなど)を勘案し、適切な展示会・展覧会・商談会に出展するようにしましょう。

中小企業基盤整備機構では、専門家によるアドバイス、翻訳・印刷支援といった海外展示会出展サポートを行っている他、「海外展示会ハンドブック」も配布しています。

■中小企業基盤整備機構 海外展示会ハンドブック■
http://biznavi.smrj.go.jp/handbook-overseas-exhibitions

3)カントリーリスク

貿易取引には「カントリーリスク」と呼ばれるリスクがあります。これは、個別の取引相手が持つ商業リスク(契約不履行、倒産、詐欺など)とは別に、貿易取引相手国の政治・経済・社会環境に起因する損害発生のリスクのことです。

具体的なカントリーリスクとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 著作権や商標権など、知的財産権の侵害の頻発
  • 行政手続きが不透明で、法的根拠が薄い
  • 政府による民間企業の経営や案件への介入
  • 政権交代が経済の混乱につながりやすい
  • 民族や宗教の対立が根深く、紛争が生じやすい

なお、日本貿易保険(NEXI)では、中小企業や農林水産業従事者を対象に、船積み後のカントリーリスクやバイヤーの信用リスクをカバーする「中小企業・農林水産業輸出代金保険」を提供しています。取引金額が大きい、取引相手の信用度が低いなど、取引のリスクが大きいと判断した場合は利用を検討してもよいでしょう。

■日本貿易保険(NEXI)「中小企業・農林水産業輸出代金保険」■
https://www.nexi.go.jp/product/sme/

4)商習慣や文化の違い

外国企業との取引に当たっては、商習慣や文化の違いによるトラブルが生じる可能性があります。例えば、日本国内の取引であれば、「顧客に必要と思われることは、契約や約束の範囲でなくても、可能な範囲で行う」「外装の破損は、たとえ商品そのものにダメージがない場合でもクレームの対象になり得る」「納期は守られる」「代金は期日までに回収できる」といったことが一般的です。

しかし、外国企業との取引であれば、「契約書に記載されている事項以上の仕事はしない」「外装が破損していても、商品そのものにダメージがなければ問題ない」「納期が必ずしも守られない」「代金が期日になっても回収できない」といった、商習慣や文化の違いに起因するトラブルが発生する場合があります。

また、ベースとなる考え方が違う以上、「常識的に考えれば○○してくれるであろう」という、以心伝心のコミュニケーションは外国企業との間では成立しません。そのため、メールなどでやり取りをする場合は、自社が取引相手に伝えたい内容を簡潔に分かりやすく伝えることが大切となります。

商習慣や文化の違いによるトラブルを軽減するために、取引相手に求める詳細な事項を契約書に盛り込んで順守させるようにしましょう。

5)煩雑な手続き

貿易取引においては、国内で完結する取引と異なり、多数の書類のやり取りが必要となる煩雑な手続きが必要な場合もあります。これは、商品が輸出企業から輸入企業の手に渡るまでに多くの企業・機関が関与しているためです。そして、手続きによっては、怠ることで損失が生じるだけでなく、何らかの処罰の対象になったり、順法意識が薄いなどとして自社の信用低下につながったりする場合すらあります。

手続きに漏れがないよう、社内でのチェック体制を整えたり、貿易取引に関する専門機関に照会したりするなどして、トラブルが発生しないようにしましょう。

6)輸出入の規制

貿易取引は、国外から商品を運び込む取引、国外に商品を運び出す取引によって成り立ちます。そのため、国内に持ち込まれると問題となる商品(例:病害虫がついた農作物、偽ブランド商品、コメなど国の政策で保護されている農作物・工業製品)や、国外に持ち出すのが好ましくない商品(例:希少動植物など)については、輸出入が規制されています。こうした輸出入の規制には、国によっては家庭用ゲーム機器など、通常の企業活動では取引の規制が想定しにくい商品であっても、性能の高さや使われているソフトウエアなどを理由に規制対象となっている場合があります。

