書いてあること

  • 主な読者:面倒?な登記を一回で済ませたい担当者
  • 課題:登記に行っても細かな指摘を受けて、二度手間、三度手間となる!!!
  • ポイント:手続きの基本ポイントを押さえ、抜け漏れをなくす

1 二度手間は避けたい「登記」の手続き

商業登記(以下「登記」)事項の変更手続きは所管の法務局(注)に必要書類を提出して行います。登記実務を司法書士に依頼することもありますが、中小企業では「役員に関する登記手続き」など、定期的に発生するものは社内の担当者が行うのが一般的です。

登記は厳格な手続きが求められ、わずかでも書類に不備があると処理をしてもらえません。必ず補正(書類に不備がある場合に修正をすること)などをして正しい内容の書類を提出しなければなりません。

また、最近、添付書類などが一部変更されているので、スムーズに手続きを進めるためには、こうした点にも注意が必要です(詳細後述)。そうしないと、何度も法務局に足を運ぶなど、二度手間になりかねません。

このリポートでは、全ての株式会社(以下「会社」)が定期的に行っている役員変更の登記手続きのポイントを紹介します。想定するのは、中小企業に多い「取締役会+監査役」の機関設計の会社の手続きです。なお、登記手続きは法務局の窓口での申請の他、郵送やオンライン申請も可能ですが、窓口での申請の場合について紹介します。

(注)商業登記法では、登記の事務を行う法務局、地方法務局などをまとめて「登記所」としていますが、本稿では「法務局」にて統一しています。

2 登記に関する基礎知識

1)登記すべき事項は多岐にわたる

登記すべき事項は多岐にわたります。巻末に例として、会社の場合の登記すべき事項を掲載しているので、必要に応じて参照してください。

2)「登記事項証明書」と「登記簿謄本」の違い

自社の登記事項を確認したり、取引先の与信管理を行ったりするときなどに、登記事項を証明する書類を取得することがあります。この書類を「登記事項証明書」や「登記簿謄本」などと呼ぶことがあります。

法務局は登記事項を磁気ディスクに記録しており、その内容を用紙に印刷し、証明したものが登記事項証明書です。登記事務をコンピューターで処理していない時代は、登記事項を直接登記用紙に記載しており、その用紙を複写し、証明したので、登記簿謄本と呼んでいました。

現在、法務局が管轄する登記情報について原則コンピューター化が完了しています。名称が異なるだけで、どちらも証明内容は同じです。 実務上は、登記事項証明書を扱うことが多くなるため、以降では登記事項証明書を前提に説明します。

3)実務で主に利用する登記事項証明書の3種類

  • 現在事項証明書
    主に現在効力を有する登記事項が記載された証明書です。その他に会社成立の年月日、取締役、監査役、代表取締役などの就任年月日、会社の商号、本店の登記の変更に関する事項で現に効力を有するもの、直前のものが記載されています。
  • 履歴事項証明書
    現在事項証明書の記載事項に加えて、当該証明書の交付の請求のあった日の3年前の日の属する年の1月1日から請求の日までの間に抹消された事項が記載された書面です。
  • 閉鎖事項証明書
    履歴事項証明書に記載されていない事項(閉鎖した登記記録に記録されている事項)が記載された書面です。

それぞれの証明書には、該当する事項が全て記載されているもの(全部証明書)と、一部だけ記載されているもの(一部証明書)があります。

3 役員変更の登記手続き

役員(取締役・監査役)変更の登記手続きに必要な書類は、役員が新任か重任(役員の任期満了の後、同じ人が再度就任すること)かによって異なります。ここでは、「全ての役員が重任の場合」と「新任役員がいる場合」の登記手続きのポイントを紹介します。なお、各書面の記載例などは、法務局「商業・法人登記申請手続」に掲載されています。

■法務局「商業・法人登記申請手続」■
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/touki2.html

1)全ての役員が重任の場合

全ての役員が重任の場合は、次の書類が必要となります。

  • 変更登記申請書
  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 取締役会議事録(代表取締役を選任する場合)
  • 就任承諾書

1.手続きのポイント1:株主リスト

2016年10月1日以降、登記すべき事項に次の手続きを要する場合は、いわゆる「株主リスト」の添付が必要となります。

  • 株主総会(種類株主総会を含む)の決議
  • 株主全員(種類株主全員を含む)の同意

役員の選任には株主総会の普通決議が必要となるため、後述する新任役員がいる場合も含めて登記手続きには、株主リストは必須となります。株主リストの記載事項は、上記2つのケースによって異なりますが、「株主総会(種類株主総会を含む)の決議を要する場合」は、次の通りです。

