デザインにはトレンドがあります。話題の飲食店の内装からアプリのUIに至るまで、あるデザインがはやると、それをまねたものが出てきます。せっかく試行錯誤したデザインを守りたい。そんなときに活用できるのが、「意匠権」です。
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1 意匠権とは
意匠権は、意匠について特許庁に意匠出願して、審査をクリアした後に登録することで取得できます。
意匠とは、いわゆるデザインのことであり、意匠権の対象となるのは、
1.物品・建築物・画像の、2.形状・模様(+色)という2つの要素からなるデザイン
です。デザインの権利といえば、著作権をイメージするかもしれませんが、著作権は純粋美術が対象であるのに対して、意匠権は工業上利用できるデザインが対象です。どのようなものが意匠に該当するのか? など意匠の詳細は、後述する「3 意匠権の対象となる意匠が満たす4つのこと」で紹介しています。
意匠権の取得には、次のようなメリットがあります。
- 意匠権の存続期間中は、意匠権者(意匠権を持つ権利者)だけが、そのデザインを独占排他的に実施することができる
- 意匠権の侵害があった場合、特許権者は侵害者に対して差止請求権、損害賠償請求権などの権利を行使することができる
- 自社のデザインを使用したいという他者とライセンス契約を結び、ライセンス料を得ることができる
- 意匠権=自社にしかないデザインであることを広くアピールでき、ブランディングに役立つ
意匠権の保護期間は、出願から25年(2020年3月31日以前の出願は登録から20年)をもって満了します。
2 意匠出願で注意すべきこと
1)一意匠につき一出願
原則として、意匠ごとに出願をすることになります。例えば、自動車とそのおもちゃのように、デザインが同じようなものでも物品が異なる場合、それぞれの出願が必要です。
ただし、例外もあり、次のような場合は1つの意匠として出願できます。
- 組物意匠:フォークとナイフのように同時に使用される2以上の物品
- 内装の意匠:複数の物品や建築物、画像から構成される内装の意匠
また、1つの意匠ではないものの、「関連意匠」という制度があります。この制度は、出願人が同じであることを条件として、類似する複数の意匠を関連意匠として出願することができ、それぞれの意匠について意匠登録を受けることができます。
ヒット製品のデザインなどは、製品の一部分だけを変更して、デザインがまねされる場合があります。関連意匠を登録しておくことで、より広い範囲で権利侵害に対抗できます。
2)戦略的な意匠出願が重要になる
前述した通り、関連意匠を活用することで、広い範囲で権利侵害に対抗できます。ただし、出願時や更新時のコストや手続きに手間がかかるため、どの意匠について関連意匠で権利を取得するのかは、しっかり検討する必要があります。
また、意匠には、最長3年を限度として意匠の内容を公表せず秘密にできる「秘密意匠制度」があります。この制度は、意匠の創作後、すぐに製品化しない場合も利用できるので、製品化と並行しながら出願をしておき、製品販売時には既に意匠が保護されるようにしておくなどの準備もしておきましょう。
3 意匠権の対象となる意匠が満たす4つのこと
意匠法が定義する「意匠」とは、次の4つを満たしているものになります。
1)物品、建築物または画像と認められるものであること
意匠法上の物品、建築物または画像とは次の通りです。
- 物品:有体物であり、市場で流通する動産
- 建築物:
1.土地の定着物であること、
2.人工構造物であること(土木構造物を含む) - 画像:
1.物品または建築物の一部でないこと、
2.操作画像または表示画像に該当すること
2)物品、建築物または画像自体の形状等であること
物品などそのものが有する特徴または性質から生じる形状等でなければいけません。従って、ナプキンをたたんで作った花の形態やネクタイの結び目などは該当しません。
3)視覚に訴えるもの
意匠は、視覚(肉眼)で認識されるものでなければなりません。顕微鏡で拡大しないと認識できないような物品、例えば、粉状物の粒一つ一つといった微細なものは該当しません。
4)視覚を通じて美感を起こさせるもの
意匠は、見た者に美感を起こさせるものでなければなりません。従って、機能、作用効果を主目的としたもので、美感をほとんど起こさせないものや、意匠としてまとまりがなく、煩雑な感じを与えるだけで美感を起こさせないものは該当しません。美感は、芸術作品のように高度な美を要求するものではなく、何らかの美感を起こさせるものであれば十分とされています。
4 意匠権を取得することができる意匠の要件
前述した、意匠の定義を満たすだけでなく、次の4つに該当しなければ、意匠権は取得できません。
1)工業上の利用可能性を有していること
意匠権を取得するためには、その意匠が工業上利用できるものでなければなりません。なお、ここでいう「工業上利用できる意匠」とは、工業的(機械的・手工業的)な生産過程を経て、反復して量産できる製品の意匠をいいます。
例えば、絵画などの美術品、盆栽など自然物を意匠の主体にしたもので、量産できないものは工業上利用できる意匠には該当しません。
2)新規性を有していること
意匠登録出願前に、出願の意匠と同一または類似の意匠が公に知られていないことが求められます。「紙面で公表した」など、自ら広く世間に知らしめた場合も、原則として公表後に出願した意匠は新規性のないものとして取り扱われます。
ただし、自ら公知した日から6カ月以内に出願するとともに、所定の手続きを行うことで、意匠登録を受けられる場合もあります。
3)創作性を有していること
新規性を有する意匠であっても、当業者(意匠の属する技術分野において通常の知識を有する者)が容易に創作できると判断された意匠は、意匠登録を受けることができません。例えば、「エッフェル塔を模しただけの置物」などが該当します。
4)先願であること
同一または類似の意匠について2つ以上の出願があった場合、先願の意匠登録出願人の出願のみが意匠登録されます。もし、同日に2つ以上の出願があった場合は、意匠登録出願人同士の協議によって、一方の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができます。協議が成立せず、または協議をすることができないときは、いずれも、その意匠について意匠登録が受けられません。
出願前には、同様に同一または類似の意匠がないかについて、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を利用して、先行調査をしておきます。
この他、各国元首の像や国旗、皇室の菊花紋章や外国の王室の紋章などを用いたもののように、公序良俗に反するものおよび他人の業務に係る物品、建築物または画像と混同を生ずる恐れのあるものは、公益的な見地から意匠登録を受けることができません。
5 意匠権を取得する際の手続き
意匠について意匠権を取得するためには、特許庁長官に対して意匠出願を行わなければなりません。意匠出願から意匠権取得までの流れは次の通りです。
出願後、一次審査通知までの期間は平均6.3カ月であり、出願から権利化までの期間は平均7.1カ月の期間を要します(2020年度)。
しかし、特許庁では「早期審査」という制度を設けており、通常よりも短期間で審査の通知が届く制度があります。審査の通知が届くまでの期間は、早期審査の場合は平均2.5カ月です。早期審査の対象は、権利化について緊急性を要するものなどの要件があります。詳細については、特許庁のウェブサイトで紹介されています。
また、意匠登録出願の際には、所定の書類を特許庁に提出しなければなりません。意匠登録出願時に必要となる書類は次の通りです。
意匠出願の際には、1万6000円(定額)を特許庁に納付します。
また、審査をクリアした後、意匠登録料の納付が必要です。意匠登録料は、登録第1年から第3年までは毎年8500円、登録第4年から第25年までは毎年1万6900円です。
取得のための手続きや出願費用などの詳細は、特許庁のウェブサイトで紹介されています。
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以上
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)
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