書いてあること
- 主な読者:社内不正を疑っている従業員、あるいは社内不正を発見した従業員
- 課題:誰に相談したらよいのか分からない。裏切り行為のようで気が引ける面もある
- 解決策:まずは自分でできる範囲で調査し、証拠を集める。次に、自分に及ぶリスクを理解し、通報先を選択する
1 社内不正を見つけてしまったら……
粉飾決算、資産流用、利益相反取引、品質偽装、情報漏洩、ハラスメント……。残念ながら企業内の不祥事は後を絶ちません。皆さんの会社ではどうですか? もしかすると「あれ、これって不正かも?」と感じることがあるかもしれません。
しかし、確証が得られないうちに話を表に出すことははばかられますし、内部不正を暴くことは、お世話になった会社や同僚への「裏切り行為」のように感じられるかもしれません。実際、こうした事態に直面した人たちの中には、自分で問題を抱え込み、たった一人で思い悩んでしまうこともあります。
ただ、
忘れてならないのは、不正は不正である
ということであり、皆さんはしかるべき対応をしなければなりません。この記事では、
社内不正を発見した場合に、具体的に何をすればよいのか
について弁護士が解説します。また、この記事は従業員向けですが、経営者は社内不正を防ぎ、万一の場合はすぐに正しい対応を取りたいと考えているはずです。ですから、この記事を、従業員の皆さんも読んでいただくことをお勧めいたします。
2 初動対応を間違えると自分が不利益を被ることも
社内不正を発見した皆さんは、不正に対する怒りから「今すぐに監督官庁などに通報してやろう!」と思うかもしれません。しかし、ここは慎重になってください。なぜなら、
従業員は、会社に対して誠実に業務を行う義務や秘密を保持しなければならない義務
を負っています。むやみに通報するとこの義務に違反してしまい、会社から解雇、降格、配置転換などの処分を受けるかもしれません。場合によっては会社の信用を低下させたとして、損害賠償請求を受けたりすることだってあり得ます。
一方で、
公益通報者保護法(以下「法律」)では、一定の要件を満たした場合に限り、内部告発を理由に従業員に対する不利益な扱いをすることを禁止
しています。保護の対象となるのは、法律に違反する犯罪行為や最終的に刑罰につながる行為に限られます。さらに、
- 社内への通報(内部通報)
- 行政機関への通報(行政通報)
- その他外部への通報
といった順で保護要件が厳しくなります。
保護されるための要件の1つは、
社内不正について「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」
です。これを真実相当性というのですが、この要件を満たすためにも、
まずは、事実関係の調査と証拠の収集
をしなければいけません。
証拠の収集方法は不正のタイプによってさまざまですが、
- 電子ファイル、メール、スクーリンショットなどでPCにデータ保存する方法
- 画面や書類などをスマホで撮影する方法
- 不正行為をしている当事者の会話を録音する方法
などがあります。ただし、ドラマに出てくるような自分の閲覧権限を超えたデータにアクセスするなどの行為は絶対にしてはいけません。悪いことを追及するのだからルールを破っても許されるだろうと考えるかもしれませんが、その行為も同様に不正なのです。
とはいえ、自分の権限が及ぶ範囲内の事実調査、証拠収集には限界があります。立ちゆかなくなったら、「内部通報」と「外部への通報」のいずれかを検討しましょう。
3 通報することを決めたときに取るべき方法
1)内部通報
優先的に考えるべきは内部通報でしょう。最も身近な相手は直属の上司です。上司が取り仕切る部署内での社内不正であれば、適切で素早い解決が期待できます。問題は、その上司が不正に関与しているケースがあるということです。また、当事者でなくても、上司が自分の部署の不正が明るみになることを恐れて隠蔽するケースもあるでしょう。
このような場合、まず自社に内部通報制度が整備されているか確認してください。整備されていれば、内部通報窓口として、社内の人事部や法務部、外部の法律事務所などが設置されていますので、そこに相談をします。
内部通報制度が整備されていない場合は、人事や総務部門の担当役員、責任者への通報が考えられます。会社の規模によっては直接代表者に通報してもよいでしょう。ここでは、
誰であれば自分を守ってくれるか
という観点から、通報先を選択しなければなりません。
皆さんが注意しなければならないのは、
通報者の特定により不利益を被るリスクがある
ことです。内部通報を受けた会社は、通報された不正行為が事実なのかについて内部調査をしますが、その過程で誰が通報したかが推測されます。小さな会社ならすぐに分かるでしょう。その結果、あってはならないことですが、内部通報者が「裏切り者」として、不利益を被ることが想定されます。
これを防ぐためには、通報は匿名で行い、内部調査の際は、通報者を推測できるような情報を調査対象者に明らかにしないように依頼することが考えられます。ただし、こうして情報を絞ると、内部調査が進みにくくなることも事実であり、この点に対する一定の留意は必要です。
2)外部への通報
内部通報によって会社から不利益な扱いを受ける恐れがあったり、社内不正が組織的に行われていて、自浄作用が期待できなかったりする場合は、行政(中央省庁など)への通報や、その他外部(マスコミなど)への通報を検討することになります。
注意すべきなのは、
自分一人の判断で外部への通報を決断しないこと
です。なぜなら、前述した通り、外部への通報で法律の保護対象となるのは、その社内不正を「信ずるに足りる相当な理由(客観的に不正が行われていると認められる証拠などがそろっていること)」がある場合に限られるからです。また、通報先がマスコミなどの場合、より厳しい要件を満たさなければ保護の対象となりません。
法律上の保護対象となるか否かの基準はケース・バイ・ケースなので、事前に弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。弁護士会によっては、内部告発の相談窓口を設けているところもあり、これを利用することも考えられます。
以上(2021年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)
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