【株主リストの記載事項】

「議決権数上位10名の株主」、または「議決権割合が2/3に達するまでの株主」のいずれか少ないほうの株主について、次の事項を記載して代表者が証明をします。

  • 株主の氏名、または名称
  • 住所
  • 株式数(種類株式発行会社は、種類株式の種類および数)
  • 議決権数
  • 議決権数割合

(注1)自己株式などの当該事項について議決権行使できない株式は除きます。

(注2)株主総会に欠席し、または議決権を行使しなかった株主を含みます。

(注3)議決権割合が2/3に達するまでの株主は、議決権割合の多いほうから加算します。

2.手続きのポイント2:就任承諾書の省略

就任承諾書は、選任された人が、その就任を承諾する旨を記載した書面です。役員および代表取締役の就任の登記手続きの際に、原則、添付しなければなりません。ただし、一定の場合は、添付を省略することができます。

具体的には、役員の場合であれば、選任された人が株主総会の席上で就任を承諾し、株主総会議事録にその旨の記載がある場合は、変更登記申請書に「就任承諾書は、株主総会議事録の記載を援用する」と記載をすることで、就任承諾書の添付を省略できます。

代表取締役の場合も、取締役会議事録に同様の記載などをすることで、就任承諾書の添付を省略できます。

3.手続きのポイント3:原本還付

初めて実務を担当する人が、忘れがちなのが「原本還付」の準備です。この手続きでいえば、株主総会議事録・取締役会議事録・就任承諾書は、原則、原本が必要になります。しかし、これらの書類の原本は会社でも保管しなければならないため、原本を返却してもらう必要があります。この手続きを原本還付といいます。

原本還付を受ける場合は、次の書類を準備します。

  • 書類原本
  • コピーした当該書類の欄外に「これは、原本の写しである」などと記載した上で、代表取締役の署名・捺印をした書面

法務局の窓口では、双方の書面に相違がないことを確認した後に、原本を返却してくれます。

ここでは、株主総会議事録・取締役会議事録・就任承諾書を原本還付の対象としましたが、その他、返却してもらいたい書類がある場合は、同様の手続きで原本還付を受けることができます。

2)新任役員がいる場合

新任役員がいる場合は、次の書類が必要となります。

  • 変更登記申請書
  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 取締役会議事録(代表取締役を選任する場合)
  • 就任承諾書
  • 新任役員の本人確認証明書など

1.手続きのポイント1:本人確認証明書など

1.~5.については、前述した「全ての役員が重任の場合」の書類と同じです。注意が必要なのは6.の書類です。2015年2月27日から、新任役員については次のいずれかの書類が必要となりました。

  • 新任役員の印鑑証明書
  • 新任役員の本人確認証明書

また、株主総会議事録に新任役員の住所の記載がない場合には、別途、その役員が住所を記載し、記名押印した就任承諾書を添付しなければなりません。本人確認証明書の例は次の通りです。

  • 住民票記載事項証明書(マイナンバーが記載されていないもの)
  • 戸籍の附票
  • 住基カード(住所が記載されているもの)のコピー(注1)
  • 運転免許証などのコピー(注1)
  • マイナンバーカードの表面のコピー(注2)

(注1)裏面もコピーし、本人が「原本と相違がない」と記載した上で、記名押印が必要です。

(注2)表面(氏名、住所、生年月日および性別が記載されている面)のみをコピーし、本人が「原本と相違がない」と記載した上で、記名押印が必要です。

実務上は、書面取得の手続きが不要で、常時携帯していることの多い運転免許証のコピーを使うことが多いようです。

なお、法務局によるチェックでは、就任承諾書などに記載した新任役員の住所などと、本人確認証明書などの記載内容の整合性を確認します。そのため、役員が就任に伴って転居した場合などは、本人確認証明書などの住所が転居前のものとなっていたりしないか(住所が相違していないか)確認するようにしましょう。

ちなみに、就任承諾書に押印した印鑑と、本人確認証明書に押印した印鑑は相違していても問題ありません。

2.手続きのポイント2:辞任を伴う場合の添付書類

新任役員の就任が前任役員の任期満了に伴う場合は、原則、前述の書類で登記手続きをすることができます。一方、前任役員が任期途中で辞任した場合は、当該役員の辞任届を添付しなければなりません。

辞任届に押印する印鑑は、当該役員が代表取締役など(法務局で印鑑の届出を行った人)ではない場合は、どの印鑑でも問題ありません。しかし、当該役員が代表取締役などの場合は、2015年2月27日から次のいずれかでなければならないため、注意が必要です。

  • 法務局に届出を行った印鑑による押印
  • 代表取締役などの個人の実印による押印+当該実印の印鑑証明書

4 (参考)株式会社の場合の登記すべき事項

画像1

以上(2019年4月)
(監修 ベリーベスト法律事務所 弁護士 高橋敬太郎)

pj60059
画像:photo-ac

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です