書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:ソフトウエア開発の請負契約を紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 契約不適合責任についての改正

改正民法では、請負契約における「瑕疵(かし)担保責任」が廃止されて、「契約不適合責任」に改められました。これは、売買契約における売主の担保責任と同様の改正であり、「瑕疵」の概念そのものがなくなりました。

契約不適合責任に改められたことにより、目的物が契約内容から乖離(かいり)している場合、発注者に認められる請求の内容が増えました。これは請負人にとっては負担が大きくなる改正です。そこで、本稿では、主に請負人の視点からソフトウエア開発の請負契約を締結する際に注意すべき点をまとめます。

なお、今後も「瑕疵担保責任」という用語を契約書で使用する場合、法律上の定義がない用語となりますので、契約書において、「瑕疵」の定義(例:本契約その他甲乙間において合意した仕様・品質・数量などを有しないこと)を置く必要があるでしょう。

2 契約書の記載例

改正民法では、契約不適合がある場合に責任追及ができます。この契約不適合とは、契約の内容に適合しないことをいい、合意の内容や契約書の記載だけでなく、契約をした目的や締結に至る経緯など、一切の事情が考慮されます。

「瑕疵」と「不適合」の違いが具体的にどう表れるかについては、今後の解釈に委ねられています。ただし、いずれにしても、契約締結に至る経緯が契約内容の解釈に影響する可能性は高いといえます。そのため、契約書でも契約の趣旨、目的または内容を記載しておくことが有用です。例えば、請負人は契約時に契約の目的を次のように記載することが考えられます。

第○条(目的)
甲(*注文者)と乙(*請負人)は、甲が、自社で受注した複数の建築工事につき、それぞれの作業進捗、作業人員、予算、資材などを一元的に管理できるシステム(第○条で定義する。以下「本件システム」という。)の開発を希望しており、乙がかかる管理システムについて開発可能な技術者を多数雇用し、十分な開発実績を有していることから、乙に開発委託をすることが適切と考えて、本契約を締結するものである。

1)追完請求・代金(報酬)減額請求の追加に注意する

改正民法では、契約不適合がある場合、注文者は請負人に対して追完(目的物の修補、代替物の引き渡しまたは不足分の引き渡し)を請求できます(改正民法第562条)。請求したにもかかわらず追完がなされないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(改正民法第563条)。

例えば、システムの一部に不具合があったとします。このとき、まず注文者は、請負人(開発を請け負ったシステム会社)に対して、不具合を修補するよう求めることになります。

しかし、請負人が不具合を修補できず、注文者が自社で完成させたり、別のシステム会社に開発を委託して完成させたりしたとします。このような場合、請負人は不具合のあった部分の開発費に相当する費用を報酬から減額されることが考えられます。

第○条(契約不適合責任)
本件システムの成果物の納入日から1年以内に、当該成果物の仕様・品質・数量などについて、個別契約、仕様書などの定めと異なることまたは当該成果物が甲乙間で合意した水準に達していないこと(以下、総称して「契約不適合」という。)が判明した場合には、甲は、その選択に従って当該成果物の修補、代替物の引き渡しまたは不足分の引き渡しによる履行の追完を請求することができるものとする。なお、これらの履行の追完が不能である場合または追完によって契約の目的を達成できない場合においては、甲は、代金の減額を請求することができるものとする。

2)修補義務などが重くなり過ぎないよう工夫する

改正民法では、注文者が請負人に対して、プログラムの修補を求めたり、損害賠償を請求したりできる期間が大きく変わりました。具体的には、注文者が目的物の契約不適合を知ったときから1年以内に請負人に通知すればよいと定められました(改正民法第637条)。

例えば、請負人に落ち度があり、システムに大きな不具合があったとします。改正民法では、請負人の落ち度が分かったときから1年以内に、「開発していただいたシステムに○○という不具合がありました」という通知をしておけば、契約不適合を知ったときから5年以内(消滅時効、改正民法第166条第1項第1号)は、いつでもシステムの修補や賠償を求めることができます。

請負人としては、このような重い負担を避けるための特約を定めるかを、検討すべきでしょう。例えば、契約書に次のような条項を定めておくことが考えられます。ただし、修補や賠償の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができないとされているため注意が必要です(改正民法第572条)。

第○条(契約不適合の場合の修補義務)
1)本件システムの検収の合格から1年以内に、本件システムの成果物が本契約の内容に適合しないことが発見され、同期間内に乙(*請負人)に対してその旨の通知があった場合、乙は無償で当該不具合を修補するものとする。
2)乙の担保責任は、法令に反しない限り、前項の範囲に限られるものとし、前項の期間経過後に本件システムの不具合が判明した場合であっても、乙は何らの責任を負わないものとする。

3)注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の改正に注意する

請負は、請負人が仕事の完成を約し、注文者がその結果に対して報酬を支払うことを約束することで、有効に成立する契約です。そして、報酬は仕事の目的物の引き渡し時または仕事終了時に支払われます(報酬後払いの原則。旧民法第633条、改正民法第633条)。

そのため、仕事が未完成の場合には報酬を請求できないのが原則です。しかし、それでは仕事の進捗状況や仕事が完成しなかった事情によっては、報酬の全部または一部を請求できず、不合理な場合があります。そのため、改正民法第634条で、一定の事由がある場合において報酬請求ができると定められました。

具体的には、次のように定められました。

  • 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき(改正民法第634条第1号)、または、請負が仕事の完成前に解除されたとき(改正民法第634条第2号)において、
  • すでに行われた仕事の結果のうち「可分」な部分の給付によって注文者が利益を受けるときには、その部分について完成があったと見なし、請負人は、「注文者が受ける利益の割合に応じて」報酬請求権を有する

例えば、システム開発が途中で頓挫し、プロジェクトが中止されて契約解除となったとします。改正民法では、プログラムの9割は出来上がっている。ただし、出来上がっている部分とそうでない部分の機能が連動しており、プログラム全体としては利用不可能というような場合、部分的な請求は認められないものと考えられます。

もし、上記のような法の定めとは異なる定めをしたい場合には、その旨を特約などで明記する必要があります。例えば、次のような条項を契約書に定めることが考えられるでしょう。

第○条(報酬)
甲(*注文者)は乙(*請負人)に対して、請負業務の対価として、以下に記載の成果物の検収合格後○営業日以内に、以下の通り対価を支払うものとする。

  • 要件定義…成果物:要件定義書、システムテスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • 外部設計…成果物:基本設計書、結合テスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • 内部設計…成果物:詳細設計書、単体テスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • プログラミング…成果物:本件システムのソースコード一式
    金○円(消費税別)
  • システムテスト…成果物:テスト報告書
    金○円(消費税別)

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:photo-ac

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