書いてあること
- 主な読者:トラブルになりがちな「契約解除」について詳しく知りたい経営者
- 課題:契約書に定めた解除条項に該当しても、即時解除ができないケースがある
- 解決策:解除条項をできるだけ具体的に定める。また、契約期間も慎重に決定する
1 ビジネスシーンで欠かせない契約
円満に始まった取引でも、実際に動き出すと「想定よりも品質が悪い」「納期遅れが頻発する」などの問題が生じることは珍しくありません。場合によっては契約解除を検討しますが、このようなときのトラブルを避けるために、
契約締結時に、解除条項をできるだけ具体的に規定すること
が大切です。
一方、継続的契約の場合、先々を見越して契約期間を長期に定めたり、契約期間を定めなかったりするケースがあります。一見、収益を安定させる自社にとって有利な条件のように思えますが、その間は自社も契約解除ができない諸刃の剣となります。
以上を踏まえつつ、この記事では「契約解除」について知っておきたい基礎知識を紹介します。契約が解消されるパターンは次の3つに大別されますが、この記事で注目するのは「3.契約解除」です。
- 契約の無効:契約内容が公序良俗に反するなど、効力が認められない
- 契約の取消し:未成年者が締結したなど、契約締結時に遡って取り消すことができる
- 契約解除:契約自体は有効だが、契約を解消することができる(1.と2.以外のケース)
2 任意規定と強行規定
任意規定とは、
当事者の意思によって排除できる法令上の規定
です。民法の規定の多くは任意規定です。当事者が契約で定めた内容は任意規定に優先します。
強行規定とは、
当事者の合意に優先して適用される法令上の規定
です。下請代金支払遅延等防止法や労働法、消費者契約法などの規定の多くは強行規定です。当事者が契約で定めた内容でも、強行規定に反すれば無効です。
つまり、解除条項が強行規定に反すれば無効です。例えば、「倒産解除条項」などが該当します。倒産解除条項とは、
仮差押え、税金の滞納、支払停止など相手方に強い信用不安が生じたときや、破産・民事再生・会社更生手続開始の申立てがあった場合などに、無催告解除できる
というものです。これは、事業の再生を図る民事再生の趣旨に照らして妥当ではないなどの理由から、その効力が認められないとした最高裁判例があります。そのため、倒産解除条項を設けていても契約解除が制限されることがあります。
3 法定解除と約定解除
法定解除とは、
法律の規定に基づいて契約を解除すること
です。例えば、民法には債務不履行を理由とする契約解除が定められているので、相手に債務不履行があれば、契約書に解除条項がなくても契約解除ができます。
一方、約定解除とは、
契約の条項に基づいて契約を解除すること
です。例えば、契約に「営業停止、営業免許・営業登録・営業許可の取消し等の行政上の処分を受けたとき」などと定めた場合、実際に相手が支払停止などの状態に陥ったときは契約解除ができます。
4 継続的契約か否か
継続的契約であるか否かは、契約上の文言ではなく、取引の実態で判断されます。裁判例では、継続的契約の要件として、
取引の種類、態様、支払手段、契約当事者の意思等によって定まるものであって、契約書の存否によって左右されるものではない
と示されています。
そして、契約解除において、継続的契約か否かは大切なポイントとなります。継続的契約を解除する場合、
契約で定められている要件に該当することに加え、裁判例上、「解除につきやむを得ない事由」があるか否かを問われる
ことがあります。例えば、納期が遅れた場合は催告なしに、即刻、契約を解除できる旨を定めていたとしましょう。この規定自体は問題なく、わずかに納期が遅れた場合でも、契約の解除を求めることができます。
しかし、それが継続的契約の場合、相手との継続的な取引を念頭に、もう一方の契約の当事者が設備投資を行ったり、社員を雇用したりしていることがあります。こうした事情に鑑みて、解除してもやむを得ない事情があるかが問われるのです。そのため、わずかな納期遅れのような、軽微な債務不履行では契約の解除が認められないことがあります。
やむを得ない事情の有無は、下請契約であるなど解除する側とされる側の力関係や、継続的な取引を継続することが困難なほど信頼関係が破壊されたといえるかなどが考慮されるようです。
以上(2024年5月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)
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