もし、輸出入しようとした商品が規制の対象となっている場合、取引そのものが不履行となって損害が生じたり、十分な数量の輸出入ができなくなったりします。

日本からの輸出や、日本への輸入が規制されている品目については、税関(財務省関税局)「輸出入禁止・規制品目」などで確認できます。

■税関(財務省関税局)「輸出入禁止・規制品目」■
http://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm

7)為替レートの変動

貿易取引は、基本的に外貨によって行われます。当事者企業双方の利便性の観点から、米ドルやユーロなど基軸通貨(またはそれに準ずる通貨)を利用するのが一般的ですが、これらの通貨の為替レートは時として大きく変動します。

為替レートの変動への対応策としては、「円建てで取引する」「為替予約(注)をして事前に交換レートを確定させる」などが挙げられます。金融機関では為替レート変動対策の金融商品を提供している場合があるので、渉外担当者に確認してもよいでしょう。

(注)一定時期後の外貨と円の交換を事前にレートを決めて予約する金融取引のことをいいます。

8)専門機関に相談

初めて外国企業と取引をする際には、専門機関に事前に相談し、情報収集やノウハウの蓄積に努めるようにしましょう。

主な専門機関としては、日本貿易振興機構(通称:ジェトロ)や中小企業基盤整備機構などの国が運営している機関、都道府県が運営している国際化支援機関、国際的な取引を支援する民間団体、各国の政府が日本国内に設けた投資・貿易支援機関などが挙げられます。

2 相談先、情報源

1)支援機関

1.日本貿易振興機構

日本貿易振興機構は、日本貿易振興機構法に基づき設立された貿易・投資の支援機関です。日本貿易振興機構は、海外進出を検討している企業に対して、投資相談(無料)、海外調査(有料)を提供しています。

■日本貿易振興機構■
https://www.jetro.go.jp/

2.中小企業基盤整備機構

中小企業基盤整備機構では、国際化支援アドバイス(中小企業の国際化を支援するアドバイスの提供)を行っています。個別の相談ごとに国別担当の経営支援専門員が、内容に応じて各分野で専門性の高いスキルを持つ「国際化支援アドバイザー」と連携しながら、経営課題解決の観点に立ったアドバイスを行っています。アドバイスの費用は無料となっており、何度でも相談できます。

また、同機構では、ウェブサイト上での情報提供や、全国各地において貿易など海外展開に関するセミナーを実施しています。

■中小企業基盤整備機構「海外展開」■
http://www.smrj.go.jp/sme/overseas/index.html

3.商工組合中央金庫

商工組合中央金庫では、国内外全店舗に「中小企業海外展開サポートデスク」を設置しています。個別相談により、海外進出に必要な海外投融資から貿易金融まできめ細かくサポートを行っています。

■商工組合中央金庫「国際業務サポート」■
https://www.shokochukin.co.jp/corporation/support

4.日本商事仲裁協会

日本商事仲裁協会は、国内・国際間の商事紛争の予防と処理によって取引を促進することを目的とした団体です。同協会では、会員向けに国際取引に関する法律相談・契約相談・貿易相談などを行っています。

■日本商事仲裁協会■
https://www.jcaa.or.jp/

2)情報源

1.日本貿易振興機構「国・地域別に見る」

日本貿易振興機構では、ウェブサイト上で「国・地域別に見る」を提供しており、国・地域の概要や、貿易上の留意点などを見ることができます。

■日本貿易振興機構「国・地域別に見る」■
https://www.jetro.go.jp/world/

2.日本貿易振興機構「ジェトロ貿易ハンドブック2019(オンデマンド版)」

貿易取引に関わる基本的な事項をまとめたハンドブックで、貿易実務の基礎知識やマニュアル、国際ビジネス関連機関や検査機関の連絡先などが収録されています。

■タイトル:ジェトロ貿易ハンドブック2019
■発行:日本貿易振興機構
■定価:1620円(税込)

以上(2019年5月)

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画像:unsplash

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