書いてあること
- 主な読者:契約実務に慣れてない経営者、担当者
- 課題:印紙を貼るタイミングや、契約書を訂正する際の進め方が分からない
- 解決策:基本を知っておく必要があるが、大事なのは相手に確認しながら進めること
1 混乱しがち? 郵送による契約締結の手順
1)手順を整理することが大切
契約書を郵送でやり取りする場合、無駄なやり取りがないようにしたいものです。X社とY社が契約書を締結するとして、2社とも印紙に消印する場合の流れは次の通りです。
1.X社の手続き
- 契約書(A):X社の署名等。契印と割印。印紙にX社の消印
- 契約書(B):X社の署名等。契印と割印
- 契約書(A)と(B)を、簡易書留等、Y社が受領した記録が残る方法で郵送
2.Y社の手続き
- 契約書(A):Y社の署名等。契印と割印。印紙にY社の消印(X社とY社の署名等、契印と割印、消印がそろうので、Y社が保管)
- 契約書(B):Y社の署名等。契印と割印。印紙にY社の消印
- 契約書(B)を、簡易書留等、X社が受領した記録が残る方法で郵送
3.X社の手続き
- 契約書(B):印紙、X社の消印(X社とY社の署名等、契印と割印、消印がそろうので、X社が保管)
2)契約書の保管
締結後の契約書は紛失しないように保管します。保管方法については、「文書管理規程」などの社内規程で定められているときは、それに従います。
一般的には、「契約当事者>契約書の内容>時系列」の順番に整理するとよいでしょう。また、複数のファイルごとに保管しているときは、契約当事者名などを一覧にした目次を作成してファイルにとじておくと、契約書を探しやすくなるので便利です。
3)締結済みの契約書をペーパーレス化したい場合
紙ベースで締結した契約書は、保管場所が必要なことや、テレワークの際などに確認できないため、スキャンし、データとして保管しておきたいと考えるかもしれません。この場合、法的に次のような保存要件が定められています。
- 真実性の確保:認定タイムスタンプ(日本データ通信協会の認定を受けた事業者が発行するタイムスタンプ)または適切に訂正・削除の履歴が残るか、できなくするためのシステムの利用か、方法を定めた社内規程があること
- 関係書類の備付:どのように電子化するのかを定めたマニュアルが備え付けられていること
- 見読性の確保:納税地で画面とプリンターで契約内容が確認できること
- 検索性の確保:主要項目を範囲指定および組み合わせで検索できること
上記を満たした上で、納税地でデータを7年間(欠損金の繰越控除をする法人は、最長で10年間)保存する義務が定められています。データさえあれば問題ないということではないので、契約書をスキャンして保存する場合は注意が必要です。
2 締結済みの契約書の内容を変更するには?
1)重要な条項の変更や変更箇所の多いとき
締結済みの契約(以下「原契約」)の内容を変更することはよくあります。その際には、次のような方法で行うのが一般的です。
- 原契約を失効させて、新たな契約の内容を記載した契約書を締結する
- 原契約は有効としたままで、変更する部分を記載した「覚書」等を締結する
契約書は契約当事者の合意内容を記載した重要な書面です。契約内容の読み間違いや、書面の紛失等があってはならないので、重要な条項の変更や変更箇所が多岐にわたるときは、新たな契約書を締結することが多くなります。
これ以外にも、原契約の内容を変更する方法を決めるときには、次の点を考慮します。
2)変更の回数
何度も契約書を締結すると、書面の数が多くなるので、契約内容の読み間違いや、書面の紛失といったことが起こりやすくなります。こうしたときは、今回の変更箇所だけでなく、過去の変更箇所全てを反映させた新たな契約書を交わしたほうがよいでしょう。
3)契約書の確認に伴う手間
法務の担当者が契約書の内容を確認するときは、新たな契約書であれば、変更しない点も含め全ての条項を確認することになるので、手間がかかることがあります。こうしたときは、変更する条項のみを記載した契約書を交わしたほうがよいでしょう。
4)印紙税の納付
契約を変更して新たに契約書を作成した場合に、その契約書が、印紙税が課税される課税文書であるときは、改めて印紙税を納付しなければなりません。ただし、契約内容の一部を変更した場合、その変更部分のみを記載した契約書を作成すれば課税文書に該当せず、印紙税が不要になることがあります。こうしたときは、税負担を軽減するために、変更した契約内容のみを記載した文書を交わしたほうがよいでしょう。
なお、原契約に定めている事項のうち、「重要な事項」の変更のために作成した文書は課税文書となり、印紙税の納付が必要です。一方、原契約に定めている事項のうち、「重要な事項」を含まない変更のために作成した文書は課税文書に該当せず、印紙税の納付は必要ありません。「重要な事項」は、印紙税法基本通達別表第2「重要な事項の一覧表」において、課税文書の種類ごとに定められています。
3 締結済みの契約書の内容を変更するときの注意点
1)新たな契約書を締結するときのポイント
新たな契約書を締結するときは、新旧の契約が併存し矛盾することのないように、原契約を失効させます。具体的には、原契約が失効する旨を新たな契約書の前文などで定めたり、その旨を定めた「合意解約書」などを別途交わしたりします。実務的には書面作成などの手間を軽減できる前者のほうが多いようです。新たな契約書の前文に定めるときの文例は次の通りです。
本契約の成立により、甲乙間で○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」は失効するものとする
また、契約の一部を変更し、変更部分のみを記載した契約書を作成する場合には、「覚書」や「念書」等の標題が用いられることが多いようです。このような文書を締結するときには、どの原契約に対するものなのかを特定する必要があります。具体的には、覚書等の前文に定めることが多いようです。
覚書等の前文に定めるときの文例は次の通りです。
甲と乙とは、甲乙間で○年○月○日に締結した「□□に関する契約書」について、以下の通り、その内容を変更することを目的として覚書を締結する
2)新旧対照表の作成
締結済みの契約書の内容を変更するときには、変更した条項が一目で分かるように「新旧対照表」を作成することがあります。新旧対照表は、新たな契約書や覚書等の別紙とすることもありますが、実務担当者等の参考資料として作成することもあります。
新旧対照表の例は次の通りです 。
4 契約書の訂正に関する注意点
1)契約書を訂正する方法
訂正印は、一般的には、訂正箇所に二重線を引いて押印することをいいます(訂正の方法は法令で定められているわけではありませんので、他にも方法がありますが今回は省略します)。また、捨印により訂正することもあります。捨印は、書面の内容に訂正が生じることを予見して、あらかじめ文書の欄外に押しておくものです。捨印で修正する場合は、正しい字句に訂正し、訂正箇所を明らかにした上で、余白に「加筆○字」「削除○字」などと記載します。
訂正印の例と捨印の例は次の通りです。
2)捨印の押印は慎重に
捨印には、契約書に誤りがあったときに、すぐに対応できるというメリットがあるものの、知らないところで、契約書の内容を勝手に書き換えられてしまうという重大な危険性があります。そのため、原則として「捨印」は使用しないようにしましょう。もし、相手方から捨印を求められた場合は、安易に応じずに弁護士などに確認しましょう。
以上(2024年5月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)
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